【古代エジプト人が身近に感じられる!】ミイラが語る人々の暮らしぶりを見てきた。

2021/11/4 20:30 yamasan yamasan

こんにちは、いまトピアート部のyamasanです。

今回は空前の古代エジプト展の当たり年となった2021年のフィナーレを飾る特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」を紹介したいと思います。


昨年11月から始まった「国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話」、今年7月から始まった「ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展-美しき棺のメッセージ-」はどちらもそれぞれ特長があって見応えのある内容なのですが、こちらの展覧会も一味違った古代エジプト展。

10月から国立科学博物館で開催されている特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」は、世界最大級の古代エジプトコレクションを誇る大英博物館から来日した、身分も、役職も、性別も、年代も異なる6体のミイラを最新のCTスキャン技術によって徹底分析して、遺跡から出土された護符や装身具、楽器はじめ貴重な文物と関連付けて古代エジプト人たちの暮らしぶりに迫るという内容の展覧会なのです。


特別展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」

会 場  国立科学博物館(東京上野公園)
会 期  2021年10月14日(木)~2022年1月12日(水)※終了しました。巡回展情報は下記に記載しています。

開館時間 午前9時~午後5時(入場は閉館時間の30分前まで)
休館日  月曜日、12月28日(火)~1月1日(土・祝)
     ※ただし12月27日(月)、1月3日(月)・10日(月・祝)は開館
入場料(税込) 一般・大学生 2,100円 小・中・高校生 600円
 ※未就学児は無料。障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料。
音声ガイド貸出料金 一般・大学生 600円、高校生以下 550円(1台/税込)

展覧会の詳細、日時指定予約等については展覧会公式サイトをご覧ください。⇒特別展「大英博物館ミイラ展」


巡回展情報  2022年2月5日(土)~5月8日(日) 神戸市立博物館



※掲載した写真は報道内覧会で特別の許可を得て撮影したものです。

第1会場は、6体のミイラごとのエリアと、2つのエリア、あわせて8つのエリアに分かれています。

01 テーベの役人、アメンイリイレト
02 テーベの神官、ネスペルエンネブウ
03 下エジプトの神官、ペンアメンネブネスウトタウイ
04 テーベの女性、タケネメト
05 ハワラの子ども
06 グレコ・ローマン時代の若い男性
古代エジプトの遺跡と発掘
エジプト・サッカラ遺跡の実寸大部分模型

第1会場に入ってすぐに展示されているのは、古代都市テーベ(現 ルクソール)の役人、アメンイリイレトのミイラ。
奥にはミイラの棺、手前にはミイラ本体が展示されていて、壁にはCTスキャンの映像が流れています。



年代は末期王朝時代・第26王朝の紀元前600年頃、性別は男性で、推定死亡年齢は中年(35~49歳)、生前の推定身長はおよそ164cm前後。
職業は、棺の碑文から、「アメン神を礼拝する女性」アメンイルディス(1世)の収益の下僕・王宮の入口の下僕・貯蔵庫と倉庫の主・監督官であることがわかっているので、女王の財務を預かっていたかなり高い役職の役人であったことが想像されます。

古代エジプトというと、ピラミッドやスフィンクス、それにミイラを思い浮かべますが、なぜ古代エジプト人たちはミイラを作ったのでしょうか。
それは、来世に向かうためには遺体の保存が必要であると彼らは信じていたからなのです。
ミイラになった死者は、このように船に乗って冥界に旅立ったと考えられていました。

「葬祭用の船の模型」(中王国時代・第12王朝、前1985~前1795年頃)



冥界の神オシリスに最初のミイラとなる処置を行ったのは、ミイラ作りの神アヌビスと考えられていました。
イヌ科の動物の姿で描かれることが多いアヌビスですが、下の写真手前のピラミディオンの上部にはアヌビスの姿が見られます。
「ウジャホルのピラミディオン」(末期王朝時代・第26王朝、前664~前525年)


今回来日した6体のミイラは、国際巡回展「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語(2021年~2024年)」のために新たに調査研究されたもの。
CTスキャンは、ミイラを損傷させることなく内部の調査を行うことができるというメリットがあるのですが、もとはといえば医療機器なのでミイラ本人の病気までわかってしまうのです。

例えばアメンイリイレトさんの場合、アテローム性動脈硬化症(血管にコレステロールがたまり血管が細くなったり詰まったりする病気)、骨転移性癌、歯周膿漏(推定)、シュモール結節(椎間板ヘルニアの一種)にかかっていたことがわかっていて、子どもや若い男性のミイラを除く中年のミイラは、現代人と同じく生活習慣病などの病気に悩まされていたようです。

虫歯についていえば、当時は歯磨きの習慣がなかったのでは、と思ったのですが、古代エジプト人たちの主食のパンには小さな石や砂、もみ殻などが混ざっていて、それが歯の摩耗の原因になっていたようです。

こちらは古代エジプト人たちの食べ物の遺物コレクション。



ビール造りの様子を表した木製の模型が見えてきました。
この木製模型を墓に入れておくと、パンと並んで古代エジプト人たちのもう一つの主食だったビールを、死者は来世でも永遠に欠かさずにすんだそうです。

下の写真右「彩色されたビール製造の木製模型」(古王国時代・第6王朝、前2345~前2181年頃)



多くの病気に悩まされていた古代エジプト人たちにとって、近代的な医療は望むべくもなかったのですが、病気は自然の理を超えた原因で起こると考えられていたため、神々への祈りや儀式、護符などを通じて神の力を借りる必要がありました。

ここでの注目は、CTスキャンデータから3Dプリンターで制作した護符の複製です。

CTスキャンによって、テーベの神官・ネスペルエンネブウのミイラの包帯の間に配置されていた護符のデータをとり、それを3Dプリンターで制作したもので、3000年前にミイラ職によって配置された護符に触れることなく、その正確なレプリカを作るという、まさにCTスキャンが可能とした技と言えるでしょう。



古代エジプトでも音楽は人々の生活に重要な位置を占めていて、打楽器、吹奏楽器、弦楽器などさまざまな楽器がありました。

手前右は、家の守り神として親しまれていたベス神像(新王朝時代・おそらく第18王朝後半、前1300年頃)。
ロータス(睡蓮)の花の上に立ち、タンバリンを叩いて悪霊を追い払ったというベス神像の髭をはやしたお顔は親しみを感じるので、人気があったのもよくわかります。
ぜひタンバリンの音でコロナ禍を吹き飛ばしてもらいたいです。



古代エジプトの女性にとって、化粧は身分の象徴や護符としての役割を果たしていました。
こちらにはアイラインを強調するためのコホルを入れていた壺をはじめとした化粧道具などが展示されています。



ミイラは古代エジプト王朝が続いていた間だけ作られていたと思っていたのですが、実はエジプトがローマ帝国に征服された後にもミイラ作りは行われていました。

しかしながら、ミイラの棺に描かれた肖像画は古代エジプトとは違っていました。まるでポンペイの壁画に描かれた人物のようです。


古代エジプト展といえば、やはり黄金のマスクは欠かせません。
こちらは「黄金のカルトナージュのミイラマスク」(プトレマイオス朝時代末期~ローマ支配時代初期、前100年~後100年頃)。
古代エジプトの衰退期にもこんなに豪華な黄金のマスクが作られていたのは驚きでした。



「06グレコ・ローマン時代の若い男性のミイラ」のエリアを出ると「古代エジプトの遺跡と発掘」のエリアに移るのですが、ここでサプライズがありました。なんとロゼッタストーンとツタンカーメン王の黄金のマスクのレプリカが展示されているのです。
このエリアだけは撮影OKです。
レプリカとはいえ燦然と輝くツタンカーメン王のマスクとともに記念写真をぜひ!


「エジプト・サッカラ遺跡の実寸大部分模型」のエリアを見たあとは第2会場に移ります。

珍しいものが登場してきました。

国立科学博物館が所蔵する「猫のミイラ」。なんと本邦初公開す!
※東京会場のみの展示です。
右手奥では「猫のミイラ」の匂い(再現)をかぐことができるので、ぜひお試しあれ。


ミュージアムショップには、先ほど紹介したピラミディオンがまるでピラミッドのように積まれていました。古代エジプトでは主食のパンを焼くのに使われていた大麦にちなんで、大麦ポン菓子(税込 1,080円)が中に入っています。
他にもご覧のとおり、Tシャツやマグカップもあって充実の内容です。


コンパクトなサイズの公式図録(税込 2,500円)は、展示作品はもちろん、CTスキャン画像も掲載されていて、詳しい解説つき。おうちでも古代エジプト人たちの暮らしぶりに思いをはせることができます。


日本にこれだけ多くの古代エジプト展が同時に開催されることは二度とないかもしれません。
この機会を逃さず、ぜひ3つの展覧会コンプリートにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。


他の二つの古代エジプト展も現在国内を巡回中。いまトピに紹介記事を書いていますので、ぜひこちらもご覧ください。

【スフィンクス奇跡の来日!】古代エジプト神話の世界を見てきた。

【何千年もの時を超えてやってきた!】古代エジプトからのメッセージを聞いてみませんか。