NHK朝ドラ『おちょやん』で杉咲花の相手役を演じた成田凌が似た題材の作品に採用され続けている理由とは?

2021/5/19 22:00 龍女 龍女

②『カツベン!』の染谷俊太郎



成田凌が『カツベン!』で演じる染谷俊太郎は、始め偽弁士として登場する。
活動弁士は、活動写真と呼ばれた音声が入っていないサイレント映画の内容を巧みな話術で解説する職業で、日本独自のものである。
伴奏する演奏家も登場するが、こちらは海外にも存在した。
決めぜりふは字幕で登場するが、それ以外は口パクで大げさな身振り手振りをする俳優から読み取るしかない。
映画全ての台詞をそれまであった話芸(浄瑠璃・落語・講談・浪曲)の伝統にのっとり、新しいメディアの映画に乗せた事で、日本の観客がすんなり受け入れられることが出来たのは、活動弁士のお陰である。

活動弁士は、当時の子供たちの憧れの職業の一つで、主人公の少年時代の染谷俊太郎もその頃の花形弁士山岡秋聲(永瀬正敏)の真似をする。
大人になった染谷俊太郎は、偽弁士を使って空き巣を繰り返す強盗団の片棒を担がされていた。
偽物が現れる職業はいかにも派手な存在だったかがわかる。

俊太郎はひょんな事から盗み出した大金を持ち逃げし、活動写真を上映する芝居小屋青木座で住み込みに働くことになる。

青木館には、売れっ子の花形弁士・茂木貴之(高良健吾)がいた。
自分の語りと流し目で女性を卒倒させ、調子に乗って勘違いしている。
俊太郎の憧れだった山岡秋聲は酒浸りになっていた。
またもう一人、インテリな弁士内藤四郎(森田甘路)が登場する。
弁士が花形商売であった光の部分と影の部分と個性の違いを描き分けている。

様々な語り口の弁士がいて、人気商売故、トラブルに事欠かない。


実際、黒澤明(1910~1998)の兄の丙午は、須田貞明の名で活動弁士として人気があった。
インテリで文学的な活弁であったらしい。
しかし、1927年に初のトーキー映画(現在同様に音声のついた映画)がアメリカで誕生して以来徐々に増え始める。
廃業に追い込まれる弁士が増えていく。
その中で、争議委員長として関わる。ストライキ活動に敗れ、1933年に愛人と服毒自殺を遂げた。

『わろてんか』の北村隼也のモデル吉本頴右の恋人であった笠置シズ子は、黒澤明監督の『酔いどれ天使』に出演している。
アルコール依存症の医師(志村喬)と若いヤクザ(三船敏郎)が出てくる。
『カツベン!』には、酔いどれ弁士の山岡秋聲が出てくるようにヤクザも登場する。
ライバルの映画館・橘館の主ヤクザの橘重蔵(小日向文世)は花形弁士の茂木貴之を引き抜こうとする。
興行とヤクザの関係が描かれている。

ヤクザものとアクションは、今の日本映画界では東映が最も得意とするところだ。
映画の本編の冒頭には、主人公の少年時代のエピソードとして、牧野省三(1878~1929。山本耕史が演じる)が撮影している時代劇の様子が出てくる。
牧野省三は「日本映画の父」と呼ばれている。
戦後になると、息子のマキノ雅弘(1908~1993)が東映で任侠映画を撮ったのが大きい。
この映画の配給が東映というのは、実に理にかなっている。

そのマキノ雅弘も、戦前は松竹の撮影所所長だった時期がある。
今も映画大手としても残る松竹に深く関わる朝ドラ『おちょやん』。
副主人公の天海一平について、みていこう。

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