波の数だけ抱きしめたい!「ファンシー絵みやげ」で振り返るサーフィン文化(2/2)

2017/3/17 12:00 山下メロ 山下メロ


■ ファッションとしてのサーフィン

私はスキーウェアを愛用していますが保護活動以外で雪山やスキー場へは行きませんので「陸スキーヤー(おかスキーヤー)」を自称しています。この元ネタが「陸サーファー(おかサーファー)」です。海には入らず、サーフィンをしないけれどサーファーのようなファッションをしている人を指します。具体的には日焼けしていて、アロハシャツやTシャツにショートパンツ、ビーチサンダルにサングラスといった「サーファーの普段着」です。


↑太陽にコミカルな顔が描かれているのは鳥山明さんの漫画「Dr.スランプ」の影響が感じられます。

中にはサーフボードも所有していて、車の上に乗せているのに陸サーファーという例まであります。フォルクスワーゲンのタイプ1、通称ビートルの屋根にサーフボードを乗せるというのは一種の固定化されたイメージでした。前述の『波の数だけ抱きしめて』でも、同じくフォルクスワーゲンのビートルカブリオレが登場します。陸サーファーの中には、車の屋根にある取り外すことのないサーフボードに穴を開け、飾りとしてガッチリ固定してしまうほどの人もいたようです。


↑サーファーのシルエットもなく、カモメやイルカさえおらず、椰子の木とビートルだけという商品も多い。ここから完全に固定化したイメージであることが分かる。


↑サーフボードを積んだビートルの、ミニカー風のカー用品もありました。

あくまで陸サーファーというのは、私のように自虐的に自称する場合を除けば、純然たるサーファー側からの蔑称ですので、一般的にはサーフファッションの人と呼ぶべきでしょう。まず1970年代の後半ごろからアメリカ西海岸のスタイルが登場し、1970年代末から1980年代初期にファッション誌やスポーツショップを中心に、サーフブランドとサーファーのスタイルが紹介され、タウンユースで浸透していきました。スポーツという感覚が強かったサーフィンは、ファッション化したことで敷居も下がり、好景気の波も受けて人口を増やしていったのです。まさにファンシー絵みやげが登場した1970年代末期~1980年代と重なります。

■ 日焼けしたサーファンシー


↑スタンダードなサーファーキャラ「YAI!ISLANDER」。色々な商品が作られており、このようにサーフ文化とかけ離れた徳利お猪口セットや、謎の木靴形の灰皿まである。

ファンシー絵みやげのメインターゲットである子供はサーフィンをあまりしません。そして、ビーチに集う大勢の若者の中にサーフィンをする人も増えたでしょうが、大半はサーフファッションをしていようとも海水浴客だったと考えられます。しかし、単に海パンだけはいて海辺に立つ海水浴客をキャラクターにしても特徴に乏しく、それを補う意味でサーフボードを持たせたのではないでしょうか。それがファンシー絵みやげにサーフィンのモチーフが多い理由だと私は考えます。


↑サーファーにとって日焼けした肌は重要なので、キャラクターもとにかく日焼けしている。KONGARIと焼けているのだ。

やたらとサーファーは真っ黒に日焼けしているので、それをさらに紹介しましょう。


↑サーファーに限らず、さまざまな日焼けしたキャラクター。とにかく日焼けの表現は黒が多く、茶色は少ない。これは実際にこんなに黒く日焼けした人が多かったというより、単に色版の節約であろう。分かりやすく言えば、枠線や地の色と同じ黒にしてしまうことで、茶色1色多く使うよりコストがかからないのである。

さらに、フリーダムな状況は続きます。


↑真ん中のKUROTAROはなぜか全裸。黒さはタコの墨なのか?

当時、真っ黒に日焼けすることがいかに重要だったかが分かりますね。日焼け以外でも1980年にデビューしたシャネルズ(後にラッツ&スターに改名)も顔に靴墨を塗っていましたし、1985年12月に発行された活人という雑誌の創刊号では、アイドルの小泉今日子さんが全身を黒く塗った姿で表紙を飾っていました。



こうしてみますと、いかにサーフィンが人口を増やしつつもイメージだけが一般化し、ファッションとして消費されていたことが分かります。それはファンシー絵みやげにおいても同様で、実際にサーフィンをしない人がサーフィンキャラクターのファンシー絵みやげをたくさん買ったのでしょう。もはや自分がサーフィンをするかどうか、サーフィンが好きかどうかは関係なく、一種の夏の風物詩、海のアイコンとして定着していたことがよく分かりました。

■ 保護のお願い

私は全国の観光地で保護活動を行っていますが、現地から消滅したファンシー絵みやげについては、皆様の家に残されたものが頼りです。もしご実家などの学習机の引き出しの中に眠っているものなどが見つかりましたら、是非ともご一報ください。ハッシュタグ #ファンシー絵みやげ での報告も待ってます。



水泳キャップとゴーグルを装着しました。

では、私は『波の数だけ抱きしめて』の放映があるので、今回は自分を抱きしめて待機することにします。



手が疲れたら、抱きしめるのやめます。

ではまた次回。

(文と写真:山下メロ“院長”)

《イベントのお知らせ》
3月30日(木)の夜に阿佐ヶ谷ロフトAで、旅するイラストレーター キン・シオタニさんのイベントにゲスト出演いたします。TVKの街歩き番組「キンシオ」でもおなじみのキンさんと、ともに全国を旅する2人がどんなトークをするのかお楽しみに!

キン・シオタニpresents「描き語り33」

OPEN 18:30 / START 19:30
前売¥2,100 / 当日¥2,600(共に飲食代別)
前売はローソンチケット【Lコード:76512】から
【出演】キン・シオタニ
【ゲスト】山下メロ院長(ファンシー絵みやげ研究家)

旅するイラストレーター、キン・シオタニのトーク&パフォーマンスライブ。
今回は、1980年代に国内の観光地にあふれていたファンシーイラストのおみやげ「ファンシー絵みやげ」を収集している山下メロ院長がゲストです。いったいどんなお話が飛び出すか、お楽しみに!ドローイング・シアターも、もちろんあります。     


《関連コラム》

・「見たことある!」ファンシー絵みやげで振り返るスキーブーム(連載 第一回)
・80年代にはグランブルーファンシーがあった……「ファンシー絵みやげ」で振り返るマリンスポーツ(連載 第二回)



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