『青天を衝け』の徳川家康を演じた北大路欣也は、なぜ時代劇の大スターの当たり役を次々と引き継いでこれたのか?

2021/12/22 22:00 龍女 龍女

日本の大きな映画会社で時代劇を得意としていたのは、東映だった。
しかし、東映自体の設立は、1949年と、大手映画会社としては比較的新しい。
松竹が1920年。
東宝が1932年。
北大路欣也の父・市川右太衛門(1907~1999)は戦前からの時代劇の大スターで、東映が出来たときに、同じく時代劇スターの片岡知恵蔵と共に重役を兼ねて入社した。
市川右太衛門は、邸宅が京都市の北大路通に面していたので東映の社内では「北大路の御大」と呼ばれていた。
次男で、本名・淺井将勝だった少年は、自宅にちなんで「北大路欣也」と言う芸名を貰った。
戦前から、右太衛門の当たり役だったのが
『旗本退屈男』の直参旗本、早乙女主水之介である。
なんと、1930年から1963年まで、通算30本製作されたという。無声映画時代からトーキー、そしてカラーと映画の進化を経たシリーズものである。
筆者は世代的にさすがにリアルタイムで映画を観ていない。
漫才ブームの頃に西川のりおがモノマネしていたので知っている。
1973年にはTVドラマシリーズで演じたという。


(市川右太衛門の当たり役と言えば『旗本退屈男』の早乙女主水之介 イラストby龍女)

「天下御免の向こう傷!」と言う決め台詞が有名である。

北大路欣也は、1988年から1994年まで、単発の時代劇のドラマとして、父の当たり役を演じた。
とにかく、衣装が派手なのが、有名。
「どこで着替えているんだ?」とか
「何で江戸から出られないはずの旗本が全国漫遊しているんだ?」
とツッコミどころ満載のドラマで、とにかく観るモノを楽しませようとする娯楽に徹した時代劇である。


(北大路欣也版の『旗本退屈男』の早乙女主水之介 イラストby龍女)


80年代の終わりにバブルがはじけると徐々にTVの時代劇の本数が少なくなってきた。
1966年から1984年にかけて、フジテレビの水曜20時と言えば、
2代目大川橋蔵(1929~1984)主演の銭形平次であった。
野村胡堂原作の『銭形平次捕物帖』で、町奉行所の与力に雇われた岡っ引きの平次が十手と寛永通宝の投げ銭を武器に、殺人事件を解いていくミステリーだ。
筆者は『ドクタースランプ』や『うる星やつら』の後に観ていた。
敵に対して、寛永通宝を投げる投げ銭がお馴染みだ。
筆者が印象に残っているのが、岡っ引きの平次親分が出かけるときに、女房のお静(香川美子)に火打ち石をうって送り出されるシーンである。

888回の長寿番組が終了し、7ヶ月後に大川橋蔵が亡くなった。
5年経った1989年に単発で同じ東映で制作されたのが、北大路欣也主演の銭形平次である。
好評で1990年から1998年までTVシリーズとして第7シリーズまで続いた。


(投げ銭をする直前の銭形平次を演じる北大路欣也 イラストby龍女)

小池一夫・小島剛夕の漫画を原作とする時代劇『子連れ狼』
1972から1974年にかけて、映画として若山富三郎(1929~1992)主演で6本制作された。
TVドラマとしては、1973年から1976年にかけて、萬屋錦之介(1932~1997)が主演を務めた。
どちらも東映に所属していた北大路欣也にとっては大先輩の当たり役であった。
北大路欣也主演の『子連れ狼』が制作されたのは、2002年から2004年にかけて、3部作としてTVシリーズ化された。
原作の展開に忠実に描かれたために3部作となった。


(息子大五郎を抱きかかえる拝一刀を演じる北大路欣也 イラストby龍女)

1990年前後から、北大路欣也は、このように時代劇の大スターの当たり役を次々と引き継ぐような役割をするようになった。
北大路欣也が若い頃にお世話になった大スターたちが次々と物故者になっていったことが大きいであろう。


60代になった北大路欣也の俳優のキャリアで大きな分岐点を迎えたのは、2007年である。
個人事務所から大手芸能事務所ホリプロへの移籍と、大役が廻ってきた。
TBSのTVドラマの中でも一番の看板枠『日曜劇場』で放送された山崎豊子原作の『華麗なる一族』である。
原作では主人公は大財閥の万俵家の家長・万俵大介だが、木村拓哉主演のドラマとして企画されたので、主人公は長男の万俵鉄平に変更された。
しかし、北大路欣也の大介役は評価され、これ以降、現代劇でも欠かせない俳優として活躍するようになる。
ゴールデンタイムのドラマの脇を押さえる重鎮としても役割も担うようになった。


(本来なら『華麗なる一族』の主人公の万俵大介を演じる北大路欣也 イラストby龍女)

『半沢直樹』の銀行の頭取や、『刑事七人』の法医学者役などがすぐに思い浮かぶ。


2021年現在でも、現代劇と並行して、北大路欣也主演の時代劇シリーズは単発ではあるが制作され続けている。
1998年から2004年までTVシリーズ、その後2010年までスペシャル版として続いたのが藤田まこと(1933~2010)主演の『剣客商売』である。
池波正太郎原作の人気時代小説で、大ファンの筆者は原作をほぼ全巻持っている。

藤田まことが亡くなって2年後の2012年から北大路欣也主演として2時間ドラマのシリーズとして制作し始めた。
『剣客商売』は、田沼意次が老中だった江戸時代後期が舞台である。
無外流の剣客である秋山小兵衛が、女中だった若いおはるを後妻にしたことから物語は始まる。
長い武者修行から帰ってきた息子の秋山大治郎と、田沼意次の妾腹の娘である女剣士の佐々木三冬など、魅力的な登場人物が出てくるシリーズである。
第6回まで制作されているが、コロナ禍などの影響で次回作はまだのようである。


(『剣客商売』の秋山小兵衛を演じる北大路欣也と、おはるを演じる貫地谷しほり イラストby龍女)

もう一つは、BSフジと時代劇専門チャンネルで放送されている『三屋清左衛門残日録』である。
最新作が2022年の1月3日に放送される。
藤沢周平の時代小説が原作である。
1993年にNHKで仲代達矢(1932年12月13日生れ)主演でドラマ化されている。


このように時代劇で、数々の大スターが演じてきたキャラクターを北大路欣也が一手に引き継いでいるのは、興味深い。
何故か考えてみると、他の時代劇の主役を務めた俳優とは北大路欣也はある意味で圧倒的なアドバンテージがあった。
俳優として若い頃から幅広い役柄をこなしてきたことである。
『仁義なき戦い・広島死闘編』(1973年)の山中正治役は強烈だったし、1970年代後半から1980年代半ばには映画俳優として数々の賞を受賞した演技派である。

もう一つ、北大路欣也が時代劇の主役を引き受けざるを得なかった大きな原因がある。
東映出身で時代劇の大スター近衛十四郎(1914~1977)の息子で、同じく二世俳優としてライバルとされた松方弘樹(1942~2017)が女性スキャンダルで出演が激減したことだ。
北大路欣也は『名奉行! 大岡越前』(2005・2006)で大岡忠相を演じた。
『名奉行 遠山の金さん』(1988~1998)の主人公遠山金四郎景元は松方弘樹の当たり役であった。
時代劇の花であるチャンバラに必要な技術、殺陣の名手の一人でもあったので、大きな痛手となった。
近年増えてきた時代劇における高齢の主人公の需要に、スキャンダルもなく健康だった北大路欣也はあっていた。

北大路欣也が画面に登場するだけで、人生の陰影が照らし出されてくる。
ドラマ全体を引き締めてくれる貴重な存在だ。


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