【最近、寝られてる?】身近な「眠り」を捉え直すアート展

2020/12/16 09:00明菜明菜

こんにちは、美術ブロガーの明菜です。突然ですが、皆さんは昨日見た夢を覚えていますか?


心地よい眠りのイメージ画像

私はエアコンの修理をする夢を見ました。しみったれた現実そのものなので、夢だったのか、本当に修理したのか、数日後には分からなくなります。空を飛ぶとかドラゴンと戦うとか、現実離れした夢を見られる人が羨ましい…。

さらに悪夢を見てしまった日には、休むために眠っていたはずなのに、目覚めてぐったり…なんてことも。睡眠時の脳のメカニズムには、まだまだ分からないことだらけです。

さて、我々が毎日経験しているのに謎が多い「眠り」に焦点を当てた展覧会が始まりました。


小林孝亘《Pillows》1997年 国立国際美術館

東京国立近代美術館で開催中の『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』です。本展は、「夢」ではなく「眠り」に注目していることがユニークです。夢をテーマにした展覧会はさまざまな美術館で開催されてきましたが、「眠り」をテーマにした展覧会は珍しいですよね。

本展では眠りは人間にとってどのような意味を持つのかを探ることができて、とても面白かったです。安らかな眠りだけでなく、永眠と表現される死など、あらゆる意味の「眠り」の表現が展示されていました!

この記事では、私が見どころだ!と思った3種類の眠りについて紹介していきます。

■心地よい「眠り」

「眠り」という言葉から始めに連想されるのは、心地よい眠りではないでしょうか。体力や精神を回復し、明日を迎えるための眠りです。


(左)海老原喜之助《姉妹ねむる》1927年 東京国立近代美術館、(右)ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子供》1612-13年頃 国立西洋美術館

西洋絵画の巨匠ペーテル・パウル・ルーベンス《眠る二人の子供》は、観ている人をも眠りに誘うような甘く優しい絵画です。時代も出自も異なる海老原喜之助《姉妹ねむる》でほとんど同じ構図の絵を描いているのも面白いですよね。

大人も子供も、眠っているときは非常に無防備です。「安心できる環境」があること自体が、文明が発達した証なのではないかと思いました。


(左)藤田嗣治(レオナール・フジタ)《横たわる裸婦(夢)》1925年 国立国際美術館、(右)エドモン=フランソワ・アマン=ジャン《夢想》1923年 国立西洋美術館

私の寝姿もこんな風に綺麗だったら良いな、と思うんですけど、いびきかいてるだろうなぁ。いびきをかいている時点で、あまり健康には眠れていないでしょうし。絵画のように安らかな眠りは、実際にはあまり経験できていないかもしれません。

■目覚めを待つ「眠り」

2つめの「眠り」は、今は眠った状態であり、いつか目覚めるのを待つ眠りです。


河口龍夫《関係―種子、土、水、空気》1986-89年 東京国立近代美術館

河口龍夫《関係―種子、土、水、空気》という、種子や金属などを用いたインスタレーション(空間を使った作品)が、とても気になりました。色彩は控えめなのですが考えさせられる作品です。

壁に展示された鉛の板の中には麦やたまねぎなどの植物の種子が埋め込まれています。床に置かれているパイプの中には、種子を発芽・成長させるために必要な土、水、空気が閉じ込められています。

つまり本作の中では種子が眠っており、土、水、空気に触れることでいつか目を覚ますのを待っている、と言い換えることができます。


河口龍夫《関係―種子、土、水、空気》(部分)1986-89年 東京国立近代美術館

作者の河口はチェルノブイリ原発事故に触発され、植物の種子を閉じ込めて保護する作品を制作してきました。ご存じのとおり、日本も2011年に原発事故を経験しました。また別の文脈ですが、環境破壊や地球温暖化によって「今と同じ食糧が今後も永遠に確保できるのか?」という問いに直面しています。

「未来を救うための保存」というジャンルの眠りは、ポジティブなのでしょうか。今は眠っている種子たちが、目覚めるときが来てほしいとは願いにくい…複雑な感情を抱かせてくれる作品でした。

■自己の存在を証明する「眠り」

3つめの「眠り」は、自己の存在を証明するものです。

河原温というアーティストをご存じでしょうか?コンセプチュアル・アートの分野で国際的にも高い評価を得ている、日本を代表するアーティストの一人です。


河原温『Today(1966-2013)』より《JULY 15, 1970》1970年 東京国立近代美術館、《MAY 12, 1980》1980年 国立国際美術館、《JUNE 23, 1980》1980年 国立国際美術館

河原の代表作《Today》シリーズは、毎日その日の日付を描いた作品です。本作は、自宅やホテルの一室にこもり、あまり公の場に姿を現さなかった河原の生きた記録そのものとなっています。

外界の人々からすれば、河原の生存をリアルタイムで確認することはできません。制作された作品によって、河原の生命を感じることができるのです。


河原温《I Got Up (1968-1979)》(部分)東京国立近代美術館

《I Got Up》シリーズも興味深かったです。本作はハガキに「I GOT UP ○○(私は○時○分に起きた)」と印字して友人に送った作品です。

少なくともハガキに書かれた日時まで河原が生きていることを示しているものの、郵便のタイムラグがあるので、相手に届いた時点での生存を保証するわけではありません。また、郵便事故で配達が遅れたり届かなかったりする可能性もありますよね。

次にハガキが届くまでの時間が長くなればなるほど、何かあったのではないかと心配になってしまうのではないでしょうか。


河原温《I Am Still Alive (1970-2000)》(部分)国立国際美術館

私には、眠りが毎日繰り返される小さな死であり、目を覚ますことによって「今日も死の淵から帰って来られた」と確認している作品のように思えます。睡眠と起床によって鮮やかに生存を確認できるのだと、河原のシンプルな作品を鑑賞しながらしみじみ感じておりました。

【まとめ】アートが表現する眠りを紐解く

東京国立近代美術館で開催中の『眠り展:アートと生きること』を紹介してきました。美術作品を通じ、眠りにはさまざまな意味があり、私たちの生き方や社会に密接に関わっていることが感じられる展覧会です。


饒加恩(ジャオ・チアエン)《レム睡眠》2011年 国立国際美術館

本展には、国立美術館のコレクションから精選された作品が展示されています。会場となった東京国立近代美術館だけでなく、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館のコレクションも見ることができますよ!

「眠り」という身近なテーマに焦点を当てた展覧会で、眠りの新たな一面を発見されてはいかがでしょうか。


瑛九《「眠りの理由」より (1)》《「眠りの理由」より (2)》《「眠りの理由」より (3)》1936年 東京国立近代美術館

『眠り展:アートと生きること ゴヤ、ルーベンスから塩田千春まで』
会場:東京国立近代美術館 1F 企画展ギャラリー
会期:2020年11月25日(水)~ 2021年2月23日(火・祝)
公式HP:https://www.momat.go.jp/am/exhibition/sleeping/