全員オタクのルームシェア。果たしてうまくいくのか?『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』

2020/11/3 20:00吉村智樹吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第25冊目『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』です。




この頃、複業支援サービスまで付いた多機能シェアハウスが供給されたり、保護猫を飼う条件で家賃が安くなるシェアハウスがニュースになったりと「シェアハウス」「ルームシェア」が時代のトレンドとなっています。


菅首相が「共助」を理念に掲げる昨今、ひとつの物件をシェアして助けあう生活が注目されているのです。


ルームシェアだと、ひとり当たりの家賃が安くなるし、家が広くなるし、便利だよなあ。でも果たして、親族でも恋人でもない人たちと、ひとつ屋根の下で暮らせるかが心配。だって自分、オタクだし。『推しごと』を最優先するライフスタイルを理解してもらえるだろうか……」


そんな不安を抱くあなた、まずこの本を読んでみてはいかがでしょう。


■首相を筆頭にニッポン総オタク時代


11月2日、菅首相が衆院予算委員会で「私も『全集中の呼吸』で答弁させていただく」と「鬼滅の刃」のセリフを引き句して答弁し、大いに話題となりました。菅さん、マンガやアニメがお好きなのでしょうね。パンケーキだけではなく。日本学術会議の問題を追及されても任命拒否の理由について口を固く閉ざしているのは、竹の口かせをしてしゃべれない禰豆子にあやかっているのかもしれません。


菅首相のように、あなたもなんらかのオタク要素や萌え属性があるのでは? ジャニーズ、坂道系、韓流、V系、アニメ、ゲーム、2.5次元ミュージカル、BL、ライバー、レイヤー、芸人、YouTuberなどなど、誰しもひとつは激推しがいるのではないでしょうか。





オタクの沼にはまるディープな暮らしは楽しいものです。しかし自分が属するクラスタの壁を超えると、とたんにコミュニケーション不全症候群に陥るパターンもオタクにはよく見受けられます。相手が自分が棲むオタク属性とは異なっていたり、相手がオタク世界の価値観の圏外にいたり、逆にガチ恋すぎる人たちを前していたり、そんな状況だと固い殻に閉じこもってしまう。自分の心のなかにある桃園を守るためには、いたしかたないディフェンスです。


■著者は自衛隊出身でヴィジュアル系バンドオタク


そのようなプライベートな時間を重要視するオタクが4人も集まって、もしも「ルームシェア」で一緒に暮らしはじめたら、果たしてどうなるのか。しかもオタク属性がバラバラな4人だったら……


全員悪人ならぬ「全員オタク」のシェアハウスでの生活ぶりを描いたエッセイ集『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)が話題となっています。


書いたのは共著『すべての道はV系へ通ず。』などで知られるサブカルライターの藤谷千明さん。この本は藤谷さんがアニメ、コスプレ、ショタコン、演劇、アイドル、ソシャゲなどクラスタが異なるオタク女子4人が集まり初めての共同生活をスタートさせ、新型コロナウイルス感染拡大の危機を乗り越えるまでの春・夏・秋・冬を綴ったエッセイ集です。


藤谷さんは自衛隊出身という、ライターでは珍しい経歴の持ち主。ミリタリーやアウトドアサバイバルにも明るく、バンギャで、かつ「HiGH&LOW」シリーズにハマるEXILE部族でもあります。





そんな彼女が初めて上梓したこのエッセイ集は、さまざまなオタク用語が軽快にカットアップされ、文章が冴えわたっています。笑えて、なおかつほろ苦さもあり、読んでいて本当に楽しかった! 実用的でもあり、読める&使える、5000点さしあげたくなる充実の一冊でした。


■言わば「全員オタク」のテラスハウスが開幕!


藤谷さんは長く同棲していた彼氏と、言わば「方向性の違い」で別れ、初めてのひとり在宅。秋が深まるにつれメンタルはHiGHからLOWへと落ちます。さらに肩を傷めてしまい、独り身の自宅警備員生活に限界を感じ、ついには部屋で涙するまでに凹んでしまいました。


村を焼かれるような孤独を感じた藤谷さん。思いついたのが、以前に実の妹とやっていた(のちに生活習慣が合わずに破綻した)ルームシェアでした。血縁者とすらうまくいかない難しい、ひとつ屋根の下の生活。けれども孤独死と老後の心配が胸のなかでモッシュするようになり、SNSを通じて同居者募集を開始。そうしてオタク属性がバラバラな、ハンドルネームしか知らなかった女子4人が寝食を供にする生活がムーブしたのです。





■「おそ松さん」がつなぐ絶妙な関係


とにかく読んでいて、「紅」の4小節ドラムソロのごとく「なるほど」と膝を連打する場面がたっくさん。


ルームシェアの物件選びにまず留意する点、それは「コンセント」の数「オタクはデバイスが多い」。確かに。電源の多さはオタクライフの命綱です。そして、4人で頻繁に使うのに安い家具を買うと、すぐ壊れるということ。彼女たちは安いラックのせいで電子レンジを大破させました(使用後でも、買った量販店に言えば交換が効き、さらに壊れた家電を弁償してもらえる場合があるのも初めて知りました)。

食材は、冷蔵庫に何が入っているかを書き出しておかないと買いダブるケースも。書く作業をメンドくさがらないオタクゆえに、ここをクリアできたのは大きい(ちなみに本もダブります。4人中3人がミヒャエル・エンデの『モモ』を所持していたのだそう」)。買い物や掃除は誰がなにをしたか、じゃまくさがらずにLINEグループで報告しあうのが円滑にルームシェア運営をする秘訣なようです。


そして重要なのは、適度な距離感、相手の地雷を踏まない、ちょうどよいザル感。たとえば藤谷さんはある日、「おそ松さん」から派生したネットスラング「嘘松」をつい口にしてしまいます。属性はバラバラでも「おそ松さん」は心が通い合っていたため、ネガティブな意味を持つスラングが同居する女子たちを傷つけてしまったのです。





とはいえ喧嘩をするほど親友なわけでもない絶妙な距離感ゆえ、それぞれが不快な出来事を自己消化~自己完結してゆきました。相手に関心がありすぎても、なさ過ぎても「シェア」はできない。同じく清潔感がありすぎても、なさ過ぎても、暮らしてゆけない。まして金銭感覚がかけ離れていては無理でしょう。家賃を住む人数で分割している以上、誰かが家賃を払わなくなったら、関係性は途端に崩壊します。


コミケのブース間で発生した、本名で呼び合わずに敬語で話す関係性「オタク」。他人に強く依存しないオタクだからこそ、ルームシェアがうまくいくのでしょう。


このように同居する女子たちが双方を思いやったり、やられたり。相手の心に踏み込みすぎぬよう適度な屋内ソーシャルディスタンスをはかる暮らし。4人はさまざまなポイントを配慮しながら日々を重ねます。それはまさに成長でした。


■ルームシェアで生活費はどうなる?


さて、気になるのはなんと言っても生活費
ルームシェアするようになり、果たして生活費は上がったのか? それとも下がったのか?
まさに「HiGH&LOW」。


その驚きの結果とは……な、なんと! 家が広くなり、毎日お風呂に入れて、食にも困らなくなって、「共用費」でマンガをコンプリート買いできて、そ、そのお値段? ひとり暮らししていた時期との差額を貯金していけば、けっこう蓄えられるんじゃないでしょうか。5000兆円くらい。逆に言えば、ひとり暮らしって不経済。高くつくんですよね……。





不景気、非正規雇用、高齢化、非婚化が進む我が国。節約のためにも孤立回避のためにも、ルームシェアという名のソーシャルゲームはこれからどんどん広がり、コンテンツも進化していくでしょう。生活設計が崩れたり、人間関係にヒビが入ったりせぬよう、来るべき日のために読んでおいて損はない新刊です。



オタク女子が、4人で暮らしてみたら。
藤谷千明 / 著
1,300円(税別)
幻冬舎
 
我が家こそ、沼でした!

お金がない、推しのグッズは増える、孤独死は嫌だ!   
そんなわけでアラフォー女子がはじめた快適ルームシェアの日々。

一生を約束したくはないけれど、淋しいから誰かと暮らしたい。
推しのグッズは増える一方なので広い部屋に住みたい。
節約して将来への不安に備えたい……。
意見の一致したオタク女子4人がルームシェアをすることに!    

本名すら知らなかった仲間との生活は、オタクならではの出来事や会話が飛び交う毎日で、全然キラキラしてないけど、すごく楽しい。
そんな4人が同居に至るまでと、春夏秋冬の暮らしを綴った、ゆるっと日常エッセイ。
https://www.gentosha.co.jp/book/b13285.html
▼電子書籍
https://www.gentosha.co.jp/book/b13288.html



(吉村智樹)