【衝撃の破壊力】「へそまがり日本美術」展を見逃すな!

2019/3/21 09:40 虹

◆誰もが持っている「へそまがり」な感性とは?
日本では古くから整っていたり綺麗だったりする「見事な」造形美が受け継がれてきました。私たちはそれらを観るたび、その素晴らしさに嘆息します。しかしその一方で、不格好だったり完全ではないものにも、どうしようもなく惹かれてしまうんですよね。


▲遠藤曰人《蛙の相撲図》※部分 紙本墨画淡彩 1幅 江戸時代後期(19世紀前半) 仙台市博物館蔵

どこか「とぼけて」いたり「ユルい」もの、「苦さ」を感じるクセの強すぎる絵に抱いてしまう謎の愛おしさ。その感覚こそが、本展でいうところの「へそまがりな感性」なのです。



◆初公開44点! 破壊力抜群の絵画たちを見逃すな!

上記の作品を観てわかるように、会場には良くぞ集めたと拍手を送りたくなるほど破壊力抜群の絵画がずらりと並んでいます。初公開作品はなんと44点! こういったテーマの展覧会でないと、なかなか出会えることのない傑作が一堂に会します。

展覧会はまず禅画からスタート。禅画とは仏教のひとつである禅宗の教えや精神を絵で表したものです。
入ってすぐに対面するのが仙厓義梵の《豊干禅師・寒山拾得図屏風》。左の屏風に描かれている、虎に乗った禅僧が豊干禅師。右の屏風に描かれた二人組が、豊干禅師の弟子である寒山拾得です。


▲仙厓義梵《豊干禅師・寒山拾得図屏風》 紙本墨画 6曲1双 文政5年(1822) 幻住庵蔵(福岡市)

一見のびやかな作品に見えますが、近づいてみると……。


▲仙厓義梵《豊干禅師・寒山拾得図屏風》※部分

寒山拾得は奇妙に描かれることが多いけれど、これは一段とすごい……。虎と一緒にいる猫の顔もすごい。
のっけからパンチの効いた絵が登場しますが、ここから先はこういった作品が目白押しです。禅画と言えば仙厓義梵と白隠慧鶴の二大巨頭が有名ですが、本展でも彼らの魅力が余すことなく紹介されています。


なんだかワルそうな布袋様…… ▲白隠慧鶴《布袋図》 紙本墨画 1幅 江戸時代中期(18世紀後半) 個人蔵



本展担当学芸員の金子先生も「衝撃的な面白さ」と太鼓判を押す逸品!
 ▲仙厓義梵《十六羅漢図》 紙本墨画 1幅 江戸時代後期(19世紀前半) 個人蔵

《十六羅漢図》はキャプションに「目からビームが」とありましたが、周囲の羅漢の顔も含めて岡田あーみんの世界を彷彿とさせる振り切れた表現です。

仙厓・白隠の他にも「こんな慧可断臂ある!?」と思わずツッコミを入れたくなってしまうような表情の断臂図や、もはや吉田戦車の漫画に出てきても違和感がないビジュアルの布袋様も。(見るからに何でも許してくれそうな布袋様は、へそまがり絵師たちに狙われる率がとても高いのです)


禅宗の開祖・達磨に弟子入りしたくて決意の固さを示すために自ら腕を切り落とした慧可の顔たるや。▲惟精宗磬《断臂図》※部分 紙本墨画 1幅 大正11年(1922) 早稲田大学會津八一記念博物館蔵



「皿の中にある水を零さぬよう、心を落ち着けて生きていこう」ということを表しています。「頭文字D」の世界。 ▲春叢紹珠《皿回し布袋図》※部分 紙本墨画 1幅 江戸知時代中期-後期(18世紀後半-19世紀前半) 個人蔵

破壊力が凄まじいのは禅画だけではありません。
文豪・夏目漱石が絵を嗜んでいたのは有名な話。天皇買い上げの作品を描いたほど絵が上手かった木島櫻谷を酷評したこともありました。そんな漱石自身の作品を見てみると……


▲夏目漱石《柳下騎驢図》※部分 絹本着色 1幅 大正時代前半頃(1912-16) 個人蔵

いや、あの、決して下手ではない! この澄んだ瞳のおじさんの表情なんてなかなか描けるもんじゃない。……でも、笑ってしまうのを禁じ得ない何かがそこにはあるんですよね。


◆上手いからこそ「ハズせる」テクニック

「面白いけど、あんまり上手くない人の絵ばかりを集めただけなのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。そこで挙げておきたいのが伊藤若冲、長沢蘆雪、狩野山雪、歌川国芳です。
彼らは現在、東京都美術館で開催中の「奇想の系譜」展にて超絶な日本美術を展開している絵師たち。先に紹介した白隠も奇想メンバーの一人です。
「上手い」、「すごい」、「美しい」ができてしまう彼らですが、上手いからこそハズせるテクニックというものを本展にて披露しています。わざと稚拙な絵柄にするところもまた「へそまがり」ですよね。


▲狩野山雪《松に小禽・梟図》※部分 紙本着色 1幅 江戸時代前期(17世紀) 摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)

なんともとぼけた顔の梟。山雪はこのタイプの梟を描くのが好きだったのか、本作のほかにも《松梟竹鶏図》(根津美術館蔵 ※本展には出品されません)があります。

続いて伊藤若冲の《福禄寿図》。
頭が長すぎる! と言いたいところですが、全体のバランスの良さはさすがの一言。若冲だからできる遊びですね。この一筆箋がほしい。


▲伊藤若冲《福禄寿図》紙本墨画 1幅 江戸時代中期(18世紀後半) 個人蔵

壁の落書きを模した国芳の作品。下手な字、不格好な絵、そして赤塚不二夫みのある猫を狙って描けてしまうのは彼が神絵師だからこそ。


▲歌川国芳《荷宝蔵壁のむだ書》紙本木版 3枚組 江戸時代後期(19世紀前半) 個人蔵


赤塚不二夫的な猫。役者絵など「華美なもの」を描くことが禁止された天保の改革に対し、「役者が描いてあるけど落書きだからセーフ!」という意趣返しとしてこのように描かれたともいわれています。▲歌川国芳《荷宝蔵壁のむだ書》※部分 


ところで円山応挙長沢蘆雪の師弟と言えばカワイイ犬の絵が有名ですが、両者のワンコを比較するとそれぞれの違いがよくわかります。蘆雪の描く「シンプルな顔にモフモフの体」は強いて言えばサンリオ系。「表情がキラキラ豊か」な応挙のワンコは、さしずめディズニー系といったところでしょうか。


▲左:円山応挙《時雨狗子図》※部分 絹本墨画淡彩 1幅 明和4年(1767)府中市美術館蔵 右:長沢蘆雪《狗子図》※部分 絹本着色 1幅 江戸時代中期(18世紀後半)摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)


また、こちらは新発見のもの。蘆雪は後期に《なめくじ図》《猿猴弄柿図》といった「奇想の系譜」展出品作がやってきます。展示場所が変わると絵の印象も変わりますから、「奇想」から「へそまがり」な顔へ変化する様子もみどころのひとつになりそうですね。


▲長沢蘆雪《菊花子犬図》絹本着色 1幅 江戸時代中期(18世紀後半) 個人蔵


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