スマホのGPSアプリを使って走りながら地図上に絵や字を書く「GPSランナー」に会ってきた!

2019/2/19 10:00 吉村智樹 吉村智樹

▲スマホの地図の上に「感謝」の文字。実はこれ、GPSアプリを使って実際に走りながら描いたものなのだ


こんにちは。
関西在住のライター、吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第55回目となります。





■スマホのGPSアプリを使って、走りながら地図上に字や絵を描くランナーがいた!




志水
GPSランを始めて、今年で4年目。この4年で人生が激変しました。いまは走ることが、とにかく楽しい」


そう語るのは兵庫県西宮市の小学校で6年生を担任する教諭、志水直樹さん(31歳)。



▲「GPSラン」を実践する小学校教諭、志水直樹さん



▲「祝卒業」。かつての教え子に贈ったGPSランによる作品


「GPSラン」とは、志水さんが考えた言葉。スマホのGPSアプリを使って、走りながら地図上に字や絵を描く行為を、こう呼びます。走ることで書をしたため、絵画を表現するのですから、言わばスポーツ書道、アートランニング。


「走って地図に字や絵を描くって、いったいどうやるの?」


そう思われる方も多いでしょう。GPSアプリは走った道がそのまま線で表示/保存されるので、ひと筆書きにひじょうに近い表現方法を採れば、理論上は、地図に字や絵を描くことが可能になるのです。



▲謹賀新年



▲PEACE



▲犬、猿、キジ、鬼


しかし、いざやるとなったら、これはたいへん。たとえば道路を漢字の部位に見立てようとするならば、相当な広さと走行距離を要します。そもそも、走りながら字や絵を描くには鳥瞰図的な視点を維持しなければ、完成はありえないのです。


この難しいGPSランを実践しているのが、志水さん。2018年には地や絵を描くために日本を1200キロ縦横断しました。そしてその間に描きあげた作品はSNSを通じ、全国へと拡散されていったのです。さらにGPSランの輪は海を越え、台湾にまで及びました。


いったいなぜGPSアプリで地図上に文章や絵を浮かび上がらせようと考えたのか。
そして、そうすることで見えてきたものとは?
日本でおそらくたったひとりの「GPSランナー」、志水さんご本人にお話をうかがいました。


■「地図を眺めていると地や絵が浮かんで見えるんです」


――志水さんは「GPSランナー」という肩書がありますが、GPSを使って文字や絵を描く人は、ほかにいるのでしょうか。


志水
「自動車でやってる方はいるらしいですが、自分で走ってやっている人は、僕のほかにいないんじゃないかな。『GPSラン』という言葉そのものが、僕が勝手にネーミングしたものですから」


――唯一の存在ですよね。まず「道を走って地図上に字や絵を描く」という発想と実行力に驚かされました。地上を走ると同時に鳥のような目線が必要で、「いったいどうやっているんだろう」と、不思議に思うのですが。


志水
「僕は地図を眺めていると、生き物が浮かんできたり、字に見えたりするんです。小学校の先生をやる以前は建設コンサルタントの仕事をしていたので、地図を観るのはほかの方より得意かもしれません」



▲情熱大陸


■紙の地図を手に持ちながら走る超アナログな方法だった


――これまで、何枚の作品を地図上に残されたのですか。


志水
「(取材をした2月9日の土曜日時点で)75枚です。今日は京都を走って舞妓さんの絵を描いてきたので、ひとつ増えました」


――単純に「なぜ走りながら字や絵が描けるんだろう」という疑問があります。まるでナスカの地上絵のような。走りながらどのようにして俯瞰の視点をキープしていらっしゃるのですか。


志水
「実はすごくアナログな方法なんです。まず目的地を決め、その街にゆえんがある名物や人物など(たとえば三重県津市なら伊勢海老)を調べ、次にプリントアウトした地図に手で赤線を引きながら走るコースを決めます。そしてその地図を手に持って走ってるんです。『何本目の筋を曲がるんや?』って確認をしながら。だから紙は折り目だらけでですよ」



▲舞妓はんを描いた作品の元地図。折り目と汗でぐちゃぐちゃだ。これを手にしながら地図上にデジタルデータを残してゆく



▲神戸BEEF



▲こうして見ると、いかに大きな絵であるかがわかる



▲伊勢海老



▲讃岐うどん



▲古墳



▲独眼竜



▲なまはげ



▲伊達政宗



▲織田信長



▲坂本龍馬



▲野口英世



▲霧島芋ロック



▲有明のり



▲ヒョウ柄のおばちゃん



▲越前ガニ


――え! プリントアウトした地図を見ながら走っていたんですか。なんだかアナログとデジタル、汗とハイテクの融合ですね。


志水
「そうなんです。『AIじゃできない感動』が僕のひとつのテーマですから」


■夜行バスで往復しながら日本制覇を目指す


――関西のみならず、日本中で描いていらっしゃいますよね。他府県はこれまでどういう場所を走られましたか。


志水
「現在は33都道府県です。ランニングしながらヒッチハイクをして、コンビニでプリントしながら走りました。オリンピックまでに全都道府県を走破したいです」


――地図に字や絵を描くためにヒッチハイクですか! いったいいつ走っていらっしゃるんですか。


志水
「おもに小学校の夏休みや冬休みを利用して。あと、金曜日に仕事が終わって、そのままたとえば長野県まで夜行バスで行って、土曜日に走って、また夜行バスで関西へ帰ってくる日もあります」


――走るだけではなく、走りに行くだけでもハードですね。担任をされているクラスの生徒さんは、それをご存じなのですか?


志水
「はい。子どもたちは月曜日になると『先生、どこ走ってきたん?』とワクワクしながらGPSランの話を聴いてくれます。ただ『走行距離は14、15キロや』というとドン引きして、『自分もやってみたい』と言う子はいませんね(苦笑)」



▲WEラブ神戸



▲WELCOME京都



▲SUITOUTO(好いとうと)博多



▲鹿Xmas


■同じ道を何度も走るので「怪しいやつ」と思われることも


――ひとつの作品を完成させるのに、何キロ走っているのですか?


志水
「ひと筆書きの要領で走るというルールを自分で定めていて、そのため同じ道を何度も往復しながら文字や絵を描いてゆきます。なので『何キロ走るんですか?』と問われても、実際に走ってみないとわからないのが正直なところです。これまでの作品をかえりみると、先ほども言いましたが、だいたい14、15キロでしょうか」


――かなりの長距離ですね。しかも普通のランニングと違い、地図を見ながら同じ道を行ったり来たりするでしょうから、知らない人からしたら「なにをやってるんだ?」って怪訝に思うでしょう。


志水
「そうなんです。手をつないだカップルの前を3度も通りすぎて怪しまれたり、すれ違ったおばちゃんに何度も挨拶して『兄ちゃん、また通った! あんたさっきからいったいなにしてるんや?』と疑われたり。挙動不審だと思われることはしょっちゅうあります」


■東日本大震災の被災地を励ましたかった


――そもそも、なぜ「GPSを使って地図上に絵や字を描こう」と思われたのですか。


志水
「東日本大震災以降、小学校の夏休みを利用して、被災地で教育ボランティアをやっていたんです。でも、夏休みが終われば西宮へ戻らなくてはならない。関西にいながらでも東日本の被災地を元気づけられる方法はないやろうか……と、ずっと考えていたんです。そんなとき、たまたまGPSランをひらめいたんです。『GPSのアプリを使って、自分で走って地図上にメッセージを書けば、僕なりに応援できるんじゃないか』と」


――震災に対して、想うところがおありだったのですね。


志水
「そうなんです。自分自身が阪神淡路大震災で被災したんです。テレビでよく映像が流れていた、車が落ちそうになっている危険な高速道路があったでしょう。あそこの近くに住んでいたんです。見渡す風景はすべてぺちゃんこになりました。そのような惨状を知っているだけに、自分にやれることはやりたいという気持ちが強かったんです」


――ご自身も被災されていたのですか。お話に出てきた「GPSのアプリ」とは、どのようなものですか。


志水
”Runtastic(ランタスティック)GPS”という、ごく一般的なランニング&ウォーキング距離計測記録アプリです。走った場所には地図上に色がつき、記録を残せるんです



▲「ランタスティック」というアプリを使えば走ったコースに色がついた線となって記録できる。この機能を使って地や絵を描く。パソコン上でも展開が可能


――「GPSアプリを使うと字や絵が描ける」と気がついたきっかけはなんだったのですか。


志水
「それは、福男です」


――は? 福男?


志水
「『えべっさん』の総本社である西宮神社で毎年1月に開門神事の『福男選び』が行われるんです。福男には毎年応募しているんですが、くじ引きで当たらないと走れないんですよ。4年前に当たらなくって悔しくてね。もしもくじ引きで当たっていたら走っていたであろう場所をGoogleマップでじーっと見ていたんです。すると、神社に形が『西』に見えてきて。『あれ? これ、道を走ることで“西宮LOVE”って書けるんちゃうか?』と気がついて。それがきっかけです」


――に、西宮LOVE?


志水
「はい。僕、地元の西宮が大好きなんです。愛してるんです」


――西宮市の風物詩である福男選びもかなり走りますが、もともと走るのはお好きだったのですか。


志水
「はい。ランニングはずっとやっていたんです。東日本の被災地でも走っていたんですよ。『震災に遭ったリアス式海岸は、どうなっているんだろう。自分の目で見なあかんな』と思って、テントを背負って寝泊まりしながら海岸200キロを走ったり、ボランティアしている小学校の周りを走ったりしていました」



▲背中にテントを背負いながら被災地の海岸沿い200キロを走った


■走って地図に「感謝」と書いて両親にプレゼント


――GPSランをされるようになって、ご自身の暮らしに変化はありましたか。


志水
「ありましたね。SNSで拡散され、『うちの家の周りを走ってくれたんですか』って感激してくれる人がいたり、Facebookで知りあった方のおうちに泊まらせていただいたり、新たな交流が増えました。『人との出会いって大事やな』って改めて思いました」


――GPSランを通じて、忘れられない出来事って、ありましたか。


志水
「30歳になるとき、両親への感謝の気持ちを込めて、走って『感謝』という文字を書きました。それを印刷して、地酒のラベルにして贈りました。めちゃめちゃ喜んでくれました」



▲走って「感謝」という字を書き、日本酒のラベルにして両親へプレゼントした



▲感謝


■市長も感激。震災があった台湾までGPSラン


――昨年と今年の2回、台湾でもGPSランをされたそうですね。台湾を走られた理由はなんですか。


志水
「東日本大震災があたっとき台湾から義援金をいただき、ずっと『感謝の気持ちを表さなあかん』と考えていたんです。そんななか、台湾の花蓮市で大地震があって、ゴールデンウイークに現地へ応援メッセージを書きに行きました。台湾には個人的に特別な想い入れがあったんです。大学時代の半年間、イギリスへ留学していまして。仲がよかったルームメイトが台湾人で、彼の安否も知りたかった。連絡を取ってみたら無事でね。『一緒に台湾を元気にしようや!』って自転車で併走して、現地でのコーディネートまでしてくれて。励ましに行って、こっちが励まされて帰ってきました」



▲震災にあった台湾へ励ましのメッセージを送るため海を渡って被災地を走った



▲日本ラブ台湾



▲台日友好



▲招財進寶



▲花蓮加油



▲花蓮市長も感激した


――台湾でのお話をうかがうと、これから活動がワールドワイドに拡がりそうですね。


志水
「そうなりたいです。海外へは、いつかたくさん行きたい。地図を見ながら『こんな字になる、こんな絵になる』というアイデアがたくさん浮かんできて、描き溜めてあるんです」


――夢がありますね!


志水
「はい。自分が走ることで誰かを励ましたり、人と人をつなげたりしていきたい。そんな想いでいっぱいです」


「GPSラン」というスマホのなかの超巨大アートは、「誰かを励ましたい」という熱い想いのなかで描かれていたのですね。インタビューを終え、外へ出ると、いつもは見慣れた道路がある景色が違っているように感じました。心の地図の上に「夢」という文字が浮かんで見えたのです。



GPS-Run for SMILE
https://www.facebook.com/GPSNAOKI/



取材・執筆 吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy