阿部寛はバブル世代の高倉健?最新主演映画『異動辞令は音楽隊!』は不器用な大男が困る姿がたまらない!?

2022/8/25 22:00 龍女 龍女

阿部寛が遂に出逢った当たり役とは?

堂本剛主演の『金田一少年の事件簿』(1995年)から徐々に名前が知られるようになった堤幸彦がメイン演出を務めるTV朝日の金曜ナイトドラマの『TRICK』シリーズ。
物理学者の上田次郎役だ。
『どんと来い!超常現象』が主な著書の人物という設定である。
超常現象を信じない、実在の物理学者の大槻義彦をイケメンにしたようなキャラクターである。

阿部自身が中央大学理工学部電気工学科卒業なので、元々理系なのである。
どこか合理主義者なところがある。
一時期すぐに食べられるという理由でお茶漬けが好きだと、あるトーク番組で言ったところ、永谷園のお茶漬けのCMに採用されたという過去を持っている。

この当たり役のお陰で、阿部寛を起用する指針ができあがったと考えられる。
「効率を重んじる理系的発想の持ち主」「真面目で不器用」
と言う要素はその後の役柄にも影響をあたえていく。


(『TRICK』の上田次郎教授を演じる阿部寛 イラストby龍女)

次なる代表作になったのが40代を迎えた中年男の悲哀を感じさせるコメディ

フジテレビの火曜夜10時『結婚できない男』(2006年7月~9月)である。
主人公の建築家の桑野信介役である。

高級マンションの一室の自宅で、オーディオでクラシックをかけて、指揮者の様なしぐさにをして聴くのが趣味という偏屈な男の役である。
イラストは隣人の田村みちる(国仲涼子)の飼い犬のKENを預かって散歩中に公園のタコさん滑り台の前のベンチで休んでいるシーンである。


(『結婚できない男』の1シーンから引用 イラストby龍女)

このドラマの脚本は尾崎将也(1960年4月17日生れ)である。
阿部寛主演は、『アットホーム・ダッド』(2004年の4月~6月)が成功したのを受けて、同じ布陣で製作された。
前作では、専業主夫になる羽目になるリストラされた仕事人間を演じたが、『結婚できない男』も固定概念にとらわれた独身男を演じる事になった。

『アット・ホームダッド』のように仕事人間がリストラされてというシナリオの展開は、最新作『異動辞令は音楽隊!』や、時代劇の主演作『のみとり侍』(2018年5月18日公開) でも同じ構造になっている。

尾崎将也は珍しくTV番組『ディープ・ピープル』(2011年9月26日、NHK)で中園ミホ(花子とアン、西郷どん)と岡田惠和(ちゅらさん、おひさま、ひよっこ)と脚本家3人として出演した事がある。
そこで中園ミホが『結婚できない男』の主人公は、尾崎将也そっくりだと言っていた。
尾崎将也はすでに既婚者だったので、独身という設定は当てはまらないが、理屈っぽくて偏屈そうな雰囲気はそっくりだったのだろう。
筆者は初めて尾崎将也の似顔絵を描いてみたが、輪郭線など阿部寛とそっくりな雰囲気も持っている。
尾崎将也にとっても、当て書きしやすい俳優かもしれない。


(『結婚できない男』の脚本家、尾崎将也 イラストby龍女)

阿部寛はゴシップがほぼ皆無だったが、2007年に結婚している。
「『結婚できない男』が結婚することになりました」
と言ったりして、あの真面目そうな低い声からぼそっとジョークが出ると爆笑とまでいかないが、クスっと笑わせてくれる存在なのである。

モデル出身という事もあって、服の着こなしに演技力が加わって重厚さが増してきた。
軍服が似合う俳優の一人として、『バルトの楽園』(2006年6月17日公開)で、『はいからさんが通る』と同じ時代の軍服を着たがまったく違う人になっていた。

軍服を着た役の集大成のような作品になったのは
『坂の上の雲』(2009、2010、2011年の12月放送、NHK)である。
この大作ドラマでは、日本騎兵の父と呼ばれた秋山好古(1859~1930)を演じた。


(『坂の上の雲』で秋山好古を演じる阿部寛 イラストby龍女)


さて今回は、これまでの出演作の中で、分岐点となる作品群に注目した。
名作映画のリメイクの単発ドラマ『幸福の黄色いハンカチ』(2011年10月10日、日本テレビ)は、脚本家は尾崎将也である。
オリジナルは1978年の『幸福の黄色いハンカチ』。
監督・脚本は山田洋次である。
山田洋次は翌年に同じ俳優を主役に起用して『遙かなる山の呼び声』(1979年公開)を手がけた。
こちらも2018年11月24日にNHKBSプレミアムで阿部寛主演でリメイクされた。
オリジナルにはなかった続編は今年の9月17日に放送される。

この2作品のオリジナルの主演こそ
高倉健(1931~2014)だ。


(『遙かなる山の呼び声』の高倉健 イラストby龍女)

愛称で「健さん」と呼ばれたあの人は、後輩の業界人たちの憧れの存在だった。
少なくとも昭和の男の理想像ではあったが、徐々に時代遅れになっていくもどかしさも抱えていた男性としての象徴でもあった。
他の演出家も他の俳優で若い頃の役柄を意識したオマージュを繰り返してきた。

高倉健が演じた島勇作(『幸福の黄色いハンカチ』)と田島耕作(『遙かなる山の呼び声』)を今活躍する俳優で誰がふさわしいか?
両作品とも阿部寛が選ばれたのには理由がある。
また阿部寛ならではの個性も浮き彫りになるに違いない。
次の頁では共通点と違いについて触れていこう。

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