新春の初笑いにおススメ!『ハリウッド・リメイク桃太郎 グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!』
こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。
おススメの新刊を紹介する、この連載。
第33冊目は新春の初笑いに超おススメな一冊『ハリウッド・りメイク桃太郎 グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!』です。
■もしもハリウッドが「桃太郎」をリメイクしたら
首都圏に緊急事態宣言が再び発令されそうな気配ですね。しかも「驚異の感染力」という、おそるべきキャッチコピーをたずさえて変異種が上陸する可能性が高いのだと。言うなれば「シン・コロナ」。このウイルスのニューカマーがもしも猛威を振るったら、医療崩壊はまぬがれられないでしょう。
2021年の幕開けからいきなり前回の緊急事態宣言を凌駕する緊張感が、この国を包んでいます。生活制限も、いっそう強まるでしょう。はぁ、キツい……。洗濯機をまわしながら思わずため息がこぼれてしまいます。なにかいいこと、ないかな。大きなハッピーが川上からどんぶらこ×2と流れてこないものか。
そんなもやもやした気持ちを爽快に晴らしてくれる、爆笑できる新刊があります。それが『ハリウッド・リメイク桃太郎 グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!』(柏書房)。
この『ハリウッド・リメイク桃太郎 グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!』は、もしも日本の昔話「桃太郎」を「ハリウッドがリメイクしたら、どうなるか」を徹底的にシミュレーションした一冊。著者は「オードリーのオールナイトニッポン」の構成などでおなじみ放送作家の藤井青銅さん。
Blu-ray Discのパッケージを思わせる表紙。ページをめくると、舞台をアメリカに移した桃太郎のリメイク映画『ピーチ・ガイ』が開演。桃から生まれたピーチ・ガイは、フットボールで活躍する立派な青年に。そして、かつて村を襲ったデビルたちを退治しに行くと誓うのです。
■え~! ハリウッド・リメイク「桃太郎」、早くも続編が登場
さらに、鬼退治から帰還したのち意外な姿に変わり果てたピーチ・ガイ(桃太郎)による続編、続々編、完結編、スピンオフ作品、主人公を女性に置き換えたリメイクのリメイク、海外ドラマ版、オンラインゲーム化などなど「ハリウッドあるある」にのっとった商業展開が続々と。「そうくるか~」と大笑いしながら読みました。ありそう! ありそう! どれもこれも、すっごくリアルなんです。
思えば「桃太郎」は海外での映像化に、とてもむいている作品です。桃が川上から流れてくるシーンはファンタジックなCGで演出できます。お供のアニマルたちのキャラクターもたっている。デビル・アイランドにおどろおどろしい要塞があり、憎き鬼との激闘シーンもある。ハラハラドキドキさせるエンタメ要素が、ふんだんに盛り込まれています。
過去に『ソニック』『トランスフォーマー』『ドラゴンボール エボリューション』などなど日本の作品を数多くリメイクしてきたハリウッド。ですから桃太郎も意外と「ある」んじゃないでしょうか。ハリウッドが桃太郎の映像化権獲得に乗り出しても、おかしくはない(誰に許可を得るのかは知りませんが)。つまりこの新刊『ハリウッド・りメイク桃太郎 グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!』の面白さは、単なるパロディではなく、「なくもない」リアリティにあるのです。
■昔話「桃太郎」がうやむやにしてきた「なぜ桃から子供が生まれるのか」問題
この新刊『ハリウッド・りメイク桃太郎~』の醍醐味は、もともと桃太郎という物語があいまいにしてきた部分にスポットをあて、新しい解釈をもたらし、そこにドラマを生みだしている点にあります。
桃太郎って正直に言って、説明不足な話でもあるのです。そもそも「なぜ大きな桃に幼児が入っていたのか」「それが川から流れてきた理由は?」。唐突なんです。幼い頃に桃太郎の話を読み聞かせられ、内心では疑問をいだきつつも「空気が読めない子どもだと思われるのがしんどい」ので、お母さんや先生に質問できなかった「あの納得いかない部分」が、リメイク版によって見事に解明されています。そこの秘密が明かされるから「桃太郎」をいっそう好きになれる。構成を仕事とする著者・藤井青銅さんのクリエイティブが存分に発揮されているのです。
いや本当、昔話って実は権威的で、疑問をかかえたり反論を許さなかったりする雰囲気がありますよね。「金太郎、熊にまたがりお馬の稽古って、熊にまたがる方が難しんじゃないの?」「かにって、おむすび食べるの?」「鶴って、はた織り機をどっから納入してきたの?」「浦島太郎って結局、カメを助けなかった方が幸せになったんじゃないの?」「ウサギとカメって、ウサギが反省して居眠りをやめたら、その後はもうカメに勝ち目はなくなるよね」などなど。
この本では、そういった昔話が永年「なあなあ」にしてきた部分を見逃さず、現代の審美眼に堪えうるドラマに鍛えなおしてゆくのです。
■あらゆる昔話がリメイクによって蘇生する
新刊『ハリウッド・りメイク桃太郎~』は桃太郎のほかにも、さまざまな昔話をメディアミックスの俎上にあげてゆくのも特徴。
●「人魚姫」が映像化されたら主題歌はどんなの?
●「かぐや姫」をディズニーがリメイクしたら
●「サルかに合戦」をピクサーアニメにしたら
●「千夜一夜物語」を「Twitterでバズった連作4コマ漫画」にしたら
●浦島太郎をボリウッド(インド映画)化したら
●ぶんぶく茶釜をラノベにしたら
●「ハーメルンの笛吹き」を特撮戦隊ものにしたら
●「北風と太陽」を「北風と太陽のオールナイトニッポン」にしたら
●「みにくいあひるの子」をネット上の美談にしたら
などなど、馴染み深い昔話が、ありとあらゆるメディアで再構築されてゆきます。しかもどれも「ありそう」なので、マーケティングの勉強になるのです。そういえば『マッドマックス 怒りのデスロード』は続編というよりリメイクでした。『おそ松さん』のように昭和の懐かしい漫画を現代に置き換えて成功したリメイク例もあります。この本は、笑えるのみならずビジネス書としても、とても有益な一冊だと感じます。
■昔話に残る「古い価値観」を見直す機会
リメイクのもうひとつの魅力は、作品を組み立てなおすことで「古い価値観」を刷新できる点にあります。
特に当書におさめられた「アリとキリギリス」を「NHKの朝ドラにリメイクする」試みは素晴らしい。アリとキリギリスをふたりの女性に置換した「コツコツ杏ちゃん」は、「これマジでドラマ化すればいいのに」と思えるほど、いいお話。泣けます。
もともと「アリとキリギリス」はブラック労働を肯定していたり、ミュージシャンを軽視していたり、アリのキリギリスに対する態度が冷徹すぎたりと、現代においては古い観念と捉えられる部分が多い童話です。なのでこの頃は改変に次ぐ改変で、「絵本ごとに結末が違う」修羅場と化しています。時代設定がそのままでエンディングだけ変えるのは、さすがに乱暴なのです。結末のみを変更するのではなく、物語を近代や現代に置き換える行為によってアリにもキリギリスにも背景をもたせ、どちらサイドにも感情移入ができる。これはリメイク大きな利点ではないでしょうか。
「花咲かじいさん」のエピソード1をつくる話も、とてもよかった。なぜ「正直じいさん」と「いじわるじいさん」がいるのか、なぜ庭にガラクタが埋もれていたのか。なぜ犬は「ここ掘れワンワン」と鳴いたのか。ビフォーの秘密が明かされる。これを読むと、どちらのおじいさんの人生も肯定したくなるのです。
もともと「花咲かじいさん」という童話は個人的に苦手でした。昔話とはいえポチを殺すシーンがいくらなんでも残酷すぎる。さらに「いい人であれば大名様にほめられ、どんどんステージがあがる」という話の展開があまりにもアヤシイ新興宗教やマルチ商法の信者集めに使う教則本みたいで好きではなかったのです。そもそも財宝を欲しがったおじいさんのほうこそ「正直じいさん」なのでは? と。
けれども藤井さんがリメイクしたエピソード1があれば「なるほど、そうか。だからふたりのおじいさんが存在するのか」と溜飲が下がったのです。過去の昔話がリメイクされ、息を吹き返し、再び人々を感動させる。これもまたSDGs(持続可能な開発目標)ではないでしょうか。
笑えるし、胸のなかがほのかに温かくなる一冊です。この本を貫く温故知新の想いは暮らしや仕事にも役立つ点が多いはず。ウイズコロナで幕を開けた2021年は、これまでの価値観のままでは暮らせないのは間違いない。読めば、生き延びるための新しい冴えたアイデアがパカッと生まれるかもしれませんよ。桃がパカッと割れるように。
ハリウッド・リメイク桃太郎
「グランパ、グランマ。ぼく、悪い奴らを退治してきます!」
藤井 青銅 著
1,400円+税
柏書房
桃太郎が「ピーチ・ガイ」としてハリウッド映画で大活躍!?
――日本のむかし話・童話をハリウッド映画がリメイクしたら?
あるいは、外国のむかし話・童話を日本のドラマがリメイクしたら、一体どうなる?
映画・ドラマ・アニメ・ミュージカル・小説・ゲーム・歌・web作品……多岐にわたる表現のジャンルを駆使して、誰もが知っている物語を「リメイク」する、遊び心満載の一冊。
「オールナイトニッポン」の構成作家としても活躍する著者が、様々な表現形式の「パターン」「様式」を駆使して挑む、パロディを超えた「アダプテーション」の笑い!
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b536000.html
吉村智樹