アカデミー賞当日に欠席!?『ファーザー』で主演男優賞の最年長記録を更新したアンソニー・ホプキンスは、少し運が良かっただけ?

2021/5/12 22:00 龍女 龍女

④なぜ『ファーザー』で、主演男優賞を取れたか?

『ファーザー』は、フランス人のフローリアン・ゼレールによって書かれた2012年の戯曲が元になっている。
英語版初演は2014年で、その時主演したケネス・クラナムは2016年のローレンス・オリビエ賞(イギリスの演劇賞の最高権威)の主演男優賞を獲得している。
日本版(2019年)の舞台で、主演の橋爪功が読売演劇賞最優秀男優賞を獲得している。
すばらしい出来と保証された内容が映画化された。

主演男優賞以外での、『ファーザー』のアカデミー賞の実績について観ていこう。
オスカーでは6部門(作品賞・主演男優・助演女優・脚色・編集・美術)にノミネートされ、脚色賞を獲得し、結果2部門受賞した。
原作者フローリアン・ゼレールと、舞台の英語版を翻訳したクリストファー・ハンプトンの共同の脚色である。
授賞式では、フランスの会場からフローリアン・ゼレールがスピーチをした。

内容は認知症の疑いがある80代の父アンソニー(アンソニー・ホプキンス)を40代の娘アン(オリヴィア・コールマン)が介護していく様子が描かれる。
新しい視点は認知症の父親の恐怖を追体験できる演出となっているそうだ。
相手役の娘アンを演じるオリヴィア・コールマン(1974年1月30日生)は、『女王陛下のお気に入り』(2018)でスチュアート朝最後の女王アン(1665~1714)を演じて、第91回アカデミー賞主演女優賞を獲得した。
こうした実力派が揃う映画ながら、登場人物は6人ほど。
コロナ禍では少人数の芝居がやりやすい。
大作映画が軒並み上映延期になっている今、作品賞候補に大作がなかったのは幸運であった。

作品賞を獲得した『ノマドランド』が高齢者の労働問題に食い込んでいるあたり、多様性の時代と高齢化社会の弊害が平行で進んでいる今を写した作品が注目されたことが大きい。
『ファーザー』はこれまで批判されたかつて圧倒的に多かった白人男性以外の票も取れなければ賞は取れなかったと思う。
特に最有力とされたチャドウィック・ボースマンと助演女優賞候補のオリビア・コールマンはわずか2歳しか違わない。
アカデミー会員では無いが、チャドウィック・ボースマンと同い年である筆者も、将来あるかもしれない親の認知症の問題は非常に切実である。
今回注目されたアジア系の受賞者や候補者もアカデミー会員も、高齢化が進んだ社会の住人だ。
親が認知症になったら自分はどうしたら良いだろう?
なぜ認知症になると、自分が探しているモノが盗まれたと被害妄想に陥るのか?

そうした問いに答えてくる芝居なら、確かに観たいと筆者も思うのである。


※参考文献なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」 (星海社新書)


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