【20歳の群像】第2回 スティーブ・ジョブズ

2014/1/31 11:55 ドリー(秋田俊太郎) ドリー(秋田俊太郎)




本コラムの作者ドリーさんは、村上春樹氏の「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」Amazonレビューにおいて、日本記録である23000票以上の「参考になった」を集め、大きな話題になりました。

この連載「20歳の群像」では、過去の偉人が20歳の頃に何をしていたのか?
ドリーさんならではの視点と語り口で迫ります!(いまトピ編集部)





今回とりあげるのはジョブズである。

実を言うと、ジョブズのこと今までそんなよく知らなかったのだ。

アップルのパソコン買ったことないし、iPadもiPhoneも使ったことないし、パソコンのこともよく知らないし、ソフトウェアとハードウェアの違いもわかんないし、ハイテクなものとはずーっとよくわかんないの人生を送ってきたわけよ。

だからジョブズのこともあんま興味なくて、亡くなった時、すごい「ジョブズが死んだぞ!」って世間がなってて、なんでそんなに騒がれてるんだ、まず誰やそのおっさん・・・ぐらいの認識で、自分だけジョブズ追悼ムーブメントに乗り切れなかったことを今でも鮮明に覚えているのだ。そんな自分がなぜジョブズを取り上げるのかというと・・・。

あのとき感じた疎外感、ジョブズって誰なん? 何がすごいん?をこの機会に思いきって確かめようと思ったわけなのだ・・・。


 そんなアナログ人間がこれからジョブズのことを知るとなると、専門的なことはさっぱりわからないのでそれは別の人にまかせるとして・・・。

本企画では20代における成功者の歩みをテーマにしたがい、ジョブズは20代の時に何をしていたのか? 何に悩んでいたのか。何を成し遂げてたか。そして成功に導いた性格的要因である「ジョブズはフツーの人と何が違うのか」というところを重点において、ジョブズというおっさんの人物像に迫っていきたいと思うわけよ。

もうジョブズほど成功した人間はいないと思うので、このおっさんのこと知ることは、日頃から成功を夢見てる自分にとってはまさに模範とすべき教科書だと思うのよね。




 まずジョブズの自伝(スティーブジョブズ:講談社)である。

この本、面白いのは、ジョブズがいかにすごいか、と同時に、ジョブズがいかに「クソか」ということが同時並行で書いてあることなのだ。たとえばジョブズが部下をしょっちゅう怒鳴りつけて、誰かが「ジョブスさん、こんなんできました!」ってなんかもってきても「こんなクソなもんもってくんじゃねーよドアホが、才能ねーのか」みたいな。

けっこう辛辣に。しかもその割合がハンパなく多い。つねにイライラしてて、人に怒鳴り散らすわけである。

ピクサーの社員なんかジョブズがアップルに戻る、てなった時にみんな大喜びしたらしく(普段ジョブズに怒鳴られてるから)とにかく悪鬼が人間に姿を変えたかのように、怒りのランプ常にピコピコ点灯させ、下々のものを震えあがらせる、まさに暴君である。


もちろんモノづくりにかける情熱が強すぎてそうなってしまったのだが、自伝にまで悪口を書かれるジョブズ。なんというか、松下幸之助タイプではない賢者だとすると、ジョブズは愚者タイプの成功者だよね。

フツーならこんな上司に部下ついていかないけど、しかしそれが結果的に、妥協を許さないシャープな製品を生み出した根っことなっていくんだけど、結果だしてるからいいってわけじゃないぞ・・・という部下の恨みのこもったジョブズ批判が冷静に語られ、嫁はんからもジョブズは他人の気持ちがわからない人です、とさじを投げられる始末なのである。

 そんな業の深い成功者ジョブズがどういう来し方で、今の成功に至ったのかをダイジェストで振り返ってみたいと思う。


まず中古車販売の仕事をする父親の影響で、幼少期からエレクトロニクス(電子工学)に興味を持ち始めた少年ジョブズ。そしてあるとき、父親と機械をいじってるたら「こうしたほうがいいんじゃないかなパパ」とジョブズのひらめきで機械がスムーズに治り、このときジョブズは「あ、オレって大人より頭ええんや、天才なんや」と思うのである。

これがキッカケで「自分は特別だ」という、何か、普遍的に誰もがもつ、こっぱずかしい自己愛が早いスピードで芽吹きはじめ、しかもジョブズのそれは実際に結果が伴うものであり、飛び級して中学に行くなど、その神童ぶりはジョブズの自己愛をさらに拡大させるのであった。

 そして中学に入ると、成功者の幼少期にありがちな「いろんな大人を困らせるクソガキ」へと成長。いたずらっこジョブズの開眼である。学校に「ペット連れてこよう」ってポスター貼ったり、みんなの自転車をのれないようにしたり、まぁここまではギリ許せるが。


先生の椅子の下に爆薬をしかけたことがあってね。先生は引きつけを起こしちゃったよ(P42)


 それはアカンやろ・・・

 いや、ジョブズは大人になってからも、それはアカンやろってことを平気でする傾向があるやつなのだ。

 そんな悪ガキのジョブズ。しかし理解のある教師と出会い、不良になることなく高校へ進学し、数学やエレクトロニクスへの興味を示す一見フツーの高校生となる。

ここでジョブズの「フツーと違うところ」

たとえばなんか機械いじってて、この部品どこにも売ってないわって思ったときにさ。フツーの人なら諦めちゃうけど、ジョブズは製造者の社長の家に電話して「部品ください」とか言っちゃうわけよ。平気で。なんか、こういうね。物怖じしない大胆さ、というか。些細なことだけど、この怖いぐらいの積極性がジョブズを成功に導いたひとつの大きな要因になっていくのだ・・・。


やがて文学や音楽やクリエイティブな分野にも興味をもちはじめるジョブズ。
そしてあるとき、人生を変える決定的な出会いに遭遇する。ウォズニアックである。このウォズニアックの登場で、ジョブズの機械ギークとしての自尊心はもうぺしゃんこに、完膚なきまで打ちのめされるわけである。

今まで「オレは特別だ!」という意識でいろんな機械いじりに精を出してきたジョブズだったが、ウィズはジョブズのはるかに上を行く、もう血統書付きのオタクで、ジョブズがヒースキット作ってる時に、ウォズは高度な無線機つくって、アマチュア無線の免許もってたりする凄物であった。もうめっちゃ強いわけよ。

だからジョブズはウォズの才能に嫉妬し、「オレってすごくないやん」って打ちのめされるんだけど、そのまま仲良くなって、あるとき「ブルーボックス」っていうどこへでも電話をかけられる機械をウィズがつくり、それをジョブズが売ろうと持ちかけて、17歳でそれを100台売るという偉業を成し遂げるのだ。

ウィズが作り、ジョブズが売る、という役割分担が形成された最強コンビ誕生の瞬間なのだった。

そうこうしてるうちに大学進学である。ところがジョブズは大学進学を拒否。
「どこに行きたいんだお前は」って親が聞くと、「僕はね、もっとね、アートなところ行きたいんですよ」というモラトリアム系サブカル男子まる出しの返答をして親を困らせる。

結局、アート系の大学に行くことになり、ここでジョブズの本当に愛おしい、抱きしめたくなるような部分が顔をのぞかせる。

親が大学キャンパスまで見送ってくれたのに、ジョブズはこれを拒否。なぜかというと、親がいると知られたくなかったのだ。なぜ親に知られたくないかというと、天涯孤独の孤児みたいな、そういうイメージで大学デビューを狙っていたからである。


「無賃乗車で放浪する孤児がたまたまそこに来たというイメージにしたかったんだ」(P72)


もうしょっぱくて目が当てられない。

「あちゃー」と同時に、本当に愛おしい。ジョブズの「こんなオレどう?」が炸裂だ。青春のはしかだ。天涯孤独アピールなんて、ジョブズがそんなことやっちゃうなんて。大学デビューにおける「あちゃー」がジョブズにもあった。それが知れただけで、ボクはジョブズを無条件に肯定したい気持ちにかられたぞ。

そしてそんなジョブズの大学生活は、予想を反して、一言で言うなら「スピリチュアル」。これに費やされるのである。

大学に入ると、ジョブズはモラトリアムの行き着いた果てか、悟りや精神世界に関する本を読みあさり、禅や仏教にも傾倒し、論理的な思考よりも直感が一番大事だ!ということを学ぶのである。

さらには本の影響で菜食主義者になり、りんご一個だけで何週間もすごすっていう断食キャンパスライフを送り始める。

友人たちはそんなジョブズを「夕暮れ時のような色をしていた」(P75)と証言するほどだった。(どんな色や・・・)


とにかくジョブズはここから機械的なものとは無縁な方向に行きはじめるのよ。
そして瞑想に次ぐ瞑想。しだいにそんなことをやっていくと、大学にも飽きて、単位をとるのがめんどーなのでもう好きな講義にしか出ない、と決め、デザインに関する授業だけをとってあとはボヘミアンな生活で、雪が降ってもだいたいはだしなのである。

 パソコンなんか作ってる従来のジョブズのイメージとは真反対な、限りなく世捨て人に近い、お坊さんみたいなキャンパスライフを送るジョブズ。

 そうこうしてうちに大学も終わり、ジョブズは「ある目的」をもって実家に帰り、仕事を探し始めるのだ。そして目星のゲーム会社に行き、こっからがジョブズ的というか、ステキなのだが、「雇ってくれるまで帰らない」と宣言し、会社に居座るのである。新しいタイプの就活術だ。

 ところが、これで就職できちゃうのである。あいつは何かある、みたいにとられて。アメリカはすごい。


ところがこんなジョブズなので、会社に入ってからもやはりステキなのであった。まず草食主義者は変な汗をかかないからシャワーを浴びなくても平気と称し、体臭をまき散らしながら、誰彼かまわず「バカ野郎」とこき下ろすのである。もうただのキ○ガイだ。

 会社に入った理由はそもそも「お金が欲しい」というだけで、本当の目的はお金を稼いでインドに行くことだったのだ。ジョブズのモラトリアムは、インド放浪という自分探しの旅と突き進んでいく。


「僕にとっては真剣な探求の旅だった。僕は悟りという考え方に心酔し、自分はどういう人間なのか、なにをすべきなのかを知りたいと思ったんだ」(P88)


 この時、ジョブズ19歳。インドへ自分を悟りに導いてくれるマスターを見つけるためインドへと向かう。

しかしインドへ行き、あちこちを放浪して歩くもの、マスターは見つからず、最終的に、買った牛乳が水増しされてたので売り子と大声でけんかして、それで帰って来るっていう、ものすごいしょーもない結果に終わり、でもインド人が直感で生きているのを見て、やはり「直感」は大事だな、と再認識し、そこから実家に帰ったジョブズは時間をかけて自分探しをつづけ、瞑想に次ぐ瞑想、禅を勉強し、さらなる悟りへの境地へと歩み始めるのだ。みんなの知ってるジョブズ、いつ出てくんねん・・・。

 そして決定的な出会いにまた遭遇する。近所にあった禅センターで知野弘文という日本人の老師と出会うのだ。ジョブズはこの日本人に深く心酔し、悟りへの手ほどきをうけるのである。それであるとき、もう思い切って「出家したらダメっすか」と千野弘文老師にたずねるも、ところが老師、「仕事をしつつスピリチュアルな世界とつながれることは可能だからやめたほうがいい」とジョブズの出家をとどまらせるのである。

出家しようとしていたジョブズ。もうこの時点でびっくりだけど、しかしこの老師の一言がなかったら、アップル2もアイポッドも、アイチューンズもピクサーもなかったかもしれないから恐ろしい・・・。

出家なんかしてたらもうジョブズ、確実に向こうの世界でお坊さんみたいになっていた可能性もあるわけよ。そう考えると、運命ってすごすぎ・・・。

 そして言われたとおり、会社に戻り、ウィズと組んでゲームを作り始めるジョブズ。
エンジニアの天才ウィズが製造し、ジョブズがプロディースし販売。やがて事業をやろうということになりアップルが誕生。パーソナルコンピューターをウィズが作り出し、ジョブズがそれを売る。

こう書くと、ジョブズってあんますごくないやん、みたいな感じがするが、ジョブズもけっこうそれを気にしていたらしく、ウィズの父親から「お前いらんやん。うちの息子天才やけど、おまえなにも作ってねーじゃねーか」ってボロカス言われて、ジョブズもなんか言い返すかと思ったら「ジョブズは泣き出し」(P128)と、泣いちゃうのである。可愛い。


 ジョブズが無能ではもちろんない。ウィズの才能を売り込むことにかけての事業化としての手腕はジョブズの功績だし、あとデザインに関するセンス。たとえば冷却ファンのいらない電源をつくろう、と提案したり、理由はコンピューターのファンは「禅っぽく」ないから、という、禅の美的感覚で機能美を追求したりする姿勢はウィズにないものである。

この二人の傑出したセンスが融合され、最終的にアップルはジョブズの実家のガレージから事務所へと格上げ。

しかしここから悪名高いジョブズの「ステキ」が露出しはじめる。たとえばシャワーを浴びない。まぁこれはあたりまえ。そして他人のアイデアを否定し、ボロカスに言い負かす。

しかも一番ひどいなと思ったのが、他人が思いついたアイデアを否定しておきながら、「なぁ、聞いてや。オレめっちゃすごいこと思いついた」って翌日になって自分が思いついたみたいな感じで言ったり(ダメだろこれ) そして便器に足を突っ込んで水を流すというストレス解消法も周りを不安にさせ(P143)なんだそれ・・・。


 そんでもって自尊心も相変わらず高いのである。社員ナンバー決めるときに「オレが一番やろ」って図々しく出てきて、みんなが「いやお前は二番やろ、どう考えてもウィズが一番やろ」みたいなこと言われると、「じゃあオレ0番!!!」って、もう小学生の男の子みたいなことを真剣に要求してくるし(これマジやからね)

 禅に没頭しておきながら、なんでこんな煩悩だらけなんだ、と思うが、これがジョブズの愛らしいところだと思えばなんとかこらえれる。なんかジョブズの悪口ばっか書いてるような感じだが。

このころジョブズ25歳。

「20歳でどれだけのことをしたか」というと。22歳で会社をたて、25歳にはパソコンが売れてすでに2億ドルの大金持ちとなっていたのだ。・・・・勝てない。


 25歳のジョブズを成功に導いたの要因はおそらく「積極性」「美的センス」「こだわり」「自尊心の高さ」「直感型」この5つに集約されるような気がする。

足りない部品を社長の家にまで問い合せちゃうような積極性。この積極性が、就職へとつながり、ウィズという才能をぐいぐいと企業に売り込むきっかけとなり、そして禅で養われた「美的センス」がウィズの作った機械に美をやどし、このセンスにたいする「こだわり」が完璧主義のジョブズのシャープな製品を生み出し、「自尊心の高さ」で、ちゃんともらうべき栄光を勝ち取る執念さ(雑誌で特集された時に、パソコンだけがのせられて自分が写ってなくて、それが悔しくて号泣するなんてジョブズぐらいだろう)

そんでもって出たくない授業には出ない、インドに行こうと思ったら行く。「やりたいことしかできない」という(これも禅で培われた)直感優先的な性格。

 これらの要素が複合的にからみあって、ジョブズという人間を培ってきたのかと思うと、成功ってまたかなりいろんな要素がないとダメなんだな、と思うことしきりなのである。


しかし成功に全くいらない要素もあって、よく考えると「断食」はホントいらなかったな・・・。