朝ドラ『おかえりモネ』のトラブルメーカー!?内野聖陽を名脚本家たちが使いたがる理由とは

2021/6/16 22:00 龍女 龍女

①朝ドラのヒロインの相手役から始まる


(『ふたりっ子』から引用 イラストby龍女)

内野聖陽が一般的に名前を知られるようになったのは、大石静が手がけた朝ドラの第1作にあたる『ふたりっ子』(1996年10月~1997年4月)の出演だ。
ヒロインの双子の妹・香子(岩崎ひろみ)のライバルで夫にもなる将棋の天才棋士・森山史郎役だ。
京大出身のエリートでもある。

実際の内野聖陽も、私学ではあるが早稲田大学の政経学部出身で、演劇の世界では新劇の老舗の一つ、文学座に所属していたバリバリのエリートである。

内野聖陽が所属(期間は1997年~2011年)していた文学座は、東大出身で明治大学の教員であった、劇作家の岸田國士が創立者の一人として、1938年に立ち上げたものだ。
その為、明治大学も演劇に関する資料は抱負で、明大出身の俳優も数多くいる。

内野聖陽の文学座研究所時代の同期には、寺島しのぶがいた。
杉村春子の後継者とも目されていた太地喜和子(1943~1992)に可愛がられた。
太地喜和子が熱海で不慮の死を遂げた後は、寺島しのぶが杉村春子の後継者と期待されていた時期もあった(寺島しのぶは1996年に退団)。

内野聖陽はかろうじて杉村春子とは接点がある。
杉村春子の映画での遺作となった新藤兼人監督の『午後の遺言状』(1996年)に端役として出演している。

内野聖陽は、別の映画の出演で大石静に見いだされる。
森田芳光監督、深津絵里主演の『ハル』だ。
ウィンドウズ95以前のコミュニケーション手段だったパソコン通信による男女の交流を描いた作品だ。
この作品の中では、映画好きの主人公の交信相手のハンドルネームがハルで、それを内野聖陽が演じている。
そもそも映画の世界でハルと言えば、スタンリー・キューブリック監督のハードSFの名作『2001年宇宙の旅』に登場するAIのことだ。大手IT企業「IBM」のアルファベットを1文字前の文字を組み合わせた3文字(HAL)から成り立っている。
非常に論理的で冷静に見えるが情熱を秘めた役柄で、猪突猛進な朝ドラのヒロインの香子とは対照的なキャラクターを探していた大石静は、内野聖陽の起用を決めた。

内野聖陽を発掘した大石静は、明治大学のキャンパスや古本屋が並ぶ神田の駿河台で小説家の定宿だった旅館で生まれ育った。
幼い頃から文学者を見て育ったから、文学青年のような俳優を見抜く能力に恵まれているのだろう。

しかし、これ以降の内野聖陽は大石静の脚本での出演はない。
大石静の師匠、宮川一郎(『水戸黄門』など)からの教えがあった。
「どんな球がきても、ヒットしろ!」
との言葉である。
実は、大石静作品の大きな特徴は、配役の指名が殆ど無く、常連俳優が存在しない。
強いて言えるのが若手俳優の抜擢だ。

この影響ではなかろうが、この後、内野聖陽はどんな脚本家の作品でもヒット作に出演するようになる。
その頂点が大河ドラマ『風林火山』の主役である。

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