ガンプラの空き箱が別のロボットに! 造形師・安居智博さんの「プリント柄カミロボ」

2018/8/27 21:30 吉村智樹 吉村智樹


▲ガンプラの空き箱、お菓子の包み紙、百貨店の手提げ袋がロボットに!


いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





■SNSで話題騒然! 「プリント柄カミロボ」とは?


Twitterで昨年から、ある造形物の画像が話題となっていました。
それが「プリント柄カミロボ」


話題の幕を切って落とした最初の一枚が、ガンダムのプラモデルの空き箱を利用してつくった、この作品。


「なんだこれは! ガンプラの箱が、別の『なにか』になっている!


ガンダムという、これ以上いまさら印象を変えがたい既存のグラフィックを、得体のしれない別のものに変身させたその画像に巷は騒然。
たちまち9000を超える「いいね!」がつき、9500を超えるリツイートもされ、バズリました



▲ガンプラの空き箱を利用してつくった「プリント柄カミロボ」



▲たちまち9500を超えるリツイートが


その後も、「ひな千代(雛飾りの畳のフチに使う和紙)」「歌舞伎の隈取が刷られた和紙」「葛飾北斎の絵ハガキ」「ブルボン『ホワイトロリータ』の包み紙」「宅急便のワレモノ注意シール」「髙島屋の紙袋」「100円ショップで売られているトランプ」「カルビー『日本代表チップス』の袋」と、既製の印刷物を大胆に変化させたカミロボが続々とTwitterへと送りこまれ、たびたびトピックとなりました。



▲「ひな千代(雛飾りの畳のフチに使う和紙)」でできたカミロボ



▲「歌舞伎の隈取一覧」を刷った和紙から生まれたカミロボ



▲「葛飾北斎の絵ハガキ」でできたカミロボ


■「プリント柄カミロボ」の制作者は世界中にファンがいる造形作家


作者は安居智博さん(46歳)。
フィギュアの原型やプロレスの覆面、ヒーローのコスチュームなどを製作している造形師さんです。



▲作者は造形師の安居智博さん


「カミロボ」とは、安居さんが小学生の頃から600体以上つくり続けている紙製ロボットのこと(現在は、素材は紙にとどまらない)。
「ヤスイ締め」という、針金を使った独自の接続手法が特徴です。



▲安居さんが小学生時代からつくり続けている紙製のロボットレスラー「カミロボ」


日本各地のみならず、ロンドンやメキシコでも個展を開催。
2008年には、なんとアメリカのニューヨーク近代美術館(MoMA)で「カミロボのペーパーフィギュア」が発売されるなど、安居さんが手がける作品は世界中にファンがいるのです。


実は2016年に、この「いまトピ」にも、日用雑貨や台所用品をロボットレスラー化した「カミロボ異素材軍団」の作者として、ご登場いただいています。


日用雑貨や台所用品でロボットレスラーを作っている人に会ってきた!
https://ima.goo.ne.jp/column/article/4654.html


そんな安居さんが新たに挑む「プリント柄カミロボ」という名の、既存のデザインの再構築。
なぜ、そんなことをしはじめたのか?
造形界のお騒がせ男に、再びお会いしてきました。



▲Twitterでバズった、あの「プリント柄カミロボ」たちを目の当たりにすると、なんだかスターと出会った気分














■プリント柄カミロボは「ファッションモデル」


――安居さんがつくる「カミロボ」は、これまでほぼ「レスラー」でしたが、このたび誕生した「プリント柄カミロボ」も格闘技の選手なのですか?


安居
「ん〜……。例えるならば、デザインを伝えるファッションモデルという位置づけでしょうか。なので、できるだけ人間に近いフォルムになるようにがんばりました」


――彼らはファッションモデルなのですか。どうりで体型がスマートで、立ち姿も凛々しいですね。


安居
「股関節も、これまでのカミロボとは違うつくり方をしています。自立した時に美しく映えるようにしたいので、制作はだいたい2日かかりますね」



▲立ち姿が美しくなるよう、股関節や膝の関節などは特に念入りにつくられている


■ガンダムの空き箱から誕生した別のロボット


――「プリント柄カミロボ」の第一弾となる「ガンプラの空き箱」を使った作品は衝撃を受けました。Twitterにアップされたとき「安居さんが、また新たな世界を切り拓いた!」と感心しました。あれは「ガンプラの箱からもう一個ガンダムを作ってみよう」という発想だったのですか?


安居
「いいえ。そうではないんです。Twitterにアップしたとき『ガンダムにしては細すぎる』というコメントもいただいたのですが、これはガンダムの形を再現して作ったペーパークラフトではないんです。あくまでガンダムの絵を表面に貼りつけた『プリント柄カミロボ』なんです」


■「ガンプラに紙を貼ったらどうなるんだろう」


――なるほど! ガンダムがプリントされた空き箱から別のロボットが生まれたほうが、確かにドキドキしますね。ポテトチップスの袋や百貨店の包装紙がロボットになるのも、その意外性がおもしろい。そもそも、プリントされた箱からカミロボをつくろうと思ったきっかけは、なんだったのでしょう。


安居
「実は、初めから『プリント柄カミロボをつくろう』と思ったわけではなかったんです」


――ということは、ほかのなにかを作っていたのですか?


安居
「昨年(2017年)の2月にガンダムのプラモデルをつくったことが結果的にプリント柄カミロボ制作のきっかけとなりました。その時は、包装に使う茶色いクラフト紙をプラモデルの表面に貼りつけて遊びました」



▲組み立てたガンプラにクラフト紙を貼りつけたら、意外な高級感が



▲「プラモデルの紙化」「空き箱の立体化」。ひとつのガンプラでふたつの実験をおこなった


――(現物を見て)これがその作品ですか。プラモデルとはまた違う、伝統工芸品のようなおもむきがありますね。


安居
「久しぶりのプラモ作りで楽しかったですね。楽しかったのもあって、プラモデルを完成させたあとの空き箱が、なんとなくもったいなくて捨てられなくなりましてね。とはいえ『箱のまま残しておくのも邪魔になるしな』と思いながら部屋の片隅にずっと放置していたんです。そして同じ2月のある日、風呂あがりに、ふと思いついたんです


■「すでに印刷されたものの立体化」に挑戦!


――「ふと」思いついた? なにをですか?


安居
「『ガンプラの箱』という”絵が印刷されている厚紙”を『そのまま材料にしてカミロボがつくれないか』って。僕が小学生の頃からつくり続けてきたカミロボは、立体でありながらも顔や体の模様は絵を描くことで済ませているので、『立体と絵が混ざりあって成立している造形物だな』と再認識したのです。だったら『はじめからプリントされている紙の柄を活かしながら、平面を立体化することもできるんじゃないか?』『すでにある平面デザインを人型にしたら、いったいどんなものができるんだろう』と思い、すぐに取り掛かりました。カミロボ異素材軍団の方でも初心者マークを活かした新作を考えていた頃だったので、プリント柄の再構築をもっと追求してみたくなったのです」



▲マグネット式の初心者マークから生まれた「カミロボ異素材軍団」。この時期から安居さんの「プリント柄」への興味がいっそう深まった



▲ガンプラの空き箱



▲切り抜いて、ヒト型のパーツに



▲「ヤスイ締め」でつなぎ留める



▲ガンダムにあらず。名もない面長なロボットが完成!


――真冬の風呂あがりにそれを思いついたのですか。アルキメデスみたいですね。風邪をひきますよ。しかし、そのひらめきどおり、いい作品ができましたね。


安居
「みんなが知っている平面のグラフィックを、『そのまま人体の模様に使うと別のかっこよさを生む』ということがわかりました。そして、『もっといろんなプリント柄を積極的に試してみよう。そうすることで、新しい世界が見えるかもしれない』と、さまざまな柄を試してみました。そうして、人に見てもらえるまでできあがったプリント柄カミロボが、現在9体になりました」



▲100円ショップで買ったトランプ






▲「顔をどうしようか」悩んだという



▲宅配便の「ワレモノ注意」のシール






▲シール自らが配達員に


■人知れず消えていった没作品もある


――「人に見てもらえるものが現在9体」ということは、「そうならなかったもの」もあるのですか?


安居
「実は……かなり試行錯誤をしています。つくってみたものの、没にしたものもあります。元の平面デザインの段階だと、とてもかっこいい。なのに、いざ立体化してみると、どうにもパッとしない。立体化する意味や、立体化することで生まれるべき新たな魅力が見えてこない。そういうものが、たくさんあるんです。プリント柄には再構築しやすいデザインと、しにくいデザインがある。プリント柄を立体に落とし込むのは、なかなか難しいですね。しかも、それは実際につくってみないとわからないのが、さらに困りものです」


――没作品もたくさんあるのですか。きっと僕が見ると、安居さんが言う失敗作であっても「すごい!」と感じると思うだろうな。プリント柄カミロボに「なる」or「ならない」の差って、どこにありますか?


安居
「なるのは『○○を使っています』とわざわざ説明をしなくても、素材がなにであるかがわかるデザインですね。たとえかっこよくできても、説明が必要だと、あまり魅力的ではないと思うんです」



▲説明がなくとも「髙島屋の紙袋だ」とわかる。これも「顔をどうしようか悩んだ」という。針金の色にもこだわりを感じる


■素材が何なのかが伝わらないと意味がない


――確かに、「パッと見てわかる」のがプリント柄カミロボの最大のチャームポイントですよね。しかし、そういう素材は意外と少ないのでは。


安居
「そうなんです。苦労します。絶対に縮小や拡大コピーなどをせず、そのまんま使うことにこだわっているので。そうなると、意外とカミロボに合うサイズの素材がない。これからも、つくりながら試していくしかないですね」



▲「縮小や拡大コピーなどをせず、そのまんま使う」をポリシーとし、「サッカー日本代表チップス」はピタッとハマった好例





■これは息抜き。だからこそ全力でやる


――いい素材と出会えることを祈っております。では、プリント柄カミロボをつくりはじめて、よかった点はありますか。


安居
「誰もが知っている既存のグラフィックデザインの素晴らしさを再認識できたことや、既存のデザインを人型にアレンジする過程で、すごく勉強になると感じることですね。そして何かをつくることで周りの人に楽しんでもらう、という自分が小学生だった頃の原点的な感覚を思い出させてくれたことも、とても大きいと思います」


――ということは、プリント柄カミロボは、安居さんにとって原点回帰をうながす存在でもあるのですね。最後に、これら「プリント柄カミロボ」はいま、お仕事としてつくっているのですか?


安居
「いいえ。息抜きです。仕事とはまったく関係なくやっているんです。でも、息抜きだからといって真剣にやらないでいると、僕は余計に疲れるんです。脳みそって、違う使い方をすることで休まるんだと思うんですよね。なので制作に没頭します。そうすることで、また次の仕事に直接的や間接的に反映されていくので、すべてはつながっていると思います」


「息抜きだから、全力でやる。没頭する」。
その言葉に、クリエイターの魂を感じました。
そういった熱いスピリッツが安居さんのハートに刷り込まれているのでしょうね。





そんな創意工夫の精神に溢れた安居智博さんのトークを聴くことができるイベントが、9月5日(水)、大阪で開催されます。


2018年 9月5日(水
創作と対話「好きなものを作って生きていく」





【出演】
安居智博(造形師・カミロボ作家)
伊勢田勝行(孤高の自主制作アニメーション・特撮作家)
藤井亮(映像作家、滋賀県『石田三成CM』NHK『ミッツ・カール君』など)


【聞き手】
日下慶太(コピーライター・写真家)
吉村智樹(フリーライター・放送作家・関西版VOW主幹)


小学生の頃から35年にわたって作り続けられる紙製ロボット「カミロボ」がNews Week誌「世界が尊敬する日本人100」にも選出される安居智博。


三戸なつめのデビューシングル「前髪切りすぎた」のMVで話題となった孤高の自主制作アニメーション・特撮作家、伊勢田勝行。

滋賀県『石田三成CM』など、中学生が思いつくようなくだらないアイデアを大人が本気で作ったような映像作品が特徴の藤井亮。


子どもの頃のまま創作を続ける、3人のクリエイターによるトークライブを開催!


会場: Loft PlusOne West(ロフトプラスワンウエスト)
住所: 大阪市中央区宗右衛門町2-3 美松ビル3F
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/west/92926
TEL:  06-6211-5592
最寄駅: 各線「心斎橋」「なんば」「長堀橋」「日本橋」


OPEN 18:30 / START 19:30
前売¥2,000 / 当日¥2,500(共に飲食代別)※要1オーダー500円以上
前売券はイープラス、ロフトプラスワンウエストWeb予約にて発売中


いま、行き詰っている方、「こうでなければならない、の向こう側」を切り拓くクリエイターたちのお話に、耳を傾けてみませんか?


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TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ