不謹慎とのせめぎあい…ヒロシマ・ナガサキの被爆建造物「ファンシー絵みやげ」(1/3)
■ 終戦記念日と夏休み
夏休みには原爆忌、そして終戦記念日があります。広島で生まれ育った筆者にとって8月6日は、朝にサイレンが鳴り、夏休みながら小学校へ登校し、原爆の悲惨さを伝える歌を唄うという日でした。
しかし広島の小学生でなくとも、子供たちは修学旅行などで戦争関連施設に行き平和教育を受けることも多いでしょう。そこでは観光地みやげとして、どうやって子供向け商品に落とし込むかという苦労の痕跡が見受けられるのです。
↑2015年3月に広島で撮影。運悪く健全度調査中でちゃんと見ることができず。しかし建て替えなどせず、当時の状態のまま耐震補強などしつつ保存しようとしていることが分かる。
■ HIROSHIMAのファンシー原爆ドーム
1980年代から1990年代にかけては好景気もあり、観光地では第二次ベビーブームの子供向けにたくさんの商品が作られました。漫画風のイラストを用いたこれらを「ファンシー絵みやげ」と呼んでいますが、かわいくしたり、ふざけたりという子供の好みを反映した商品群は、時に不謹慎だったり、悲劇にそぐわないといった側面を持っています。
それでも広島では被爆建造物とも呼ばれる原爆ドームをモチーフとした商品が売られていました。
「世界平和は我らの願い! LOVE&PEACE HIROSHIMA」と書かれていて、カップルと鳩の後ろには原爆ドームが描かれています。
平和教育としては子供に興味を持ってもらわないといけませんので、こういった漫画的なイラストと戦争遺構を組み合わせた商品が生まれたわけです。しかし実際の原爆ドームはもう少し「原子力爆弾の爪痕」ともいえる風合いを残しているのですが、イラスト化の限界もありかなり簡略化されています。
そして「世界平和は我らの願い!」といった強いメッセージが書かれていますが、ここまでのスローガンを込めた商品は珍しいのです。
さらにもう少し商品を見てみましょう。
こちらは先ほどの女の子がソロ出演です。「DREAMY GIRL」と書かれており、さらに「HEIWA GA ICHIBAN DAYONE!!」と書かれています。EAST END×YURIの「DA.YO.NE.」よりも早く、ローマ字の「DAYONE」が強調された重要な史料です。平和を夢見る少女ということで「DREAMY GIRL」なのでしょうか。
ここで戦争遺構として重要な視点があります。それがドーム部分の描き方です。最初に紹介したものは背景全体が黒く、原爆ドームも黒かったので分かりませんでしたが、こちらではラメの上に白版を敷いていますので、ハッキリとドーム部分が骨組みだけになっていることが分かります。これにより、はっきりと被爆後であるという表現がなされているのです。
「うちゃ広島へ行って来たんじゃけぇネ!」「わしゃあ広島へ行って来たんじゃけぇネ!」。こちらは全国的にみられる方言を使ったキーホルダーのシリーズですが、広島の象徴として描かれているのは、わしゃあの長方形では厳島神社の鳥居、そして原爆ドームです。しかも原爆ドームの、本当にドーム部分だけしか描かれていません。
しかし、うちゃの桜型のほうでは逆に原爆ドームしか描かれていません。そしてドーム部分に至っては今までの描き方と違い、主線の黒色ではなく塗りの色だけで描かれています。どちらがより悲惨さを伝えられるかは判断難しいところですが、それだけ表現に迷っていたのではないかと推察されます。
そして、このカップルはそれぞれ頬が紅潮しており、好き同士のカップルといった表現になっていますが、最初に紹介したキーホルダーでは、同じイラストながら紅潮表現が削除されているのです。さすがに原爆ドームの前で戦争に思いを馳せず頬を赤らめるのは不謹慎という判断なのでしょうか。
↑ランドセルが、男子は黒!女子は赤!という時代、男子的な色と女子的な色の2色展開が多かった。
こちらは先ほどのカップルを擬人化したウサギに置き換えています。「Love Love」「Run Run」と書かれていますが、Loveは英語でRunは英語の「ラン」ではなく「ルンルン気分」の「ルンルン」なのでしょう。英語と並べると分かりづらくなるといった配慮などないのが「出せば売れた」という時代を感じさせます。
こちらも背景の原爆ドームはかなりデフォルメされていて、さらにボーッとした巨大な鳩(!?)まで乗っかってます。かなり原爆ドームをユルく表現しているパターンです。
↑ぶら下がっているパーツは、潰すように押すとLEDライトが点灯する。
こちらはレモンビレッジのような横目の表情のカップル。カップルの体で原爆ドームの大部分を隠していますが、少しヒビのような表現が多く入っています。