【20歳の群像】第6回 オバマ

2014/4/25 16:30 ドリー(秋田俊太郎) ドリー(秋田俊太郎)


マイ・ドリーム―バラク・オバマ自伝


 ついにオバマである。ついにって言い方もおかしいが。オバマ来日というこの絶好のタイミング。これを逃すわけにはいかないだろう。今、もっともタイムリーな外人。オバマ。ちなみに私のオバマ観はほとんどないといっていい。オバマのことをそんな真剣に考えたこともないし。オバマの打ち出した政策とか、政治理念とかまったく知らないし・・・。でも好きか、嫌いかっていわれたら、好きって答えちゃうぐらい。オバマは嫌いじゃない。ヒラリーとオバマだったらオバマを応援してたし。

 今、人気下がってるらしいけど、オバマが大統領してるアメリカは、少なくともほかの知らないガタイがいい白人がやるより、なにか親近感があるような気がする。


 そんなオバマはいったい何者であるのか。「オバマの20代」・・・深く切り込んでみたいテーマだ。アメリカの大統領の「20代」ってどんなん!?ということがやはり気になるとこであろう。そんでさっそく読んでみたのである。オバマの自伝、「マイドリーム」 そんで読んでみて思ったこと。オバマを一言でいうなら、「いい奴」だということだ。読む前からなんとなく「いい奴」なんだろうなって思ってたけど、読んでみたら、ほんとに「いい奴」で驚いた。クラスにひとりはいるだろう。しゃべってもそんな面白くないけど「いい奴」っていう。


 たとえば、成功者をみんな一クラスにまとめたら、ジョブズは下向いてコソコソなんか爆弾つくってる。プーチンは腕組みして番長みたいにふんぞりかえってる。そのなかでひときわ飛びぬけているわけでもなく、かといって目立たないといえばそういうわけでもなく、たまにハメをはずしたりもするけど、心はピュアで、ちゃんと当番になるとウサギにエサあげてる。そんな奴。それがオバマである。


 たとえばオバマ、21歳のとき、貧乏アパートにすんでたんだけど、となりに独り身のおじいちゃんが住んでいたらしい。そのおじいちゃんとは一言も会話したことないんだけど、ある日そのおじいちゃんが倒れて、レクキュー隊員がおじいちゃんの部屋に入る。その様子をうしろから眺めながら、おじいちゃんの部屋を見つめ、オバマはこう思う。

 「その光景の寂しさに胸を突かれ、一瞬、彼の名前くらい聞いておけばよかった、と思った。だがそんなことを思ったばかりによけいに悲しくなって、そんなこと思わなければよかったとすぐに後悔した」(P4) 

もうこの感性が「いい奴」なのだ。人に何かしてあげるとか、そういうことじゃなく。こんな感性をもってる奴は「いい奴」に決まってる。

  シングルマザーの母親に育てられたオバマ。落第すれすれの成績表、校長室への呼び出し、ハンバーガー屋でのバイト。アメリカのどこにでもいるベタな若者だったオバマ。白人と黒人とのハーフというアイデンティティーに悩まされる青春を送り、黒人から「おまえは俺たちの気持ちわかんないよな」と言われ、白人からは「あっち行けニガー」といわれ、これによりオバマの内面はかき乱され、しまいにはマリファナやアルコールに手を出し、溺れていくのである。

 ジャンキー。マリファナ常習者。それが私の行く末だった。(P111)

 堕落オバマである。

このとき18歳。そんなオバマを救ったのは「母ちゃんごめんね」というオバマ自身の罪悪感であった。母ちゃんごめんね、それがオバマを寸前のとこで思いとどまらせ、高校をがんばって卒業し、オバマ大学に進学。
そしてここからモラトリアムワールドへ突入。大学にも興味が持てない。やりたいことがない。
あるとき、知り合いの詩人のおじいさんからこういうこといわれる。

「大学へ行く目的をしっているかな?」

「わかりません」

「分かるか。大学へ行くのは、教育をうけるためじゃない。訓練をうけるためなんだ。大学は必要じゃないものを欲する人間になるように、おまえたちを訓練する」(p116)

名言である。これよりオバマ、大学で自分のなすべきことは何かを真剣に考え始めるのである。大学を卒業するまであと2年。時間はもう限られている。私にはコミュニティーが必要なのだ。(p138) 居場所がほしい。社会にコミットしたい。オバマの出した結論は・・・。

「よし、おら、コミュニティーオーガナイザーになる!」

というものであった。なにそれ?と思うだろう。しかしオバマも「どんな仕事なのかと聞かれても、答えることすらできなかった」(p158)と、よくわかってないのであった。とにかくなんかそれっぽい、オーガナイザーって響き、よくね?ぐらいのレベルなのである。

 しかし口先だけは始まらないので、オバマ、そこからオーガナイザーになるべく、公民権運動をやっている組織に手紙を出したり、困ってる人を助けようと決意する。しかしオーガナイザーは地域活動というか、ほとんどボランティアみたいな仕事なので儲からないわけよ。

 そこでフツーの会社で働きはじめるんだけど、「オレ、オーガナイザーになるんだあ、」とかいうと、白い目で見られたり、警備員から「オバマさん、まだ若いんだし、そんな夢おっかけてないで、金持ちになろうよ」とかいわれたりして、オバマの夢はだんだんとしぼんでいくのである。オバマ、このとき22歳。「20歳でどのぐらいのことをしていたのか」というと、

会社では金融ライターというポジションに昇格し、自分のオフィスと秘書を持ち・・・(p162)

すごすぎ。

 しかしこれじゃない。自分のやりたいことはこれじゃない。もっと政治的なことがしたいんだ。 満たされない毎日のオバマ。
会社を辞めたい。しかしやめてどうなるか・・・見通しが見えない・・・。堅持な人生をとるか、夢をとるか。どこでオバマは決断したのか。


それはある電話だった。


 親戚の姉ちゃんからかかってきた電話で、オバマの親戚の少年がバイク事故で亡くなったという知らせなのである。

 この少年はどんな大きな夢を内に秘めていたのだろう?(P164)

 オバマは自問し、翌日、会社に辞表を出し、オーガナイザーの仕事を探しはじめるのである。


 このバイク事故の少年でふんぎりをつけてオーガナイザーという仕事についたオバマ。 これがのちに政治に関わるキッカケとなり、オバマを大統領まで導くのであるのだが、オバマの人生、「死」のことを考えると自分のやりたいことが見えてくる・・・というある重要な教訓を学べたりする人生なのである。

 やりたいこといい、それをやろうとしたキッカケといい、何から何まで、穢れたとこがない。ほんとにピュア。オバマってほんといい奴だよ。