『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督がアカデミー賞脚色賞を取れなかった3つの理由とは?

2022/3/31 22:00 龍女 龍女

①脚色賞を取れなかった理由

その3 メソッド演技への挑戦状をたたきつけたから

日本国内では、あの井筒和幸(1952年12月13日生れ)監督が酷評した。
「ただ陰気な恨めしい顔した男や女に3時間もつき合わされて、何の感情も湧き起こらずじまいで不可解でならなかったのはオレだけか。
原作が村上春樹、チェーホフの演劇ネタ、幼子を亡くした妻や不幸な女、アジア人、障がい者、皆が何かに悩んでるという項目を並べたら海外の映画人に受けるというのだけは分かったが。
楽しくも何ともない「悩みの相談室」みたいな映画研究会モノは苦笑いもできなかった。
映画は一場面でも笑ってもらってナンボだろが」 (日刊ゲンダイ2022年2月19日付 井筒和幸の喜怒哀楽劇場より引用)

井筒和幸が絶賛するハリウッド映画の代表格は、
今回の授賞式でとりあげた公開50周年を迎えた
『ゴッドファーザー』である。
ドン・コルリオーネを演じたマーロン・ブランド(1924~2004)。
息子のマイケル・コルリオーネ役のアル・パチーノ(1940年4月25日生れ)。
『ゴッドファーザーパート2』でドンの若い頃を演じたロバート・デ・ニーロ(1943年8月17日生れ)。
3人ともアメリカにおけるメソッド演技の最高峰の学校、
アクターズ・スタジオ出身の俳優である。
特にアル・パチーノは、アクターズ・スタジオの共同経営者の一人である。
現役バリバリの俳優では、ブラッドリー・クーパー(1975年1月5日生れ)がいる。
未だに映画芸術アカデミーでは会員数最多の構成の俳優にとって、メソッド演技は主流の演技法だ。

フランスの映画監督ジャン・ルノアール(1894~1979)の演技指導を元にした「濱口メソッド」の演技法に驚いたはずである。
本読みをひたすら棒読みで繰り返す。
台詞を俳優の身体にしみこませて必要最低限の感情で表現できるようになる。
役の感情よりも、シナリオの書かれている台詞を重視する。
『ドライブ・マイ・カー』に登場した高槻耕史(岡田将生)は、主人公家福悠介(西島秀俊)の演出法と対局にいる演技をする登場人物だ。
徐々に主人公に感化されていく。
シナリオの構造上、テーマを際立たせるための悪役に配置されている。
最初の方は明らかにメソッド演技の信奉者にみえる。
単に好みの問題では無く、井筒監督の演出法の否定にも繋がりかねない。

『ドライブ・マイ・カー』を実際観てみて
「つまらない」
と思った人も一定数いた。
日本では、井筒監督だったことに象徴されているように、感情の起伏が激しいドラマになれた観客からしてみればそうに思えただろう。

メソッド演技の欠点は、台詞の言い回しよりも役の感情に寄り添いすぎてしまう。
今回の授賞式で、事件が起こった。
ウィル・スミスがプレゼンターのクリス・ロックを平手打ちした事件である。
クリス・ロックが妻のジェイダ・ピンケット・スミスの脱毛症で丸刈りにした髪型をいじったジョークをしたのが気に入らなかったせいだ。
主演男優賞を獲得した『ドリームプラン』の中でこんなエピソードが描かれる。
主人公のリチャード・ウィリアムズは、娘を脅したギャングのリーダーに腹を立てて銃を持ってギャングがいる店に近づく。
すると先に何者かが、ギャングのリーダーを射殺して、リチャードは殺人をせずに済んだ。
家族を守るために暴力も辞さない男であるが、果たしてそれは本当に女性や家族への愛情か?
授賞式全体で、厳しく罪を問われた問題が
有害な男らしさである。
ウィル・スミスは役の感情に寄り添いすぎたために、公式の場でやっては行けない行動を起こした。

更にやり過ぎると、演者本人の生死に関わる。
その一例とみられているのが、『ダークナイト』でジョーカーを演じ、助演男優賞(2008年度)を獲得したヒース・レジャー(1979~2008)である。
ジョーカーを熱演しすぎたために28歳の若さで死んだと噂されている。
2008年1月22日。ニューヨークの自宅で全裸で遺体として発見された。
睡眠薬中毒で、更にインフルエンザにかかっていたので、薬を飲み過ぎた。
急性薬物中毒による事故死である。
直接的な死因に繋がらなかったが、以前からの薬物中毒に拍車をかけた可能性は否めない。
特に、メソッド演技の中でもデ・ニーロ・アプローチをする場合が厄介だ。
俳優本人と別人の体型に肉体改造する事を強いられる。
身体の負担が大きいという話は
『レンアイ漫画家』の鈴木亮平の体が心配?日本では彼が実践している「デ・ニーロ・アプローチ」とは?
で取り上げているので、参照してほしい。

一方で『ドライブ・マイ・カー』は国際長編映画賞は予想通り獲得した。
最後にその理由について、考えてみよう。

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