「かわいい」の一歩先へ! 【鳥獣戯画展】では音声ガイドをぜひ借りてほしい!

2021/5/10 22:45 虹



 祝!「国宝 鳥獣戯画のすべて」再開!

 緊急事態宣言発出に伴う政府の要請により、4月25日より臨時休館をしていた「鳥獣戯画のすべて」(東京国立博物館)が、6月1日火曜日から再開となります!
 また、会期を6月20日まで延長。会期中は無休となります(※14日(月)は13時より開館)。

 さて、鳥獣戯画展の展示内容に関する詳細な記事は目にするけれど、音声ガイドに触れている記事はあまりなさそう……? ということから、本稿では音声ガイドについてご紹介したいと思います。これから観に行こうと思っている方、音声ガイドを使っての鑑賞もぜひ選択肢のひとつに加えてみてください!

今回の鳥獣戯画は何が「売り」?

「鳥獣戯画展って何年か前にもやらなかったっけ?」
 本展開催のニュースを見て、そんな風に思った方も多いと思います。
 2015年のちょうど今と同じ頃、東京国立博物館にて特別展「鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-」が開催されました。タイトルにもある「高山寺の至宝」の言葉通り、高山寺所蔵の作品を紹介するという内容の一環として鳥獣戯画(正式には鳥獣人物戯画)が展示されたのです。

 この時は鳥獣戯画全4巻の前半部分を展覧会前期に、後半部分を後期に公開。また、鳥獣戯画が白描画(墨の筆線だけで描かれた絵のこと)であることから、白描画の仏画や、十二神将図などもあわせて紹介し、仏教的視点から見た動物の描写や、開祖の明恵の信仰についても言及する内容でした。

 さて、それでは今回の「売り」は何でしょう?
 それはずばり、展覧会史上初! 鳥獣戯画全巻全場面の一挙公開!──なのですが、個人的に推したいのが、タイトルでもある「鳥獣戯画のすべて」に迫るというところ。これに尽きます!

▲「国宝 鳥獣戯画のすべて」会場風景

 鳥獣戯画は日本国内でも知らない人はほとんどいないのでは? というほど有名な絵巻ですが、「兎や蛙が戯れている」イメージがあまりにも強く、なかなかそこから踏み込む機会がありません。
 近年では展覧会の開催などにより、およそ800年前の絵巻であること、鳥獣戯画が全部で4巻あること、兎や蛙が出てくるのは甲巻であり、続く乙、丙、丁巻ではそれぞれ擬人化されていない動物や、風俗画、甲巻の続きのような動物たちが登場する、などといった情報がだんだんと周知されていますが、まだまだ知られていない部分は多くあります。

▲甲巻は動く歩道で鑑賞! かなり集中できます。《鳥獣戯画 甲巻》平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵

 今回の鳥獣戯画展では、模本(原本を模写して作ったもの)や断簡(この場合は切り取られた絵巻の一部)などから、本来の鳥獣戯画のすがたを探っていく内容となっています。

 つまり、私たちが今見ている鳥獣戯画は、描かれた当初のすがたではないということなんですね。


 会場には解説パネルが用意されていますが、なんだかちょっと難しそう……? と思った方。大丈夫。そんな時こそ音声ガイドの出番なのです!


ベテラン声優の掛け合いで楽しむ 鳥獣戯画の一歩先へ

▲ガイドは約30分、お値段600円。途中にはクイズも盛り込まれています。

 本展のナビゲーターを務めるのは声優の山寺宏一さん恒松あゆみさん
 山寺宏一さんと言えば説明不要の超ベテランですね。
 恒松あゆみさんは、実はヴァロットン展、大恐竜博、マンモス展、素朴絵展、コートールド美術館展などなど、名だたる展覧会を山ほど担当されている音声ガイド界のレジェンドです。
 この実力派のお二人が絶妙な掛け合いをしながら、今まで「かわいい」という印象のまま止まってしまっていた鳥獣戯画の一歩先へと案内してくれるのです!

 山寺さんはさまざまな声で演技をされることでも知られていますが、今回はエヴァンゲリオンの加持リョウジ寄りの声でナビゲート。
 恒松さんは、鳥獣戯画の絵巻を解説する場面では元気いっぱいの兎役、そして高山寺の開祖である明恵にまつわる解説ではおっとりした子犬役と、真逆のキャラを見事に演じ分けていらっしゃいます。

▲明恵上人最推しの子犬。可愛い声で、怒涛の明恵推しプレゼンを繰り広げます。


 さて、本展の構成は前半を鳥獣戯画について、後半を開祖・明恵にまつわる事柄について解説する内容となっています。
 お二人の会話から鳥獣戯画の見どころや甲乙丙丁それぞれの絵巻の特徴、最新の調査結果、そして明恵に関係するエピソードなどを辿っていくのですが、個人的に今回のガイドで印象に残ったのが明恵の人柄でした。

▲《明恵上人坐像》鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵

 鎌倉時代初期の人物である明恵は、動植物を愛し、独自の自然観と宗教観を持って多くの人に慕われた高僧です。また、19歳の頃から40年間夢日記を書き続けたことや、日本で初めてお茶の栽培に成功したことでも知られています。

 仏の道にわが身を捧げんとする証に、自らの耳の一部を切り落としたというエピソードから、かなり厳しい人なのでは……というイメージのあった明恵ですが、今回「明恵上人最推し」「明恵しか勝たん」を地で行く子犬の怒涛のプレゼンのおかげで、私の中で明恵の印象が激変しました。
 明恵上人、かなりピュアな感動屋さんで、島に手紙を書いたり、涅槃会中に釈迦入滅シーンで感極まって号泣してしまったり(それを弟子がフォローしたり)、子犬が出てくる夢を見て「いとほしさ極まりなし」と書き残すような人だったのです。

 そうそう、本展には28年ぶりに寺外公開となる《明恵上人坐像》が展示されていますが、子犬はこの像の近くに置かれていたそう。
 このような逸話をたくさん聞くことができるのも、音声ガイドのポイントなのです。

▲ぜひ一度は観てほしい子犬の像。明恵上人はこの像をとても可愛がっていたといいます。写真では伝わりにくいのですが、360度どこから観ても悶絶するほどの可愛さ! 《子犬》鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵


わかりやすさ倍増!ディスプレイも駆使して解説

 さて、今回の音声ガイドはキャスティングの妙だけではありません。
 言葉だけの説明ではイメージしにくいところ、クローズアップして伝えたいところなどには、ディスプレイを使っての解説が入ります。

 ディスプレイの大きなガイド機器では、過去に図解システムを導入していたものもありましたが、このコンパクトなタイプでは珍しいのではないでしょうか?



 たとえば《鳥獣戯画 丙巻》の解説。
 この巻は途中から唐突に内容が変わるのですが、なぜそうなっているのかが、これまである種の謎とされてきました。しかし近年の修理に伴う調査により、どうやらこれは一枚の紙の表裏に描かれていたものを一旦剥がし、再度一枚の絵巻としてつなぎ合わせたものだということがわかったのです。

 これは「相剝ぎ(あいへぎ)」という名前の技術なのですが、なんとなくイメージはできるものの、果たして自分の頭の中に描いたもので合っているのだろうかと不安になりますよね。
 そこで音声ガイドです!

▲このような図解と音声による解説で、最新の調査結果がばっちりわかるようになっていました。

 本展ではこのような「痒い所に手が届く」解説を、ディスプレイで閲覧することができるようになっています。もちろん何度でも再生可能ですので、絵巻の前では音声だけを楽しみ、後から落ち着いて図解をチェックするという方法もOK!
 今回こういったサービスがあったおかげで、「あれはこういう意味でよかったのかしら?」とモヤモヤすることなく会場を後にすることができました。


 ご紹介した通り、「国宝 鳥獣戯画のすべて」展の音声ガイドは、キャスティングの素晴らしさに加え、ディスプレイも駆使したかなり凝ったものとなっています。ガイド内容もエンタメ性の高さを利用して理解を深めるつくりとなっており、且つ二人の掛け合いを通じて記憶に残りやすい紹介の仕方をしているという印象でした。

 本展はとても力の入った展覧会なので、目の前の作品を観て解説を読むだけでも、充実した鑑賞体験を味わうことが可能です。けれどそこに音声ガイドを加えることで、さらに視野を広げることができるのです。

 会場を訪れた際には、ぜひ音声ガイドを借りてみてくださいね。
 きっと「かわいい」の一歩先へ連れて行ってくれますよ!

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」
会場:東京国立博物館 平成館
会期:2021年4月13日(火)~6月20日(日)
   休館日なし ※ただし、6月14日(月)午前8時30分~午後1時は閉館 
   ※総合文化展は月曜日休館。
時間:午前8時30分〜午後8時(最終入場は午後7時)
    ※総合文化展は午前9時30分~午後5時
●本展は事前予約制です。下記の公式ホームページより内容を確認の上、予約をおこなってください。
▶特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」公式ホームページ



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