元アイドル・現オタクだからこそ分かることを伝えたい :阿久津愼太郎(ライター/男性アイドル評論家)【K-POP沼にハマった人たち 第5回】

2019/2/18 11:00 西門香央里 西門香央里





今、K-POPアイドルやアーティストを好きな皆さんも、「K-POPにハマったキッカケ」はあったはず。あなたはどんな風に好きになりましたか?その理由ってどんなものでした?で、自分以外の誰かが、どうしてK-POPハマったのかって、ちょっと興味がありますよね?

この連載「『K-POP沼』にハマった人たち」は、K-POPの「沼」にハマったキッカケと理由を様々な業界で働くファンの方達にインタビューする企画。久しぶりの5回目の今回は、元アイドル・俳優で現在はYouTubeの配信や、コラムの執筆などで活躍している「あくにゃん」こと、阿久津愼太郎さんの登場です!


▲阿久津さんのYouTubeチャンネル「あくにゃんちゃんねる!」

自分もかつてはアイドルをしていたという阿久津さん、現在はK-POPアイドルを中心としたグループの「オタク」をしており、彼の発信する「元アイドル・現オタク」としての言葉は、多くのオタクたちの共感を得ています。そんな彼がなぜK-POPの沼にハマったのか、聞いてみました。


■衝撃的だったBOYFRIENDとの出会い

ーー今はK-POP男性アイドルグループを中心にオタクをしているそうですが、以前からアイドルが好きだったんですか?

阿久津愼太郎(以降、阿久津):
以前はサッカー選手やホストにもハマっていたことがあります(笑)。だから、自分は別に「歌って踊る人」のみが好きなわけではないのかもしれないです。たまたま今が韓国のアイドルだったというだけで、対象はその時によって違いますね。

いまは韓国の男性グループが好きで追いかけていますが、男性アイドルだけじゃなく、女性アイドルを追いかけていたこともあります。ただ、自分自身もアイドルをしていた時がそうであったように、「女性に眼差される男性」に興味があります。「女性に消費されるビジネススタイル」と言うことに興味があるんですよね。だから、そういう興味の部分も含めて、男性アイドルのファンになるということが多い感じです。

ーーK-POPのアイドルにハマる前はどんなジャンルが好きだったんですか?

阿久津:
結構いろんなものが好きでした。ジャニーズももちろん好きでしたし。K-POPにハマる前に好きだったのは、ヴィジュアル系のバンドでした。the GazettE(ガゼット)というバンドだったんですが、ヴィジュアル系を初めて見たときは衝撃的でしたよね。綺麗にお化粧をして、衣装を着て、性別がわからないルックスで楽器を弾いて歌ってステージに立っている姿を見たとき、「こんな世界があるのか」と思いました。そういうヴィジュアル系の世界にある「嘘っぽさ」に惹かれました。

DIM
▲the GazettE「DIM」

the GazettEではベーシストのREITAが好きだったのですが、当時の僕は彼になりたいと思っていて、まさに自己投影ってやつです。校則に縛られる自分とは真逆の彼に自己を投影し、「自分があんな風になりたい!」という夢をREITAに代わりに満たしてもらっていた感じです。好きすぎて自分の名前をREITAの「玲汰」という当て字の中の「汰」を拝借した名前で名乗っていたのも、自己を統一化させようとしていたんだろうなぁと思います。

ーーヴィジュアル系からK-POPを好きになるきっかけはなんだったんですか?

阿久津:
友達もいなく、田舎すぎて近隣に娯楽もなく、家でテレビばかり見ていた時期があったんですね。僕のお母さんとお姉さんがK-POPが好きで、そのときは毎日録画した韓国の音楽番組を見ていたんです。確かミュージックバンクだったと思うんですけど、それを毎日毎日何時間も繰り返し見ていて。ちょうどその時期はINFINITEとかB1A4が出てきた頃だったんですが、僕は同じタイミングに出ていたBOYFRIENDというグループにピタっとハマったんです。


▲보이프렌드(BOYFRIEND) - 내가 갈게 Music Video (I'll be there)

ーーなぜBOYFRIENDだったんですか?

阿久津:
なぜなんでしょうね(笑)当時、特にハマっているものがなくて、でも何かを好きでいないといけないというある種の「強迫観念」みたいなものがありました。だから、毎日音楽番組を見ている中で「誰かに決めなきゃいけない」みたいな思いがあったんです。

たくさんのアイドルたちを見ていく中で、自分が好きになれそうなグループを探していたんですけど、BOYFRIENDを見たときに「これだ!」と思ったんですよね。他に人気なグループもいたのに不思議です。ハマったときの映像(この3分30秒の瞬間です…!)もすぐに思い出せます(笑)僕はメンバーのドンヒョンのファンだったんですが、肌がキレイで異次元かと思いました。それくらい衝撃的な経験でした。

実は、僕はBOYFRIENDと共演したことがあるんです。当時僕はまだ芸能界にいたんですが、彼らが出演する日本の番組で出演者を募集していたんです。これは!と思ってオーディションに応募しました。そこで僕は彼らのファンだということを猛アピールしたんです(笑)僕は芸能界にいながらも、普通にオタクをしていたので、これは面白い!っていう感じで採用されました


▲BOYFRIENDのサイン入りCD。漢字で「阿久津さんへ」と書いてある!

ーーそれはある意味「成功したオタク」ですね(笑)

阿久津:
確かに(笑)当時は自分も芸能界にいましたけど、普通にファンをやってましたよ。コンサートに行ったら、ランダム写真の交換を求めるボードを持って立っていたこともあるし、普通にリリースイベントにもいっぱい参加していました。番組に出られたのは、僕が彼らのファンだったというのが良かったからなのかもしれません。

その番組の後もプロデューサーに呼ばれて彼らが出演する映画にファン役として出演しました(笑)

その映画では公式ブログを書かせてもらっていたんです。出演者なんですけど、ファン視点で見たブログという形で。僕がその映画に出演することになったのも、女の子がファン役をやるよりも良いという判断からでした。オタクとしては本当に最高の仕事でしたね。ブログ用に写真を撮っていたのに、ファンだから撮ってると思われて、怒られた日もありましたけど(笑)


■「推し」は自分の「代理戦争」

ーーBOYFRIENDのあとはどんなグループにハマったんですか?

阿久津:
BTS(防弾少年団)にハマっていた時期もありました。きっかけはメンバーのVに自分が似ていると言われたことだったんです(笑)けど、彼のことを知っていくうちに、彼のちょっと変わった性格に惹かれていきました。ちょっと空気読めない系の性格なのにメンバーやスタッフ、ファンに受け入れられ愛されているのが羨ましかったんです。自分もそういうところがあったから。だから、Vに関しても「自己投影」みたいなところがありました。

彼を応援していると、自分が応援されているみたいな気持ちになれたし、彼が頑張っていると、自分も頑張ろうっていう気持ちにもなれたんです。僕もよく「変わっている」と言われるんですけど、日本ではなかなかそれを認めてもらえない。いわゆる「四次元」と言うやつなのですが、韓国はそれを個性としてキャラとして認める文化があるので羨ましかったです。そういう意味では、Vがいてくれたおかげで自分の良さがわかったというのはありますね。

ーー今はどんなグループのオタクをやっているんですか?

阿久津:
今は韓国のいわゆる“地下アイドル”と言われているグループを中心にオタク活動しています。今一番好きなのはTARGETと言うグループです。


▲뮤직뱅크 Music Bank - Awake - TARGET(타겟).20180126
阿久津「これ客席にぼくいます。耳を澄ますと叫び声も入っています(笑)」

芸能界をやめて大学とバイトだけの生活になったらすごく暇だったんですね。バイトで稼いでるからお金もあるし、時間もあるのに何にもハマっていなくて。「とにかく何かにハマリたい!」と思っている時に、TARGETと言う沼を見つけました(笑)

ーーTARGETは韓国デビューもしたということですが、日本でもかなり精力的に活動していますよね

阿久津:
3ヶ月タームで日本でまとめて活動することが多いですね。韓国デビューは2018年にしました。韓国でデビューすることは韓国のグループであればやっぱり嬉しいものですよね。ただ、ちょっと発表のタイミングが悪かったかなという気がしましたが…。

ーータイミングが悪かったというのは?

阿久津:
日本でのリリースイベント行脚の最終日に発表されたんですよね。彼らぐらいのグループだと、どこまでも追いかけるファンがいっぱいいるんですけど、日本のリリイベでたくさん貢いでお金を使った後に韓国デビューの発表があって、真っ先に「もうお金ないよ…」と思いました(笑)

メンバーたちは涙していましたし、もちろん彼らの嬉しい気持ちはわかるのですが、「結局、韓国なのか…」と言う複雑な気持ちにもなりました。でも、僕もブツブツ文句を言いながらちゃんと韓国まで応援しに行きましたよ!だって、彼らの大事な晴れ舞台ですからね!




▲TARGET、韓国デビューの思い出のスローガン!

複雑な気持ちでしたけど、韓国に行ったら行ったですごく楽しかったし、韓国デビューが彼らにとってどれだけのものなのかという熱量も感じとることができました。立派なスローガンを事務所が用意してくれた時は、すごく感動しましたね。日本ではファンが作って印刷したものだったので(笑)

ーーTARGETではどのメンバーのファンなんですか?

阿久津:
リーダーのスルチャンです。今までいろんなアイドルを見て好きになってきましたが、スルチャンの時は「この子だ!」みたいな“音”が鳴りました。それくらい衝撃的な出会いでした。それからはほぼ毎日会いに行きましたね。行ける時には会いに行く!と言うくらい勢いがありました。チェキだって行ったらいっぱい積んで撮れるだけ撮ってきたし、ものすごい枚数がありますよ(笑)大げさかもしれないけど、それが生き甲斐でした。




▲「何枚あるかわからない」スルチャンたちとのチェキたち

よく、他のファンの方から「男性だから対応良くて羨ましい」とか言われることがありますけど、確かに男性だから目立つし特別に扱ってくれることはあります。だけど、僕は女性のファンの方達が羨ましいと思うことがあるんですよね。

ーーそれはなぜですか?

阿久津:
僕も女性のファンの方達と同じように「色恋営業」して欲しいって思うんですよ。同性だからか「僕たちは友達だね」とか言われるけど、そうじゃない!もっとドキドキするような営業をして欲しいんだよ!って思います(笑)だから、男だからいいこともあるし、女性だからいいこともあるってことですね。

ーーなぜ、TARGETではスルチャンだったんですか?

阿久津:
「自己投影」ですね。と言うか自分の「代理戦争」かもしれません。

僕は芸能界を辞めた後、自分に才能があるのかどうか悩んでいたんです。芸能界にいるときは才能よりも人柄で仕事をもらっていたところがあって(笑)。だけど、人が良すぎる人は周りに押しつぶされて、うまくいかないと思っているところがありました

スルチャンは、すごくいい子なんです。性格も育ちもいい子なんですけど、いい子すぎるゆえに今ひとつ目立てていない。とても真面目なんです。少し緩めたらいいのにって思うこともあります。ファンの中では「ポンコツ」って言われていますけど、それが彼の良さです(笑)。

スルチャンは、どこか僕に似ているんです。だから、彼を応援することで自分が報われる、と思っているところがあります。彼が芸能界で成功したら応援している僕も嬉しいし、間接的ではあるけど自分も成功した気持ちになると思います。だから、TARGETとスルチャンには頑張って欲しいって思っています。「代理戦争」なので。それはスルチャン本人にも伝えているんですけど。「僕の代わりに成功してね」って


■「現役アイドル→オタク」だからこそわかることを伝えたい

ーー以前はご自身もアイドルをされていましたよね。

阿久津:
歌って踊るアイドルというより、俳優がメインだったんですけど。僕が活動している時、ずっと不思議に思っていることがあったんです。それはファンの方々が、「僕を一番に好きでいてくれるのは何故か」ということでした。 上の人たちからはよく「お前の代わりはいくらでもいる」とか言われてきたし、俳優とかだと「ダブルキャスト」という制度もあるので、現実的に自分の代わりと向き合って生きていくみたいなところがあったんです。

そんな中でもファンの方達は僕を一番好きでいてくれる。「あなたが世界で一番好き」とか言ってくれるんです。「僕のクローンはいっぱいいるのに、他にもいい人はいっぱいいるのに、なぜ僕なの?」と言う疑問がずっとありました。でも彼女たちにとっては僕は「唯一無二」なんですよね。自らがオタクをしていく中で、この感覚を分かってきましたが、当時は赤の他人なのに好きでいてくれるのが不思議でした。

僕の大学の卒論のテーマは「なぜ人は、他人に熱狂するのか」なんです。自分自身、バイトで稼いだお金の倍額くらいを推しに貢いだりしていますし(笑)自分自身を含めてなんで人は赤の他人に熱狂するのかというのは、非常に興味があります

ーー自身が以前は眼差される存在だったからこそ、アイドルの気持ちもファンの気持ちもわかると思いますか?

阿久津:
そうですね。分かると思いますファンって自分を甘やかしてくれる存在なんです。なんでも許してくれるし、なんでも話を聞いてくれる、そしてお金も使ってくれる。さっきもお話ししましたけど、アイドルはファンにとっては「その人唯一」なんです。だからこそ、アイドルたちにはファンたちを大事にしてほしいなって思います。


▲アイドルとオタク、両方の気持ちがわかるからこそのコラムも

ーーそういう立場だとファンの方達から相談を受けることも多いですよね?

阿久津:
よく、ファンの方から「推しの気持ちがわからないから教えて」と相談されますけど、ファンの方達が「こんな風に思っているんですか?」と言っていることの多くは当たっていますよ。というのもアイドルだってあなたと同じ一人の人間だからです。

ただ言えるのは「人は変わらない」ということですね。ファンの方達の相談を聞いていると、「推しを変えたい!」という人が結構いるんですね。それにアイドルは普通の人たちよりも頑固な人が多いから、むしろそういうことを言うのは逆効果だし、下手すると嫌われますよ。ダメ出しをするよりは、うまく褒めてあげる方が賢くアイドルに好かれると思います(笑)

ーーこれからはどんなことをしていきたいですか?

阿久津:
今後は人の熱量やコミュニティーをビジネスにつなげていきたいと思っています。誰かを好きになった時に出されるエネルギーってすごいんですよ。自分もオタクだからわかるんですけど、オタクってすごくお金を使うじゃないですか。だから経済効果も大きいんです。そういったことをビジネスにつなげていけたらなと思って、今はデジタル・コミュニケーション・カンパニー スパイスボックスという会社に勤務しています。後は、これからは「自分を推せる自分のオタク」でいたいですね。


■オタクであることは性別も仕事も関係ない


▲今まで撮ったチェキたちを手にする阿久津さん

元アイドルでもあった阿久津さん。彼とのインタビューで感じたのは、オタクであることには性別も仕事の内容も関係ないということでした。アイドルであっても、一人の人間。私たちと同じように誰かを好きになり、ハマってしまうことはあるわけです。「別に特別なことではない」ということを阿久津さんの存在が伝えてくれるのではないでしょうか。

今後も積極的にYouTubeの発信を行っていくという阿久津さん。最近では講演会も行うとか。アイドルの気持ちもファンの気持ちも両方がわかるというのは、彼の大きな武器でもありますね。今後、どのようにつなげていってくれるのか、彼の活躍が楽しみです。

それでは、また!アンニョ~ン♪

■阿久津愼太郎(あくにゃん)(Akutsu Shintaro)プロフィール
ライター/男性アイドル評論家。立教大学現代心理学部卒。
現在、デジタル・コミュニケーション・カンパニー スパイスボックス勤務。
『ヲタクをするために生きている』をモットーに日本全国だけには留まらず国外まで、推しを追いかける奮闘記録がSNSで話題に。

YouTube :https://www.youtube.com/channel/UC-_yybtyNX3kDy7FGgXH9vg
Twitter :https://twitter.com/akunyan621
Instagram:https://www.instagram.com/akunyan621/

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(取材・写真:西門香央里)