三谷幸喜が『鎌倉殿の13人』で源実朝(柿澤勇人)暗殺事件をしつこく描きたい理由に、過去の大河ドラマで自ら演じた役にヒントがあった!

2022/11/25 17:45 龍女 龍女

1976年に公開された映画『犬神家の一族』は、昭和25年頃の長野が舞台である。
(原作小説が発表された時代)


製薬業(原作は製糸業)で財をなした犬神家の創業者
犬神佐兵衛(三國連太郎)が亡くなった。

犬神佐兵衛邸で家族会議が行われた。
出席したのは、まずは実の子である犬神三姉妹。
長女・松子(高峰三枝子)
次女・竹子(三條美紀)
三女・梅子(草笛光子)。
竹子の夫で婿の寅之助(金田龍之介)
梅子の夫・幸吉(小林昭二)。
竹子の息子・佐武(地井武男)と妹の小夜子(川口晶)。
梅子の息子・佐智(川口恒)。
地元の神社の神主で野々宮大弐の孫・野々宮珠世(島田陽子)も何故か出席。
犬神佐兵衛が世話になった人物の孫である。
第三者は遺言状を管理する古館恭三弁護士(小沢栄太郎)と金田一耕助。

私立探偵の金田一耕助(石坂浩二)の依頼人は、古館弁護士事務所の若林(西尾啓)だった。
金田一耕助への依頼は
「近頃、犬神家に容易ならざる事態が起こりそうなので調査して欲しい」
だった。
早速、若林が何者かに殺された。
この家族会議には、一人だけ遅れて出席した者がいた。
未亡人で長女の松子の大事な一人息子・佐清(あおい輝彦)だ。
ビルマ戦争から復員して顔に大けがして、ゴム状のマスクをしたまま出てきた。

古館弁護士から発表された遺言状には
「全相続権を示す犬神家の家宝“斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)”の三つを、野々宮珠世(佐兵衛の終世の恩人たる野々宮大弐の唯一の血縁、大弐の孫娘)が佐清、佐武、佐智の佐兵衛の3人の孫息子の中から配偶者を選ぶことを条件に、珠世に与えるものとする」
と書かれていた。

家族会議は騒然となった。
犬神家の遺産は分散相続されない。
実際の鍵を握る人物は戸籍上は全くの他人の野々宮珠世である。

若林は既に内容を知ってしまい、金田一耕助に助けを求めていた。
ところが、これは犬神家の遺産相続をめぐる惨劇の始まりに過ぎなかった…。


と言ったところで、どこが『鎌倉殿の13人』の実朝暗殺事件と関係があるのか?
解説していこう。

鎌倉幕府の3代将軍実朝が抱える問題とは、直系の後継者がいない。
ドラマ上では同性愛者で、史実上は大人になってから疱瘡にかかり、生殖能力が弱かったからであろう。
側室も持たなかった。
次期将軍の候補は本来なら二人である。

一人目は公暁(寛一郎)
二代将軍頼家の次男で、母が辻殿で頼家の縁戚(頼家の大叔父・為朝の孫で、頼家の又従姉妹)にあたる名門の出である。
しかし、次期鶴岡八幡宮の別当に確定しており、僧侶として一生を終える予定になっていた。


(公暁を演じる寛一郎 イラストby龍女)

第2候補は阿野時元(森優作)。
実朝の乳母で北条政子の妹阿波局(宮澤エマ)の実子である。
父親の阿野全成(新納慎也)は初代将軍頼朝(大泉洋)の異母弟。
時元は、源氏の血を引き、鎌倉随一の豪族北条氏の血を引いていた。

しかし、実朝は鎌倉殿の責任を重く感じていた。
鎌倉の御家人同士の内紛を収める役割を担っている。
近親の二人を後継者に指名すれば再び内紛の火種になりかねない。
そこで超越した存在、後鳥羽上皇の息子で皇太子の資格に遠かった親王の誰かを4代目鎌倉殿に指名することが最良の選択と判断した。
次期将軍を迎えるために、大御所として実朝の官位は上昇する必要があった。
その為の拝賀の儀式だったのである。

『犬神家の一族』との共通点は、後継者として一見血縁者にみえないが、本家よりも格のたかい家柄の持ち主を後継者に指名した構図である。
鎌倉殿の後継者候補で実朝の妻を通じ縁戚の六条宮雅成親王か冷泉宮頼仁と同様だ。
実は犬神家の後継者に指名された野々宮珠世も、徐々に犬神家の血縁者なのが明らかになっていく。
殺人犯は自分もしくは自分の子供が後継者になりたいという欲望にあらがえなかった。

筆者は、どうして実朝暗殺事件のドラマ化にあたって市川崑が演出した『犬神家の一族』にヒントを貰ったと考えるのか?
実は若き日の市川崑は、あの文豪と接点があり実朝と大いに関係があったからだ。

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