横浜流星が映画『線は、僕を描く』で主役に選ばれたのは空手の達人だから?来年『巌流島』で演じる宮本武蔵にもヒントがあった!?

2022/10/28 17:00 龍女 龍女

映画『線は、僕を描く』は、冒頭がとにかく素晴らしい。
青山霜介(横浜流星)は男子大学生のアルバイトにありがちなイベントの搬入作業にかり出された。
多賀大社で行われる水墨画の発表イベントという触れ込みだったため、文化系サークルの学生がかり出されたが実際は重い機材の搬入で、ほぼ力仕事だった。
バイトの学生は逃げ出してしまう。
文化系の学生の一人である霜介はたまたま残ったに過ぎないが、搬入された水墨画の中にツバキの絵を見て感動して目がとまる。
「せんえい?」
霜助は「千瑛」と署名された人物の絵画に強く惹かれた。

本編ではこれを描いた人物が「せんえい」ではなく「ちあき」と読む人物だと分かる。
清原果耶(2002年1月30日生れ)演じる新進気鋭の篠田千瑛の作品だった。


(『線は、僕を描く』清原果耶演じる篠田千瑛 イラストby龍女)

バイト休憩中に支給されたお弁当はバイト用と来賓用がある。
バイトの霜介はバイト用の弁当を食べようとしたが、後からやってきた年配の男性に進められて、豪勢な来賓用の弁当をご馳走された。

休憩が終わり、霜介は観客の立ち見で、神社の舞台を見上げて観覧することにした。
するとさっきの年配の男性が、舞台の中央にたって、白い大きな紙に水墨画を描き始めた。
年配の男性の名前は篠田湖山(三浦友和)。
文化勲章を受けた水墨画の権威だった。


(『線は、僕を描く』篠田湖山を演じる三浦友和 イラストby龍女)

パフォーマンスを終えた湖山は、霜介をみつけてしゃがんで見下ろしながら話しかけた。
「私の弟子にならないか?」


映画本編はこの後、水墨画の世界にはまりだした大学生霜介が湖山の内弟子になって、湖山の孫で天才水墨画家の千瑛(清原果耶)と切磋琢磨していく青春ドラマが繰り広げられる。

その他の出演者は
湖山の一番弟子西濱湖峰江口洋介(1967年12月31日生れ)


(『線は、僕を描く』西濱湖峰を演じる江口洋介 イラストby龍女)

水墨画の評論家で、権威ある賞の審査委員長でもある藤堂翠山富田靖子(1969年2月27日生れ)である。


(『線は、僕を描く』藤堂翠山を演じる富田靖子 イラストby龍女)

『線は、僕を描く』は配信された映画を2倍速で観る人にはむいていない作品である。
あらすじだけならば、ベタすぎてつまらない内容だからである。
あらすじを単純化した分、主役を始め水墨画家達が線を描く様子が見せ場として特化したからである。
カメラワークは長回しで、画家を演じる俳優の体全体の動きを追っていく。
逆光が強い淡い色調の映像は、岩井俊二(1963年1月24日生れ)監督の作品を想起させ、長回しを多用した表現は相米慎二(1948~2001)監督作品を思い出した。


筆者が先に紹介した主な出演者の中のベテラン俳優たちはかつて青春映画の主役としてスターになった人たちである。

三浦友和(1952年1月28日生れ)は後に妻となる山口百恵との共演作で青春映画のスターとなったが、結婚後は相米慎二監督の名作『台風クラブ』(1985年)で無気力な数学教師を演じている。

富田靖子は、大規模オーディションで『アイコ16歳』(1983年)で主役デビューした。
大林宣彦(1938~2020)監督の『さびしんぼう』(1985年)、市川準(1948~2008)監督のデビュー作『BU・SU』(1987年)が青春映画の主役としての代表作である。

江口洋介は青春映画では主演デビュー作の『湘南爆走族』(1987年)だが、テレビドラマでは『翼をください』(1988年NHK正月ドラマ。脚本はジェームズ三木)という伝説の学園ドラマの主役を演じた。
ちなみに筆者にとって江口洋介の似顔絵は2度目だが、今回も難しかった。
実は下書きの段階でどうしてもトータス松本に見えた過程があった。
江口洋介とトータス松本が似ていることを利用した配役は市川準監督三谷幸喜脚本の『竜馬の妻とその夫と愛人』(2002年)で、生かされている。
この時は竜馬がトータス松本で、似た顔の愛人役が江口洋介だった。
三谷幸喜脚本の大河ドラマ『新選組!』(2004年)では江口洋介は坂本龍馬を演じた。

『線は、僕を描く』の原作者砥上裕將は水墨画家でもあるので、長編小説家のデビュー作として自分にとって身近な題材を選んだ。
水墨画は、著者以外では決して身近な題材ではなく、読者の興味をそそるので賢明な判断だった。


それでは、描く側ではなく観賞する側の知識として、水墨画とはどういう絵画なのか?
筆者もそちらの角度では語れるので紹介していきたい。

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