阿部寛はバブル世代の高倉健?最新主演映画『異動辞令は音楽隊!』は不器用な大男が困る姿がたまらない!?

2022/8/25 22:00 龍女 龍女

阿部寛と高倉健の三つの共通点

①高学歴である

前述したように阿部寛の最終学歴は中央大学理工学部電気工学科卒業である。
高倉健は明治大学商学部商学科卒業である。
本名・小田剛一は筑豊の鉱山の会社の幹部の息子で裕福であったという。
福岡県立東筑高等学校時代はESS部の創設に関わり、その頃から英語が堪能であった。
当初は貿易商志望だった。
就職活動中に美空ひばりが所属した新芸プロのマネージャーになるため喫茶店で面接を受けた。
居合わせた東映東京撮影所の所長で映画プロデューサー・マキノ光雄にスカウトされ、映画会社の専属俳優の道に進む事になる。

②真面目で不器用な役がよく似合う

高倉健を表す言葉として有名なフレーズが
「不器用ですから」
である。
これは一体どこから来たのかと調べたら、1984年に放映された日本生命のCMで言った台詞だと判明した。
それにしても、高倉健にこの言葉が似合うと判断した企画者は凄いと感心した。

前述した『チロルの挽歌』での高倉健の役柄は仕事人間過ぎて、妻(大原麗子)が他の男と駆け落ちされてしまった男である。
何と赴任先の北海道で、逃げられた妻と再会してしまってどうなるかという内容である。

最新作で阿部寛が演じる鬼刑事成瀬司が、コンプライアンス無視の行動で左遷されて異動した先が警察音楽隊で、ドラム担当にされてまったく出来ないところから段々演奏の楽しさに目覚めていくようである。



③漫画の実写化の主演作がある

阿部寛は数々のマンガ実写化作品にでているが一番のヒット作は
『テルマエ・ロマエ』(2012年4月28日公開、東宝)であろう。
阿部寛が演じたのは、古代ローマの公衆浴場専門の設計技師のルシウス・モデストゥスである。
筆者はこのイラストで描いた、銭湯に必ずある内外薬品のケロリンの湯桶をヴィレッジヴァンガード国分寺店で購入して今でも使用している。


(『テルマエ・ロマエ』のルシウスを演じる阿部寛 イラストby龍女)

高倉健が出演した漫画の実写化映画と聞いて、すぐには思い浮かばない人も多いだろう。
しかし、とんでもないビッグタイトルがあるのである。
『ゴルゴ13』 (1973年12月29日公開)である。
そもそも、主人公のデューク東郷の風貌のモデルは高倉健であったという。
実写化に乗り気でなかった原作者のさいとう・たかをが東映に無茶ぶりのつもりでいったら実現してしまったという運びらしい。


さて、最後に阿部寛と高倉健の最大の違いを挙げておこう。
それは、現在の俳優は主役級でも本格的なコメディの演技を求められるような時代に変化した事ではないだろうか?
高倉健の若手俳優の頃は、スターが自虐的にセルフパロディーを演じるような作品は存在しなかった。
特に1980年代以降、阿部寛が薫陶を受けたつかこうへいが描いた芝居の内容そのものがコメディだった。
演芸の世界でも、コントや漫才ブームの影響で芸人の芸能界での地位が上がり、芸人と俳優に存在した格差がなくなってきた。
その象徴的な作品が1985年の『夜叉』で、高倉健はビートたけしと共演した。
ビートたけしの漫才に感心した高倉健は、代表作『網走番外地』シリーズから共演が多く、この作品でも一緒だった田中邦衛と漫才のネタをつくってやってみようと試みた。
漫才の最初にする自己紹介の件から出来なくて、断念したらしい。
俳優に求められる演技のスキルが上がった影響は、高倉健のような私生活が一切分からないスターが存在できる環境はなくなってしまったのである。
阿部寛のTVでのデビューがバラエティ番組だったように、俳優が雲の上の存在だった時代は終わった。
更に後の世代はSNSで自分から発信しなければ売れなくなった側面も大きい。
つまり、素顔と役のギャップが求められる事は俳優のスキルに加わってきたのである。

そういう意味では阿部寛は高倉健より器用にコメディの演技をこなせる。
自分の生かし方を心得ている。
アップデイトしたバブル世代の中で、高倉健クラスを目指している最中なのかもしれない。
阿部寛は今の日本で求められる新しい男らしさの解釈を提示できる存在ではないだろうか?


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