春風亭昇々自分インタビュー

2017/11/14 11:35 春風亭昇々 春風亭昇々


落語家の春風亭昇々です。




またコラムの締め切りが迫って来ました。
月初になると、担当の人から「締め切りが過ぎています」というメールが来るのが恐怖で仕方ない。来るメールもだんだん気を使わない素っ気ないものになっているような気がする。いっそのこと「昇々さん、もういいですおしまい!」と言ってもらえればどんなに気が楽かと思うんですが、根気よく続けさせてもらっている。ありがたいことです。

ありがたいのですが、何を書けばいいのか分からない。期待に答えなければ、という気が起きるのですが、いかんせん何も出てこない。考えれば考えるほどアイデアが浮かばない。落語界本音シリーズももうネタがない気がする。でも中途半端なものを書いてお茶を濁すこともできない。前座さんの生活はこうですよーとか落語の楽しみ方ってこうですよーとかありきたりなものを書くことはいくらでもできるけど、そんなのは散々やられているし、読んでもつまらないと思う。かと言って、他に書くことがあるかと言えば、ない。

それに加えて、仕事(落語会)がある。落語を創り、落語を覚え、落語をしなければならない。これを書いている今だって福岡行きの飛行機内で書いてるんだもん。仕事の合間を縫ってアイデアをひねり出さないといけない。これも仕事なんだけど。

とまあ前置きはこれくらいにしましてですね。今回は自分で自分にインタビューしてみました。なんでそんなことをしようかと思ったかというと、インタビューって質問者がしたい質問をし、受け取った答えを自分のフィルターで解釈して記事にするじゃないですか。インタビュー受けるこっちだって、こういうこと言ってほしいんだろうなとか、こういう言い回しの方がカッコいいかなで答えることもないわけではない。それが悪いわけではないし、こっちも嘘を言っているわけではないんだけど、本音よりニュアンスがちょっと変わるのは否めない。なので、フィルターなしのものができないかと思ったからです。ありそうでなかった自分インタビューどうぞ。





昇々「おはようございます。それでは昇々さん、インタビュー宜しくお願いします。」

昇々「眠いです。」

昇々「え」

昇々「朝早かったから眠いです。少し寝てもいいですか。今から落語会だし、機内で体調を整えたい。」

昇々「いや、ちょっと。いきなり何ですか。本音すぎでしょ。コラムの締め切り過ぎてるから飛行機で済ませちゃいましょうよ」

昇々「適当に書いていて。」

昇々「そんなことできないですよ。」

昇々「」

昇々「あ、寝た」

(1時間後。)

昇々「ちょっとちょっと」

昇々「、、、ぐーぐー、、ぬぬ、、、え、なに」

昇々「コラム書かなきゃ」

昇々「コラム?」

昇々「うん。締め切り過ぎてるから。早く書かなきゃ。」

昇々「書いといて下さいよ」

昇々「なんでだよ!私がインタビューするから答えて!」

昇々「そんなに怒んないで下さいよ。分かりましたよ。」

昇々「じゃあ改めて、宜しくお願い致します。」

昇々「はい。」

昇々「なんで落語家になったんですか?」

昇々「またその質問ですか。もう何百回もきかれたなあ。だから大学卒業したら就職しなきゃいけないでしょ?落語が好きだったから落語家になったんです。悪いですか。」

昇々「別に悪くはないですけど。色々就職先もある中で、昇々さんはなんで落語を選んだんですか?」

昇々「なんとなくです。好きだから。今日のご飯考えるのに理由なんかあります?カレーが好きだからカレーにするんです。理由なんかない。いちいち理由聞くのは現代人の悪い癖ですよ。」

昇々「昇々さんにとって、落語ってなんですか?」

昇々「落語は落語。」

昇々「え」

昇々「落語が落語じゃなくてなんなんでしょうか。「私にとって落語はカキフライ」だったらこわいでしょ?それとも、「落語はお坊さんです、そのこころは、オチついてるから」とか言えばいいんですか。今のはたまたまですよ。落語家がみんな謎かけ得意だと思わないで下さいよ。またやれって言われても出来ないですから。」

昇々「いやそうじゃなくて、落語の魅力とか好きな部分を教えてほしいんだけど」

昇々「だったらそう言って下さい。回りくどい聞き方するから。」

昇々「すみません。」

昇々「シンプルなところです。シンプルなものは美しい。能、狂言、将棋、生花、茶の湯、日本刀、盆栽、、あげればキリがないですが、日本的なものはシンプルにできていて美しいものが多い。同じように落語もシンプルで美しく、簡潔なところが好きです。落語が世界最高の芸能だと思っています。制限があるゆえ、宇宙を表現できるから。」

昇々「宇宙ですか」

昇々「そう宇宙。セットがない故、衣装がない故、どこにでもいけるし何にだってなれる。」

昇々「なるほど分かる気がします。落語を見たことがない人達が初めて落語を見るための心構えとかってありますか」

昇々「そんなのないですよ。大したものじゃないから。格式張ったものにしてルールを作りたがる。体系化してマニュアルを構築したがる。面白かったら面白いしつまんなかったらつまんないんだよ。それだけ。」

昇々「そうですか、と言っても何か一つくらいありませんかねえ、、。」

昇々「意味を考えないことかな。考えたって意味なんかないんだから。」

昇々「意味を考えない、ですか。なるほどね。では次の質問。落語には古典と新作があると思いますが、昇々さんはなぜ新作落語をやられてるのですか?」

昇々「やったら悪いですか。」

昇々「え」

昇々「古典がスタンダードだと思わないで下さい。創ってやるのが当たり前でしょう。音楽だって画家だってお笑いの人だってみんな創ってるでしょう。こっちは当たり前のことやってるだけです。画家に「なんで絵描いてるんですか」って聞くんですかあなたは。少数派だから異端に見えるけどこっちはスタンダードやってるんだよ。」

昇々「怒らないで下さいよ。」

昇々「それと、新作とか言わないでくれます?すぐカテゴライズしたがるんだから。古典も新作もないんだよ。落語は落語なんだから。」

昇々「私が言ったわけじゃなくて昔からそうなってるから」

昇々「昔から?昔の人が偉いのか?昔がなんだってんだよ。昔の人が偉いなら「するってえと」とか言えよ。もっと遡って「マロはなになにでおじゃる」って言え。いや、もっともっと遡って「うほほ!うほほ!」って言え。アメーバになれ。」

昇々「そんな極端なこと言わないでくださいよ。じゃあ次の質問。昇々さんは高座で結構動き回りますよね。あれはなんでなんですか。」

昇々「動いちゃいけねえのかよ。だから意味なんかないんだよ。何度も言わせるなよ。変な顔とか動いたりしたら面白いからだよ。しちゃダメって誰が決めたんだよ。体全体を使って表現したいの。なんでかって?だからそう思うからだよ。意味なんか考えたことないよ。」

昇々「わかりました。それでは最後の質問。昇々さんの目標を教えて下さい。」

昇々「日本人みんなが「好きな落語家は誰々」っていえるようにしたいです。それぐらいポピュラーなものになればいいですね。」

昇々「そのためにはどうしたらいいんですかね」

昇々「多様性がないとダメじゃないですか。落語というのはこういうもの!ってしちゃうとその価値観が好きな人しか見に来ない。音楽と同じようにクラシックもヒップホップも演歌もあっていいと思います。落語の中にいろんなジャンルがあればみんなが各々好きなものを見つけられると思うんですよ。だって落語という芸能は世界一素晴らしいんだから。」

昇々「なるほどね。落語の中にもジャンルをというのは目から鱗でした。ありがとうございました。それではこのインタビューを読んでくださった皆さんに一言」

昇々「おい」

昇々「え」

昇々「お前さっきこれで最後の質問だって言ったじゃねえか。最後から何回質問するんだよ。」

昇々「すみません」

昇々「それとインタビューするならもっと調べてこいよ。一から質問するんじゃねえ。」

昇々「ち、ちょっとあなたね、さっきから聞いてればなんなんですかその言い方は!大人のマナーってものがあるでしょう。」

昇々「うるせえよ。俺は寝てたいんだよ。それをお前が無理やり起こしたんだろうが。お前の勝手で偉そうなこと言ってんじゃねえよ。」

昇々「な、なんなんだ君は!」

昇々「あーもうおしまい。やめやめ。」

昇々「ちょっとほんとふざけんなよ。マジでちゃんとやれ。」

昇々「うるせえ」

昇々「なんだてめえ」

昇々「やんのか」

昇々「あ?」

昇々「おうこら」

昇々「あ?」

昇々「あ?」

昇々「あ?」




(春風亭昇々)


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・春風亭昇々:
師匠は「笑点」司会の春風亭昇太。2011年4月に二ツ目昇進。
落語ブームを牽引する人気の若手二ツ目ユニット「成金」のメンバー。
2015年、2016年と2年連続でNHK新人落語大賞決勝にも進出し、2016年末には渋谷らくご大賞も受賞。2017年春からは「ポンキッキーズ」(BSフジ)の新MCに抜擢。「ミライダネ」(テレビ東京)にナレーターとして出演。
いま注目の若手落語家のひとり。Twitter:@shoshoa2011