『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督がアカデミー賞脚色賞を取れなかった3つの理由とは?

2022/3/31 22:00 龍女 龍女

①脚色賞を取れなかった理由

その1 テキストの女性の描き方に問題あり。

男性作家特有の女性キャラクターの描き方に問題があった事を払拭できなかった。
正直言って、筆者が村上春樹を読まなくても分かる創作の傾向としてよくある事だ。

筆者は、プロのライターを養成するシナリオセンターで勉強を約10年ほどしていた。
他人の作品を聞いて自分の作品をプロレベルにまで引き上げる方法、つまり推敲の適切なやり方を学んだ。

プレゼンの場でいつも論争になるのが、男性の作者が書く女性の性的描写である。
何が問題点かというと、どうして女性がそういう性的行為をしたか、何故そういう行為に巻き込まれたか?
その感情に至る行程が描けない男性が多い。
『ドライブ・マイ・カー』の最大の問題点は、音(霧島れいか)は何故夫の家福悠介(西島秀俊)を含め複数の男性と性的関係をしていたか?
彼女の心情が最後まで明かされない。
もし明かされていたら、ただのミステリーになってしまうので仕方が無い選択ではあった。

しかし、作品が嫌われた可能性もあるので、残念である。

映画は亡き妻の嫌な部分も含めてちゃんと向き合って未来へ進むところで終わる。
しかし消化しきれない問題があった。
筆者も女性であるから、映画で描かれなかった音の浮気の動機を容易に推測できる。
悠介と音は一人娘を若くして亡くしている。
家族は夫婦二人しかいないから、余計に仲良くしていくしか仕方が無い。
しかし、悠介はおそらく娘を亡くした前後に、別の女性と浮気をしたことがあるのでは無いか?
それがたった一度の過ちでも女性は恨みとして忘れることはない。
復讐として、他の男性と浮気をしているうちに止められなくなってしまったのでは無いか?
この夫婦は40代後半で、二人とも元々俳優で同世代の人よりも体力がある。
度々指摘しているように俳優はアスリート並みの訓練を施した季節労働者である。
エネルギーを一人の人に注ぐのは難しい。
浮気をしない既婚男性は、浮気の代わりに趣味や仕事に時間を費やしているだけである。

「夫婦円満の秘訣はできるだけ一緒にいないこと」
と言う有名な言葉もある。
しかし、今は一緒にいてほしいときに、一番大切な人がそばにいなかった場合。
不安になった人はたまたま近くにいた人を頼ってしまうかもしれない。


(『ドライブ・マイ・カー』の1シーン イラストby龍女)

濱口竜介監督も候補になった今回の監督賞の受賞者は
ジェーン・カンピオン(1954年4月30日生れ)であった。
彼女も脚色賞の候補者でもあった。
若い頃の代表作、1993年の『ピアノ・レッスン』はカンヌ映画祭のパルムドールである。
アカデミー賞で、脚本賞(ジェーン・カンピオン)と助演女優賞(アンナ・パキン)と主演女優賞(ホリー・ハンター)の3部門を獲得した名作である。
口がきけなく、手話で話す主人公をホリー・ハンターが演じた。
再婚するためにニュージーランドへ渡った英国人女性で、連れ子の少女をアンナ・パキンが演じた。
彼女のもう一つ伝達の発露がピアノである。

筆者は高校生として一番洋画を熱心に見ていた時期の作品だ。
新潮文庫で出た脚本を買った。
今回の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』より好きである。

今回の脚色賞受賞作品は、女性目線が好かれた。
時代の巡り合わせか『ピアノ・レッスン』と同じく音楽と手話が物語に関わる作品が、脚色賞を獲得した。

受賞作品は『コーダ あいのうた』である。

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