最新主演作『峠』で役所広司が名付け親で師匠の仲代達矢と23年ぶりに共演。役所広司が師匠となるべく後継者はあの俳優か?

2022/6/23 22:00 龍女 龍女

仲代達矢が俳優になったのは高校卒業からバイトに明け暮れた日々を経た1952年である。

俳優座養成所4期生に合格した。
同期には、宇津井健(1931~2014)


(宇津井健 イラストby龍女)

中谷一郎(1930~2004)がいる。


(『水戸黄門』の弥七役で有名な中谷一郎 イラストby龍女)

同じ年に映画会社日活からデビューしたのが石原裕次郎(1932~1987)である。

俳優座で演技を学んだ師匠は、
小沢栄太郎(1909~1988)である。


(小沢栄太郎 イラストby龍女)

悪役を得意とした名脇役である。


俳優座・文学座・劇団民藝は新劇と呼ばれている。
新劇とは歌舞伎に対して新しい劇という意味で、元々は翻訳劇を中心に上演していたが、徐々に日本人の劇作家の新作を上演する様にもなった。
戦後(1945年以降)~60年代前半までは、上記の三劇団が主な新劇の劇団として有名だった。
養成所が出来たのは俳優座が最も早い。
文学座の養成所が出来たのが1961年である。
俳優座から1954年に分裂して出来たのが青年座で、こちらは翻訳劇よりも新作を上演する劇団である。
当時、俳優は映画出演に当たり、映画会社と専属契約するのが通常であった。
仲代達矢は年の半分は舞台出演にこだわったので、専属契約はせずフリーランスで活動した。

当時の大手映画会社5社(東宝・東映・松竹・大映・日活)の間で結ばれた五社協定により、専属俳優は基本的に他の会社の作品には出演しない。
フリーランスだったお陰で、どの映画会社にも自由に出演できた。
しかしそれは基本的に主役級の話で、専属俳優でも他社に出演することはよくあり、五社協定が自然消滅する1971年までの映画には、俳優名の左下に(〇〇)と会社名が表記してある。

仲代達矢が初めて映画に出演したのは、あの金字塔『七人の侍』(1954年)である。
『七人の侍』は盗賊団に悩まされている農民が浪人の武士を雇って退治する物語だ。
仲代達矢の出番は数秒で、農民が市場で通り過ぎる武士を観察するシーン。
一瞬、横顔と歩く姿が映るだけである。
ところがこのシーンを撮影中、監督の黒澤明は仲代達矢の歩き方が気に入らず、何度も撮り直しをさせた。
このことがあって、仲代達矢は二度と黒澤明監督の映画には出るもんかと思ったらしい。

ところが数年後、山本薩夫監督の大作『人間の條件』(1959~1961)で主役に抜擢され、俳優として大物になった時に黒澤明から出演依頼が来た。
最初は断ったが、黒澤明に呼び出されて出演することになった。

それが三船敏郎が主役で、敵役を演じた『用心棒』(1961年)である。


(『用心棒』の新田の卯之助を演じる仲代達矢 イラストby龍女)

続編の『椿三十郎』(1962年)でも、敵役を演じた。
この作品は時代劇の殺陣を変えた画期的な作品である。
刀がぶつかる効果音や、斬ると血が吹き出るなど、リアルな演出を行ったからだ。

1963年には、黒澤明監督のミステリーエド・マクベインの87分署シリーズの『キングの身代金』を原作に日本に翻案した、『天国と地獄』に刑事役で出演する。
特に60年代の仲代達矢の映画出演本数は多く、充実している。
小林正樹監督、橋本忍脚本の『切腹』(1962年)はカンヌでも高い評価を得ている。
イタリア映画『野獣暁に死す』(1968)ではメキシコ系アメリカ人の悪役を演じたり、国際的に活躍する。


特筆すべきは、1969年に制作された作品である。
元大映の勝新太郎(1931~1997)、
元日活の石原裕次郎
小説家で元文学座の文芸部員だった三島由紀夫(1925~1970)と
仲代達矢が共演した
フジテレビ出身の演出家五社英雄監督の『人斬り』である。

勝新太郎が演じたのは、土佐勤王党の人斬り岡田以蔵(1838~1865)
石原裕次郎が坂本龍馬(1836~1867)
三島由紀夫が薩摩藩の人斬り田中新兵衛(1832~1863)
仲代達矢が土佐勤王党の盟主武市半平太(1829~1865)

この共演以降、勝新太郎とは仲良くなり一緒にのみに行く仲であった。
疎遠になってしまうある出来事があった。


勝新太郎は、映画人生の中で最も大役を引き受けることになった。
黒澤明監督の『影武者』での、武田信玄(1521~1573)とのその影武者の二役である。
撮影直後からトラブルが発生し降板することになった。
代役として仲代達矢が演じることになった。


(『影武者』の武田信玄を演じる仲代達矢 イラストby龍女)

仲代達矢は次回作『乱』(1985年)の主役に内定していたのでスケジュールを抑えられていたのだろう。


(『乱』の一文字秀虎を演じる仲代達矢 イラストby龍女)

勝新太郎の降板劇はあったものの、『影武者』はカンヌ映画祭でパルムドールを受賞した。
『乱』の方も衣装のワダエミがアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞するが、黒澤明の時代劇は最後になった。

ここでは60年代の仲代達矢を黒澤明作品との関わりを中心に語った。
黒澤明と関わらなかった70年代について次に語っていこう。

    次へ

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5