上映中の映画『リコリス・ピザ』は小林亜星と西城秀樹が親子を演じた『寺内貫太郎一家』に似ている?意外な共通点とは
『寺内貫太郎一家』と『リコリス・ピザ』のケイン家(ハイム家)の共通点
①家業がある
『寺内貫太郎一家』は墓石を飾る石屋を営んでいる。
腕の良い職人を雇う家族経営の中小企業でもある。
ハイム一家はそこまではないが、三姉妹バンド・ハイムの前身となったロッキンハイムは、前ページで紹介した三姉妹に加え、父モルデハイがドラム、母ドナがギターを担当したファミリー・バンドであった。
ハイム家は音楽一家なのである。『リコリス・ピザ』の中では、ユダヤ教徒の側面が強調されているが。
ドナは素人参加番組の『ザ・ゴングショー』で女性ブルース・ギタリストで歌手のボニー・レイット(1949年11月8日生れ)の曲を歌って、優勝した事があるくらい歌がうまかったそうだ。
ボニー・レイットは、70年代では女性ではまだ珍しかったギタリスト。
更にボニー・レイットは、サンフェルナンド・バレーの北、バーバンク出身だったので、憧れの存在であったのだろう。
1989年に出たアルバム『ニック・オブ・タイム』で第32回グラミー賞で最優秀アルバム賞と最優秀女性ロック・ボーカル・パフォーマンス賞に2部門を受賞した。遅咲きの成功を収めた。
オーディション番組で合格するのに重要なのは、自分の個性に合った先輩ミュージシャンの楽曲を選ぶ事にある。
誰も知らない自分の個性が審査員はじめ観客に分かりやすく伝わるために不可欠な要素である。
おそらく、ドナは自分の選曲眼の高さに自信を付け、ファミリー・バンドを結成するきっかけの一つになっているかもしれない。
音楽で金を稼ぐのはヒット曲がない限り難しい。
ドナは美術教師や不動産業で稼いでいたそうだが、じゃあ、父モルデハイは一体何者かと調べていたら、凄い人物だった事が分かった。
②親父の説得力が半端ない
『寺内貫太郎一家』で頑固親父寺内貫太郎を演じた小林亜星(1932~2021)はドラマ初出演であった。
小林亜星はCMソングやアニメソング、1976年のレコード大賞受賞曲『北の宿から』など、生涯に約6000曲を残した大作曲家である。
筆者がファンである西武ライオンズの応援歌『地平を駈ける獅子を見た』等もある。
(『寺内貫太郎一家』の寺内貫太郎を演じた小林亜星 イラストby龍女)
一方のモルデハイ・ハイムは、イスラエル生れの元サッカー選手。
80年代まで存在したアメリカのブロサッカーチーム、マッカビロサンゼルスに所属していた。
ドラムでもブルガリアで結成されたユダヤ系のツァディコフ合唱団に所属していた。
音楽の世界は、みんなで合わせるチームスポーツの部活動にも通じる側面も持っている。
イスラエルでは成人になると徴兵制なので、体を鍛えておく事は日常である。
軍隊で教わった事を、娘達にも教えた事は想像に難くない。
ゲイリーに紹介された俳優のエージェント会社の面接。
アラナ・ケインは
「グラヴマガを習得しました」
と答えている。
イスラエル国防軍が編み出した戦闘術である。
ハイム一家は音楽一家だけでなくスポーツ一家でもある。
『寺内貫太郎一家2』で寺内貫太郎(小林亜星)と周平(西城秀樹)の喧嘩であまりにエキサイトしすぎて、西城秀樹が怪我をしてしまったファンならお馴染みのエピソードがある。
一つだけ、『寺内貫太郎一家』と違うところは、ハイム一家はお互いに手を出すと怪我してしまう事が分かるので、あえて口論にとどめているところだ。
③子供は将来に迷っているから、親にキレちゃう
『寺内貫太郎一家』で頑固親父寺内貫太郎(小林亜星)と喧嘩してしまう長男周平を演じたのは西城秀樹(1955~2018)である。
彼は野口五郎・郷ひろみと共に新御三家として70年代半ば一世を風靡したアイドル歌手であり、ロックをお茶の間に届けた功労者である。
歌手になる前の中学時代は兄たちとロックバンドを組んでドラム担当だった。
俳優としては一番の代表作に当たるのが『寺内貫太郎一家』の寺内周平である。
周平の最初の設定は、西城秀樹の実年齢に合わせた。
大学受験するか?家業の石屋を継ぐか迷っている浪人生なのである。
『リコリス・ピザ』のアラナは25歳である。年こそ寺内周平(西城秀樹)より年上だが、器用貧乏で何になりたいかよく分からないユダヤ系アメリカ人の小娘なのである。
④他の女の家族は分かっているけど何も言わない
『寺内貫太郎一家』で恒例の貫太郎と周平の喧嘩が始まる。
貫太郎の母きん(樹木希林)を中心に妻里子(加藤治子)とお手伝いの美代子(浅田美代子)は夕食を粗末にするわけにはいかないので、食器が載った長机を片付ける。
筆者は2021年8月22日のコラムの一部でこれが大のお気に入りだと書いた。
『リコリス・ピザ』では、食事中はおとなしかった末娘アラナと父モルデハイ。
アラナがまたろくでもないボーイフレンドを呼んできたので、モルデハイはキレて喧嘩が始まった。
長女エスティは一瞬アラナに絡まれてしまったが、淡々と母ドナと二女ダニエルと一緒に食事の後片付けを続ける。
アラナの姉二人は、映画のクライマックスになると実に良い仕事をする。
アラナの10歳年下のボーイフレンドのゲイリー・ヴァレンタイン(クーパー・ホフマン)が経営しているピンボールの店だ。
開店パーティーで、夜まで騒いでいる。
アラナは別の用事があって、遅れて店に行くと、ゲイリーは不在だった。
店には、エスティとダニエルがいて、アラナがゲイリーの居場所を聞くとそっと教えた。
ここからエンディングの長回しの二人のお互いを探すシーンのきっかけを作っている。
『寺内貫太郎一家』との共通点は多いが、『リコリス・ピザ』に直接影響を与えたわけでは無く、同時代に作られた作品の根底にある父親像が鍵を握っている。
次はそこを詳しく観てみよう。
①家業がある
『寺内貫太郎一家』は墓石を飾る石屋を営んでいる。
腕の良い職人を雇う家族経営の中小企業でもある。
ハイム一家はそこまではないが、三姉妹バンド・ハイムの前身となったロッキンハイムは、前ページで紹介した三姉妹に加え、父モルデハイがドラム、母ドナがギターを担当したファミリー・バンドであった。
ハイム家は音楽一家なのである。『リコリス・ピザ』の中では、ユダヤ教徒の側面が強調されているが。
ドナは素人参加番組の『ザ・ゴングショー』で女性ブルース・ギタリストで歌手のボニー・レイット(1949年11月8日生れ)の曲を歌って、優勝した事があるくらい歌がうまかったそうだ。
ボニー・レイットは、70年代では女性ではまだ珍しかったギタリスト。
更にボニー・レイットは、サンフェルナンド・バレーの北、バーバンク出身だったので、憧れの存在であったのだろう。
1989年に出たアルバム『ニック・オブ・タイム』で第32回グラミー賞で最優秀アルバム賞と最優秀女性ロック・ボーカル・パフォーマンス賞に2部門を受賞した。遅咲きの成功を収めた。
オーディション番組で合格するのに重要なのは、自分の個性に合った先輩ミュージシャンの楽曲を選ぶ事にある。
誰も知らない自分の個性が審査員はじめ観客に分かりやすく伝わるために不可欠な要素である。
おそらく、ドナは自分の選曲眼の高さに自信を付け、ファミリー・バンドを結成するきっかけの一つになっているかもしれない。
音楽で金を稼ぐのはヒット曲がない限り難しい。
ドナは美術教師や不動産業で稼いでいたそうだが、じゃあ、父モルデハイは一体何者かと調べていたら、凄い人物だった事が分かった。
②親父の説得力が半端ない
『寺内貫太郎一家』で頑固親父寺内貫太郎を演じた小林亜星(1932~2021)はドラマ初出演であった。
小林亜星はCMソングやアニメソング、1976年のレコード大賞受賞曲『北の宿から』など、生涯に約6000曲を残した大作曲家である。
筆者がファンである西武ライオンズの応援歌『地平を駈ける獅子を見た』等もある。
(『寺内貫太郎一家』の寺内貫太郎を演じた小林亜星 イラストby龍女)
一方のモルデハイ・ハイムは、イスラエル生れの元サッカー選手。
80年代まで存在したアメリカのブロサッカーチーム、マッカビロサンゼルスに所属していた。
ドラムでもブルガリアで結成されたユダヤ系のツァディコフ合唱団に所属していた。
音楽の世界は、みんなで合わせるチームスポーツの部活動にも通じる側面も持っている。
イスラエルでは成人になると徴兵制なので、体を鍛えておく事は日常である。
軍隊で教わった事を、娘達にも教えた事は想像に難くない。
ゲイリーに紹介された俳優のエージェント会社の面接。
アラナ・ケインは
「グラヴマガを習得しました」
と答えている。
イスラエル国防軍が編み出した戦闘術である。
ハイム一家は音楽一家だけでなくスポーツ一家でもある。
『寺内貫太郎一家2』で寺内貫太郎(小林亜星)と周平(西城秀樹)の喧嘩であまりにエキサイトしすぎて、西城秀樹が怪我をしてしまったファンならお馴染みのエピソードがある。
一つだけ、『寺内貫太郎一家』と違うところは、ハイム一家はお互いに手を出すと怪我してしまう事が分かるので、あえて口論にとどめているところだ。
③子供は将来に迷っているから、親にキレちゃう
『寺内貫太郎一家』で頑固親父寺内貫太郎(小林亜星)と喧嘩してしまう長男周平を演じたのは西城秀樹(1955~2018)である。
彼は野口五郎・郷ひろみと共に新御三家として70年代半ば一世を風靡したアイドル歌手であり、ロックをお茶の間に届けた功労者である。
歌手になる前の中学時代は兄たちとロックバンドを組んでドラム担当だった。
俳優としては一番の代表作に当たるのが『寺内貫太郎一家』の寺内周平である。
周平の最初の設定は、西城秀樹の実年齢に合わせた。
大学受験するか?家業の石屋を継ぐか迷っている浪人生なのである。
『リコリス・ピザ』のアラナは25歳である。年こそ寺内周平(西城秀樹)より年上だが、器用貧乏で何になりたいかよく分からないユダヤ系アメリカ人の小娘なのである。
④他の女の家族は分かっているけど何も言わない
『寺内貫太郎一家』で恒例の貫太郎と周平の喧嘩が始まる。
貫太郎の母きん(樹木希林)を中心に妻里子(加藤治子)とお手伝いの美代子(浅田美代子)は夕食を粗末にするわけにはいかないので、食器が載った長机を片付ける。
筆者は2021年8月22日のコラムの一部でこれが大のお気に入りだと書いた。
『リコリス・ピザ』では、食事中はおとなしかった末娘アラナと父モルデハイ。
アラナがまたろくでもないボーイフレンドを呼んできたので、モルデハイはキレて喧嘩が始まった。
長女エスティは一瞬アラナに絡まれてしまったが、淡々と母ドナと二女ダニエルと一緒に食事の後片付けを続ける。
アラナの姉二人は、映画のクライマックスになると実に良い仕事をする。
アラナの10歳年下のボーイフレンドのゲイリー・ヴァレンタイン(クーパー・ホフマン)が経営しているピンボールの店だ。
開店パーティーで、夜まで騒いでいる。
アラナは別の用事があって、遅れて店に行くと、ゲイリーは不在だった。
店には、エスティとダニエルがいて、アラナがゲイリーの居場所を聞くとそっと教えた。
ここからエンディングの長回しの二人のお互いを探すシーンのきっかけを作っている。
『寺内貫太郎一家』との共通点は多いが、『リコリス・ピザ』に直接影響を与えたわけでは無く、同時代に作られた作品の根底にある父親像が鍵を握っている。
次はそこを詳しく観てみよう。