ゆるい・かわいい・たのしい だけじゃない!【日本の素朴絵】展は底力がすごい!

2019/7/25 10:00 虹

◆人類はもう二度と「生粋の素朴絵」を描くことはできない

「意図的でない素朴な絵というものを、もう再び人類は描くことができないだろう」

本展監修者の矢島先生はこう仰います。
現在、私たちの身の周りには、素朴で愛らしい絵柄のイラストやグッズが多数存在します。しかしどんなにそれらが素朴な味わいを持っていても、上で記したような素朴絵とは根本的に異なります。

それはなぜか。

知識人たちによる素朴絵はさておき、「日本の素朴絵」展で扱っている作品は、美術の教育を受けていない人たちによるものがほとんどです。
対する現代に生きる私たちは、義務教育の過程で「美術」を履修します。つまり、その時点で誰もがファインアートを吸収していることになるのです。
また、たとえ教育を受けなかったとしても、身の回りに溢れる優れた美術によって無意識のうちにファインアートに触れていると言っても過言ではありません。


▲《十三王図屏風》八曲一隻 江戸時代(17世紀) 日本民藝館蔵

物心ついたときには、既にファインアートに触れている──これが悪いことだとは思いません。しかしどういった形であれ、「美術」というものを知ってしまっている時点で、第1章で見たような素朴絵は描けません。描けたとしても、それは「素朴な絵柄を知っている人の絵」になるのです。

そうなると、もはや生粋の素朴絵は絶滅したと考えることもできるのではないでしょうか。だからこそ私たちがこれらの絵に対し、言葉にはできないような愛おしさを強く感じてしまうのかもしれません。



脈々と続いてきた私たちのルーツの中には、「へそまがり」だったり「素朴」だったりと、一筋縄ではいかない感性を愛する感覚が根付いています。
矢島先生曰く「わび茶がピークに達した時代と、素朴絵がたくさん生まれた時代はリンクする」とのこと。なんだか不思議な感じもするけれど、天下人であれ庶民であれ、我々にはやはりそういったものに強く惹かれる感性があるということなのかもしれませんね。

見るだけで思わず微笑んでしまう「素朴絵」たち。

この先もずっとこの不思議な感覚が失われず、ゆるかったり、かわいかったり、楽しかったりするものに心ときめかせる感性が続いていきますように。


特別展 日本の素朴絵 ─ゆるい、かわいい、たのしい美術─
【東京展】
会期 ~ 9月1日(日) 月曜休館(臨時休館有 詳しくはサイトにて)
会場 三井記念美術館
時間 10:00~17:00(最終入館 16:30)
三井記念美術館 ホームページ

【京都展】
会期 2019年9月21日(土)~11月17日(日)
会場 龍谷大学 龍谷ミュージアム
龍谷大学 龍谷ミュージアム ホームページ




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