【アフガニスタンの文化遺産を後世に】スーパークローン文化財で甦った《青の弥勒》

2021/9/15 19:20 yamasan yamasan

こんにちは、すっかりスーパークローン文化財ファンになった「いまトピアート部」yamasanです。

今年もスーパークローン文化財で巡るシルクロードの旅に行ってきました。
場所は、東京・上野公園にある東京藝術大学大学美術館。
現在、開催中の「みろく展」は、パキスタン北部のガンダーラから、アフガニスタンのバーミヤン、中国の敦煌、そして日本の奈良まで、発掘された仏像や「スーパークローン文化財」で再現されたバーミヤン石窟壁画などでシルクロードの旅が楽しめる展覧会です。

みろく-終わりの彼方 弥勒の世界-

会 場  東京藝術大学大学美術館3F
会 期  2021年9月11日(土)~10月10日(日)
休館日  月曜日、9月21日(火)※ただし9月20日(月・祝)は開館
開館時間 10時~17時(入館は閉館の30分前まで)
チケット情報 一般 1,000円 大学生 700円
 ※当日窓口販売のみ ※前売券の販売はありません
 ※高校生以下及び18歳未満、障がい者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料
※本展は事前予約制ではありませんが、今後の状況により、変更及び入場制限等を実施する可能性があります。

展覧会の詳細等は公式サイトでご確認ください⇒みろく-終わりの彼方 弥勒の世界-


※展示室内は、一部を除き撮影可です。

展示構成
Ⅰ ガンダーラ
Ⅱ アフガニスタン
Ⅲ 西域・中国
Ⅳ 日本



Ⅰ ガンダーラ

「Ⅰ ガンダーラ」に展示されているのは、主に平山郁夫シルクロード美術館蔵の弥勒菩薩像(スーパークローン文化財ではなく、こちらは本物です。)。
背景はガンダーラの遺跡の大きな写真パネル。現地の熱気や砂埃が伝わってきそうです。

「Ⅰ ガンダーラ」展示風景

今回の展覧会は、会場内を歩きながらガンダーラから日本にいたるまでの弥勒菩薩の変化の様子がわかる展示になっているので、釈迦入滅から56億7000万年後、地上にくだり釈迦に代わって衆生を救済する弥勒菩薩とともに巡る旅が楽しめます。

一方で、ガンダーラの弥勒菩薩像は坐像だけでなく、足を交差させた交脚像もありますが、「交脚は王様の座り方」といった、いくつかの決まりごとがあって、それが後世にも引き継がれているものもあります。
場所や年代を移るごとに変化するものも、共通しているものもありますので、ぜひお近くでじっくりご覧ください。

こちらに展示されているのは、いかにもガンダーラらしいエキゾチックな顔立ちをした弥勒菩薩坐像。

「弥勒菩薩坐像」2-3世紀 ガンダーラ、パキスタン 平山郁夫シルクロード美術館蔵

弥勒菩薩は祭司(バラモン)階級の大家に生まれたので、長く伸ばした髪を結んで頭髪を上にまとめています。そして、このように横に流したような束ね方は、当時の若い青年や女性の髪型なので、この像のモデルは若いイケメン男性だったのかもしれません。

左手に持つのは、衆生を救うための聖水を入れた水瓶(カマンダル)。左手の人差し指と中指の間に水瓶の首を挟んで持つのがお決まりのスタイルなのです。

そして、下方の両端には可愛らしいライオンを従えています。

こういった決まりごとを覚えていただいて先に進みます。

Ⅱ アフガニスタン

ここからスーパークローン文化財の展示が始まります。

まずはバーミヤンの天井壁画《天翔る太陽神》

バーミヤン東大仏仏龕及び天井壁画《天翔る太陽神》想定復元(2016年)
6世紀中頃 アフガニスタン スーパークローン文化財 東京藝術大学蔵

2001年にタリバンによって破壊された東大仏の頭の上に描かれていた天井壁画の再現です。
昨年(2020年)夏に横浜のそごう美術館で開催された「東京藝術大学 スーパークローン文化財展」では《天翔る太陽神》だけが壁にかけられていましたが、今回は天井全体が再現されていて、まるで仏龕の中に入ったような雰囲気が味わえます。

横にバーミヤン東大仏仏龕の模型が展示さていて、下から覗き込むと、上に天井壁画が描かれているのがわかります。

バーミヤン東大仏仏龕 模型 東京藝術大学蔵

それにしても、これほどタイムリーな時期に開催された展覧会はそう多くないのではないでしょうか。

アメリカでの同時多発テロの発生を契機にアメリカ軍がアフガニスタンに侵攻してタリバン政権を崩壊させたのがちょうど20年前。
そして今年8月にはタリバンがアフガニスタンを制圧して、治安維持のために駐留していたアメリカ軍が撤退した今となっては、文化遺産は盗難・破壊などの危機にさらされています。
このような状況の中、「みろく展」から発信される「文化財を守ろう!」というメッセージがぜひアフガニスタンにも届いてほしいと願わずにはいられません。
(ちなみに、「みろく展」が始まったのも同時多発テロ発生と同じ日の9月11日でした!)

こちらは、今年(2021年)に完成したばかりのバーミヤンの天井壁画《青の弥勒》の想定復元。

バーミヤンE窟仏龕及び天井壁画《青の弥勒》想定復元(2021年)
7世紀中頃 アフガニスタン スーパークローン文化財 東京藝術大学蔵

中央の弥勒菩薩の水瓶を持つ左手の指に注目です。先ほどのガンダーラの弥勒菩薩と同じく、人差し指と中指で瓶の口を挟むように持っているのがわかります。

背景の空の色は、朝から昼、夜、そしてふたたび朝の青色に変化していきます。
ラピスラズリの青色が青い空にまでつながっているかのようです。

バーミヤンE窟仏龕の模型も展示されています。

バーミヤンE窟仏龕 模型 東京藝術大学蔵

これだけ大きな復元壁画を持ち運んだり、設置したりするのはさぞかし大変なことでは、と思ったのですが、実は軽い素材で、いくつにも分解できるので、運搬はそれほど難しくはないそうです。

大きな展示スペースや移動のための費用が確保できれば、全国各地や世界各都市で展示されて、多くの方に文化財保護の大切さをもっと知ってもらえるのではと思いました。

バーミヤンの仏像遺跡については、いまトピアート部の部長で、アートブログ「青い日記帳」主宰のTakさん監修の『失われたアートの謎を解く』(ちくま新書 2019年)でも紹介されています。

『失われたアートの謎を解く』(ちくま新書)


Ⅲ 西域・中国

中国の敦煌までやってきました。

敦煌莫高窟第275窟の弥勒菩薩交脚像は、欠損していた両手を復元したもので、制作された当時のオリジナルの姿を思い浮かべることができます。
交脚はガンダーラでは王様の座り方。そして、両脇を固めるのは、ガンダーラの弥勒菩薩と同じく獅子の像です。(この獅子たちも愛嬌があります!)


敦煌莫高窟第275窟 弥勒菩薩交脚像 再現(70%縮小) 5世紀 中国 スーパークローン文化財 画像提供:敦煌研究院文物数字化研究所

「東京藝術大学 スーパークローン文化財展」でも展示されていた、敦煌莫高窟第57窟の想定復元にも再会することができました。

敦煌莫高窟第57窟 想定復元 7世紀 中国 スーパークローン文化財 画像提供:敦煌研究院 文物数字化研究所

正面の如来坐像と右脇の菩薩立像は、後世の修復(特に清時代)の手が入っていて、唐時代の壁画との差がはっきりしているので、制作された唐時代の姿を推定復元したもの。
第57窟は保全のため一般公開されていませんが、公開されてもこのような唐時代の創建当時の様式は見ることはできないのです。

Ⅳ 日本

ガンダーラから、シルクロードの東の終着点、奈良にたどり着きました。

法隆寺金堂壁画 第9号壁《弥勒説法図》の、焼損前再現(右)と、想定復元(左)が並んで展示されています。

法隆寺金堂壁画 第9号壁《弥勒説法図》焼損前再現(右)、想定復元(左)  日本 スーパークローン文化財 原本:法隆寺蔵 東京藝術大学蔵

想定復元を見ると、画面下の両脇には獅子が描かれているのがわかります。弥勒菩薩の顔立ちは変わりますが、このようにガンダーラから引き継がれているものもあるのですね。

この想定復元は、さらに彩色して、描かれた当時の極彩色を蘇らせるとのこと。ぜひ完成品を見てみたいです。

3Dのデータをもとに模刻した弥勒菩薩立像も、本物と言われたら信じてしまうくらい見事な出来です。

「Ⅳ 日本」展示風景

現地に行っても二度と見ることができない文化財を、この場で体験することができるとても貴重な機会です。ぜひご来場ください!

展覧会公式図録(税込1,650円)もおススメです。2Fミュージアムショップにて好評発売中。全123頁 カラー写真、詳細な解説満載の充実の内容です。


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