なぜそこに犬!?…「ファンシー絵みやげ」で振り返る幕末~維新期の人物(1/2)

2018/2/9 12:00 山下メロ 山下メロ


お久しぶりです。平成元年あたりのカルチャーを発掘調査している山下メロと申します。80年代とも90年代とも違うその時代を、平成レトロとして愛好しております。



当連載では、80年代から平成初期に流行した「ファンシー絵みやげ」から、当時の流行を紹介していきたいと思います。「ファンシー絵みやげ」とは80年代からバブル経済期~崩壊を挟んで90年代まで、日本の観光地で若者向けに売られていた、かわいいイラストが印刷された雑貨みやげのことです。



「ファンシー絵みやげ」については連載第一回をご覧ください。

■ 『西郷どん』だけじゃない「with 犬」

2018年は戌年だからかNHK大河ドラマが犬を連れている上野の銅像で有名な西郷隆盛を主人公にした『西郷どん』で、前々回は西郷隆盛関連のファンシー絵みやげを紹介いたしました。


↑こんな風にファンシー絵みやげでも犬を連れている。

しかし、色々と幕末~維新期にまつわるファンシー絵みやげを見て行くと、西郷隆盛以外でも犬と一緒にいるケースが見受けられるのです。ちょうどファンシー絵みやげの販売された時期は、色々なドラマなどの影響もあり幕末ブームとも言える風潮がありました。なぜ幕末~維新期の人物たちと犬が一緒だったのかを見て行きましょう。

■ 白虎隊に犬!?

未成年のみで構成され、会津戦争を戦った会津藩の部隊が白虎隊です。戦乱の中ではぐれ、たどりついた飯盛山から燃える城下町を見て敗戦を悟り、自刃に及んだという悲劇の物語は知っている人も多いでしょう。


↑黒地に蛍光ピンクのコインケース。背景には鶴ヶ城、そして幟を持った犬がいる。

恐らく特定のメーカーのイラストだけなのですが、このように白虎隊のイラストでは犬が一緒に描かれるケースがあります。実は飯盛山にある白虎隊記念館前にある銅像で、隊士の足に犬がじゃれついているものがあるのです。これは、はぐれなかったが城へ退却していた白虎隊士・酒井峰治が、幼いころから飼っていた愛犬「クマ」と再会した場面を再現したもので、白虎隊と犬には関りがあるのです。


↑このように鹿児島と会津同じ仕様の三連状差しが存在する。

では、この状差しを見て行きましょう。
まずは鹿児島から。


↑桜島をバックに桜島大根を持つおごじょと、やはり犬が傍らにいる西郷隆盛。犬の眉毛が西郷どんと同じ。


↑指宿砂風呂。パラソルに「TAKAMORI」とローマ字で名前を書いてあるのがかわいい。


↑大きなかぶ? 大きな桜島大根? に乗るおごじょと、しがみつく犬。

こんな風に3つの異なるイラストが楽しめるのが3連状差しの特徴です。この西郷どんの犬に引っ張られたんじゃないかと思われるのが白虎隊なのです。


↑FIGHTING BOYS

FIGHTING BOYS。西郷どんの犬ではないため、眉毛は普通ですね。「NARANU KOTOWA NARIMASENU!」というのは、白虎隊士が通う会津藩校日新館の「什の掟」の最後にある「ならぬことはならぬものです」から来ているようです。「什」というのは「通学班」のようなもので、地域ごとの組織が作られていました。

下に書かれている「BOKURA NO TOMODACHI BYAKKOTAI」。僕らとは一体誰の立場なのでしょうか。


↑GENKI WO DASUNDA BYAKKOTAI

「GENKIO DASUNDA BYAKKOTAI」などと突然励ましていますが、これは飯盛山へ入る直前に、持っているわずかな食糧を水にといて飲んだというシーンですね。このような、そこまで知られていない場面さえも描写しているというのは素晴らしいのですが、にしても極限の状況なのに、ファンシー絵みやげの宿命か、緊張感がありません。

さらに、犬も柄杓を持っているところがかわいいのですが、前述の通り犬といえば酒井の愛犬クマです。しかし酒井ははぐれていないためこの中にはおらず、ここに犬がいることはおかしいですね。



煙のあがる鶴ヶ城を見ている場面。この情景を見て、未成年の子たちが自刃を決意するのです。有名なシーンですが、さすがに自刃を決意する表情を表現するのは無理と判断したのか、それともお城を見ている構図にするために後ろ姿にせざるを得なかったのか、顔は見ることができません。

かわりにこちらを向いている犬が涙を流しており、いるはずのない犬が感情を伝える役割になっています。「NAKUNA GANBARE BYAKKOTAI」と書かれており、白虎隊士もまた泣いているのでしょう。

未成年の子供達による集団自決にいたる場面を、この絵柄で描くというのが良いのか悪いのか。しかも、その悲劇の地である飯盛山で売られているのです。しかし白虎隊イラストの自由度はこれにとどまりませんので、またの機会にご紹介したいと思います。

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