三谷幸喜が『鎌倉殿の13人』で源実朝(柿澤勇人)暗殺事件をしつこく描きたい理由に、過去の大河ドラマで自ら演じた役にヒントがあった!

2022/11/25 17:45 龍女 龍女

三島由紀夫は実朝暗殺事件の登場人物の中で誰に共感できただろうか?

筆者はすぐにある人物が思い浮かんだ。
二つの小説で主人公になった人物にそっくりなキャラクターが。
遺作となった4部作『豊饒の海』の中の2作目、『奔馬』の主人公だ。
政治家を暗殺した後、18歳の若さで自刃する右翼青年の飯沼勲。
そして、市川崑が映像化した後述する日本文学の金字塔の主人公だ。
そう、これは公暁にそっくりなのである。


(三島由紀夫 イラストby龍女)

市川崑は東宝争議の影響で、東宝を離れ日活、そして1956年に大映に移籍する。
元アニメーターの市川崑は、映像重視の監督だった。
大映撮影所が誇る名キャメラマン宮川一夫と組みたかった。
日本映画黄金期だったので、市川崑と宮川一夫のコンビは数々の名作を生み出す。
三島由紀夫の小説『金閣寺』の映画化『炎上』(1958年)である。

正式名・鹿苑寺金閣は室町幕府3代将軍足利義満(1358~1408)が創建者だ。
将軍の座を長男の義持(1386~1428)に1395年に譲る。
大御所として1397年に建てた北山山荘がベースになっている。
義満の死後に寺となって今の形にいたる。
室町幕府の将軍で、官位がもっと高かったのは太政大臣まで出世した足利義満だ。
鎌倉幕府3代将軍源実朝より高く、武家では平清盛(1118~1181)以来の快挙だ。

原作小説『金閣寺』は1950年7月2日未明に起こった金閣寺放火事件からヒントにしたフィクションで、犯人の独白という形の一人称で描かれている。
映画化作品と原作は別物だ。
形式として倒叙ミステリーとしてみせる演出だけは共通している。
つまり読者・観客は最初から、主人公(溝口。2代目市川雷蔵が演じた)が金閣寺を燃やすことを知っている。


(60年代の市川崑 イラストby龍女)

三谷幸喜の代表作『古畑任三郎』や元ネタの『刑事コロンボ』と同じ形式。
のみならず、犯人が金閣寺の住職になろうとして挫折したことで凶行に及ぶという犯人の心理まで、鎌倉殿に成れないことに明らかになって公暁が実朝暗殺事件を起こす経緯までそっくり。

三島由紀夫の『金閣寺』と横溝正史の『犬神家の一族』の時代は全く同じ年だ。
小説の発表時期は、『金閣寺』が1956年と発表は遅い。
どっちも市川崑が映画化した事実は興味深い。

そして、1976年の『犬神家の一族』で事件の発端となる犬神佐兵衛を演じた三國連太郎は、『鎌倉殿の13人』上総広常を演じた佐藤浩市の父である。
公暁を演じる寛一郎は佐藤浩市の息子であり、三國連太郎の孫だ。
『鎌倉殿の13人』は権力を持ってしまった家族の呪われたドラマが展開されている。

では、『鎌倉殿の13人』で、金田一耕助的な存在は誰だろう?
暗殺直前の様子を見ると、
警護のリーダーの北条泰時(坂口健太郎)ではないか?
市川崑は、金田一耕助を天使のような存在と解釈している。
闇オチした主人公・義時に対し、まるで癒やしの存在なのが、酒に弱い泰時だ。

しかし、三谷幸喜は厳密には市川崑が演出した金田一耕助シリーズのファンだ。
『犬神家の一族』だけから影響を受けているわけではない。
今の『鎌倉殿の13人』は実質主人公は泰時だ。
実朝が泰時に恋の歌を贈って、見事に失恋した。
これを金田一耕助シリーズに当てはめると
実朝は『獄門島』の鬼頭早苗(大原麗子)に似ている。
分家ながら本家の鬼頭家を切り盛りする女性だ。
金田一耕助に好意を持っている。
獄門島から出たことがなく一緒に出たい、と告白する人物である。


さて、公式には三谷幸喜は『鎌倉殿の13人』の結末は、アガサ・クリスティのある作品を参考にしたと言った。
筆者はさんざん市川崑と金田一耕助シリーズについて書いたのに、どこが関係あるの?
と疑問に思うだろう。
しかし無関係ではない。
そもそも、横溝正史が書いた金田一耕助シリーズは、アガサ・クリスティの影響を大きく受けている。
アガサ・クリスティが創造したエルキュール・ポアロシリーズの長編は、上流階級のどろどろとした人間関係の中で、殺人事件が起こる。
横溝正史は、アガサ・クリスティの世界を日本社会に置き換えてきたのである。
三谷幸喜はエルキュール・ポアロを日本に翻案したシリーズをフジテレビのSPドラマとして何作も書いた。
市川崑も脚本家として夫人の和田夏十(本名は市川由美子。旧姓茂木。1920〜1983)と組むときは共同筆名「久里子亭(くりすてい)」名義を用いるほど、アガサ・クリスティの大ファンだ。
横溝正史の師匠筋の江戸川乱歩(本名は平井太郎。1894〜1965)は、筆名はミステリーの祖エドガー・アラン・ポーをもじった。
三島由紀夫は、江戸川乱歩の『黒蜥蜴』を戯曲化している。
ミステリー小説は書かなかったが、大ファンだったことは間違いない。

筆者は、『鎌倉殿の13人』の史実がどうだったか?
という議論は他におまかせして、主な興味は史実を材料として、どうやって物語として見せたいのか?
そちらの方に興味がある。
三谷幸喜が3作品とも大河ドラマを成功させてきた。
史実という結果がある。
それをどういう過程で見せていくのか?
まるで倒叙ミステリーのようなドラマを得意としている。
更に群像劇も得意としてきたからだ。
早く続きが知りたくて、結末まで目が離せない。
こんなドラマはまだ途中でも名作確定だ。


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