伝記映画『エルヴィス』でトム・ハンクスが演じたマネージャー、トム・パーカー大佐とは何者だったのか

2022/7/7 22:00 龍女 龍女

そもそもトム・パーカー大佐の大佐とは正式名称ではない。
大佐はColonelを直訳した。
字義通りなら軍隊の階位の一つである。
何となく偉い男性に対する敬称といった方がよい。
映画『エルヴィス』の台詞で、エルヴィスがわざと「カーネル・サンダース」とケンタッキーフライドチキンの創業者の名前でパーカーを揶揄する。

パーカーは元々アメリカに違法に移民してきたオランダ人だ。
本名はアンドレアス・コルネリス・ファン・カウク。


(トム・パーカー大佐 イラストby龍女)


(トム・ハンクスが演じたトム・パーカー大佐 イラストby龍女)

エルヴィス・プレスリーに出逢う前は、移動遊園地で、見世物小屋とカントリー歌手の巡業で喰っていた興行主である。
日本の社会に置き換えて考えると、一番近いのは、テキ屋の親分である。
つまり、トム・パーカー大佐というより、トム・パーカー親分、トム・パーカー親方と呼んだ方がふさわしい人物なのである。

しかし、ロックを商売にした人物として歴史に名を残すべき存在であろう。
今では当たり前になったアーティストのグッズ販売を始めたのが、トム・パーカーだからである。

しかも、ギャンブル好きで負債を肩代わりにする契約が、エルヴィスのラスベガス長期公演だった。
トム・パーカー大佐は、とことんエルヴィスを金で搾り上げた。
国境の規制がないカナダ以外で海外公演をしなかったのも、パーカー大佐が違法移民である事をバレないようにするためだった。
しかし、エルヴィス・プレスリーは世界的なスーパースターである事は理解していたので、衛星中継を利用して、ハワイ公演のライブ映像を世界中に発信した。
苦肉の策であったが、後に続くチャリティコンサートの生中継にも活用され、パーカー大佐のビジネスセンスが画期的だったことは証明されたようなモノである。


映画本編の中では、エルヴィスを殺した原因は「愛」だと
自分の責任を否定したトム・パーカー大佐。
愛とは、ファンがもっとエルヴィスをステージで観たいという願望にある。
トム・パーカー大佐は金儲けの側面もあったが、そんなファンの願望に答えた側面もあったのである。
晩年のあまりにも多いツアーの数が、エルヴィスを孤独に追い込み、スタッフはエルヴィスの体力を持たせるために薬物を処方するように主治医をせかした。
エルヴィスは、離婚後の孤独な心のストレスを高カロリーの食に求め、肥満による心臓の負担は増大していった。
この2つの要因が重なり、結果、処方薬の誤用による不整脈が原因で亡くなった。

だから、エルヴィス・プレスリーを殺した愛の一部には、トム・パーカー大佐の共犯も含まれている。
筆者はそう信じて疑わないのである。


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