不朽のかわいさ♡ 明治・大正・昭和のグラフィックデザインに一目ぼれ

2019/11/24 20:30 虹

▮神坂雪佳(かみさか・せっか)
 エルメスが刊行する雑誌の表紙を飾ったこともある、日本画家の神坂雪佳
 四条派の絵師・鈴木瑞彦の弟子として活動していた雪佳ですが、谷口香嶠や図案家である岸光景らとの出会いにより、琳派を踏襲した作品を描くようになります。


▲神坂雪佳「百々世草」より《八つ橋》 © 2019 Smithsonian Institution


▲神坂雪佳「百々世草」より《雪中竹》 © 2019 Smithsonian Institution

 また、アール・ヌーヴォーウィリアム・モリスの「アーツアンドクラフツ運動」に触れることにより、次々に洒脱な図案を考案していきました(かと思えば、西洋かぶれを皮肉ったりする一面も……笑)。とにもかくにも、京都図案界の重鎮的な存在と言えるでしょう


▲こちらは帰国中の船上から見た海面にインスピレーションを受けて描いた作品。神坂雪佳「海路」 © 2019 Smithsonian Institution




▮古谷紅麟(ふるや・こうりん)

▲古谷紅麟「こうりん模様」より © 2019 Smithsonian Institution

 字こそ違えど「こうりん」の響きのとおり、尾形光琳をリスペクトする絵師・古谷紅麟。日本画を学びつつ神坂雪佳からは図案を学び、図案のコンペにおいて数々の賞を受賞しました。
 神坂雪佳は「百々世草」において琳派を踏まえた作品を描いていますが、紅麟も然り。「こうりん模様」はその最たるものとも言えるでしょう。ちなみに「こうりん模様」は、現在和歌山県立近代美術館にて開催中の「ミュシャと日本、日本とオルリク」展でも展示されています。


▲古谷紅麟「しましま」より © 2019 Smithsonian Institution

 こちらは「しましま」という「縞模様」にスポットをあてた図案集ですが、単におしゃれなだけでなく、そろばんの珠を縞模様に落とし込むなど、ユーモアに溢れているのも特徴です。



▮河原崎晃洞(河原崎奨堂/かわらさき・しょうどう)
 幼いころから絵を描くことが好きだった晃洞は、古谷紅麟の弟子であり、染織図案家である山本雪桂に入門します。山本雪桂の師である古谷紅麟は、上で紹介したように神坂雪佳の弟子! さかのぼると繋がりが見えてきますね。


▲河原崎晃洞「花詩集 波紋の巻」より © 2019 Smithsonian Institution

 雪佳からも影響を受けた晃洞は、やがて工芸図案、特に型友禅の図案を手掛けるようになります。ここには載せきれませんが、晃洞の図案はひっくり返りそうになるほどハイセンスで、冗談抜きに眩暈を感じてしまうほど。ぜひ「河原崎晃洞」で画像検索をしていただきたい……ッッ!
 また、晃洞は竹内栖鳳門下の芝原希象のもとで日本画を学び、ボタニカルアートにも秀でています。早逝してしまったのが惜しすぎる存在。


▲河原崎晃洞「聚古文様 」より © 2019 Smithsonian Institution




▮津田青楓(つだ・せいふう)
 東京国立近代美術館で開催中の「窓展」にて、衝撃的な絵画をご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか? ひどい拷問を受け、ボロボロになった姿で吊り下げられた人物を描いた《犠牲者》。獄死した小説家の小林多喜二をモデルにしたとも言われるこの絵は、津田青楓によって描かれました。

窓展:窓をめぐるアートと建築の旅
会期:2019年11月1日(金)~2020年2月2日(日)
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー



 これをして青楓は暫し「プロレタリアの画家」と称されることがありますが、彼の画業を追っていくと、「同じ人が描いたの?」と驚いてしまうほど幅広い画風を使いこなしていることがわかります。
 谷口香嶠浅井忠らに師事した後、政府の援助を受けて安井曾太郎と共にパリに留学します。洋画家として活動した際に描いた作品が先の《犠牲者》ですが、その後再び日本画へ転向。晩年は良寛の研究にも勤しみました。そんな青楓が初期に手掛けていたのが図案の仕事です。


▲津田青楓「華紋譜 楓の巻」より © 2019 Smithsonian Institution

 愛らしく、且つキリッと引き締まる構成は、かの夏目漱石にも愛されたほど。実際に漱石に絵を教えたり、彼の装丁をいくつも引き受けるなど深い親交がありました。


▲現在集英社文庫から刊行されている夏目漱石の作品は、津田青楓の図案を使って新しくデザインされています。

 2020年2月21日より練馬区立美術館で開催される展覧会「背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和」は、3つの時代に渡って絵を描き続けた青楓の画業に迫る展覧会。
 一体どのような体験を経て、彼は多彩な画家となったのか──要注目の展覧会になりそうです。

生誕140年記念 背く画家 津田青楓とあゆむ明治・大正・昭和
会期:2020年2月21日(金)~4月12日(日)
会場:練馬区立美術館






 「記事の終わりに“いかがでしたか?” という一文を入れるメディアは嫌いだ」という意見もありますが、敢えて……敢えて言わせてください!
 いかがでしたか?
 最高にかわいくないですか!?
 権利の関係で、載せたい画像を載せることができなかった部分も多々あり……。もっと……もっとすごいんですよ実際は……‼ 図案家に関しても、津田青楓の実兄である西川一草亭をはじめ、荻野一水、杉浦非水、浅井忠、杉林古香、下村玉廣などなど、ウィーン分離派が好きな人やチェコのデザインが好きな人にも全力でおすすめしたい作家がたくさんいます!
 明治工芸が再評価されつつある昨今、テキスタイルデザイナー、グラフィックデザイナーともいえる図案家たちの仕事も、再度流行ってくれ……と願わずにはいられません。本当にため息が出るほど魅力的な作品ばかりなので、目にする機会がありましたら、ぜひめくるめく図案の世界をのぞいてみてくださいね。

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