ゆるい・かわいい・たのしい だけじゃない!【日本の素朴絵】展は底力がすごい!

2019/7/25 10:00 虹

2019年上半期、日本美術界に大旋風を巻き起こした「へそまがり日本美術」(府中市美術館)展。
惜しくも5月に閉幕となりましたが、今でも図録を見返し、懐かしんでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
▶【衝撃の破壊力】「へそまがり日本美術」展を見逃すな!


きっちりかっきり描かれた絵は好きだ。
でも、どこか完璧ではない、味のある絵も大好きなんだ……!

──という、内なる想いを秘めている皆さまに朗報です。





7月6日より三井記念美術館にてスタートした特別展「日本の素朴絵 ―ゆるい、かわいい、たのしい美術―」は、古くから日本に伝わる穏やかなタッチで、おおらかに描かれた作品たちを紹介する展覧会。
「ユルく」「味わい」のある表現で描かれたこのような絵画を「素朴絵」と称し、様々な時代・形式の作品を紹介することで、新しい美術の楽しみ方に触れることができる内容となっています。


◆素朴絵とはなんだ!?

本展のタイトルにもなっている「素朴絵」。字面からなんとなく想像できるものの、どういったものを指すのでしょう?


▲《つきしま絵巻》※部分 二巻 室町時代(16世紀)日本民藝館蔵

本展では「素朴絵」をファインアート(芸術的価値の高いもの)の対義語として捉え、解説しています。
中国からの影響を多分に受けてきた日本美術。リアルな表現、誰もが唸る見事な造形、「上手く」「きれい」「美しい」「仰ぎ見るもの」をファインアートとするならば、上手くはないのに何故か惹かれてしまう、「かわいく」「親しみ」のある「不思議な味わい」を持ったものが「素朴絵」にあたるというわけです。


▲《かみ代物語絵巻》※部分 一巻 室町時代(16世紀) 西尾市岩瀬文庫蔵

本展を監修された矢島新先生(跡見学園女子大学教授)によると、古墳時代など原初は「絵」にあたる言葉自体が無かったとのこと。「絵」という字がもたらされたのは中国からで、すなわち「絵」という概念もここから発生したと指摘しています。

「絵」が日本に輸入された頃、すでに中国では高いレベルのリアリズムが確立されていました。それを見て学んだ日本の仏画や仏像も、奈良時代にはファインアートと呼んで差し支えない領域に到達します。
続く平安時代の絵画はデザイン性を追求するものが多く、また鎌倉時代では運慶などが支持されたことから分かるように、リアリズム重視の時代となりました。しかし鎌倉時代の終わり頃から徐々に「素朴絵」が姿を現し始めます
その多くは主に寺社による勧進活動、つまり布教のための「絵」でした。識字率の低かった時代、絵は何よりもわかりやすい言語だったのです。


▲《雲水托鉢図》南天棒筆 対幅 大正時代 こちらは大正時代のものですが、南天棒は臨済宗のお坊さん。敷居が高そうな仏教のテーマを「ゆるく」描く系譜は、昔から脈々と続いていることがよくわかります。


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