日用雑貨や台所用品でロボットレスラーを作っている人に会ってきた!

2016/12/19 12:30 吉村智樹 吉村智樹





▲灯油ポンプ、亀の子たわし、電気のコンセントなどなど日用品がロボットに。彼らはロボットのプロレス団体「異素材軍団」の選手たちなのです



こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
ここでは毎回、僕が住む京都から、耳寄りな情報をお伝えしております。


皆さんはTwitterをやっていらっしゃいますか。
Twitterユーザーなら経験があるかと思いますが、タイムラインには時として、とてつもない才能が出現します。


この日も、そうでした。
何の気なしにスマホでタイムラインをさくさく閲覧していると、ふいに、異様にカッチョいい超人たちが現れたのです。


たとえば――。



▲祝儀袋を結ぶ鶴亀の水引がロボット化。その名も「ウォータープル」


祝儀袋を結ぶ鶴亀の水引が、ロボットとなって、すっくと立ちあがっている。
その名は、水引を直訳した「ウォータープル」。


思わず二度見してしまいました。
和ものの水引が、ロボットに?



▲つまようじの「高楊枝(タカヨウジ)」


さらに、つまようじのロボット「高楊枝(タカヨウジ)」のお出まし。


このように生活雑貨や台所用品が続々とロボットと化し、凛々しくそびえたっているではないですか。


作者である安居智博さんのプロフィールによると、京都で活動をしていらっしゃるとのこと。


お会いしたい!
僕はさっそく安居さんのアトリエへ、パイルダー・オン! することにしました。



▲日用品ロボットの作者、京都にアトリエを構える造形師の安居智博さん


この方が作者の安居智博さん(45歳)。
フィギュアの原型やプロレスの覆面、ヒーローのコスチュームなどを製作している造形師さんです。


kami-robo Ⓒ 2003-2017 Tomohiro Yasui / butterfly・stroke inc. All Rights Reserved.


▲安居さんが作るレスラーのマスクはアート作品としても注目されている


かつては東京の造型会社で東映戦隊ヒーローの撮影用仮面やスーツ、怪人の着ぐるみなどの造型に携わり、独立ののちに京都へ拠点を移されました。


では、さっそく素敵にドメスティックなロボットたちの現物を見せていただきましょう。



▲灯油ポンプの「シュポシュポン」



▲便所サンダルの「ベンサンダー」



▲軍手の「グンハンド」



▲ブルーシートの「バショトリー」



▲食器洗い用スポンジの「スポンG」(スポンジー)



▲スチールウールの「スティール」



▲亀の子たわしの「ゴッシ」



▲水道ホースの「ブルーホース」



▲テニスボールの「ウィンブルドーン」



▲輪ゴムの「ワラバー」



▲風船の「ヨクバルーン」



▲人工芝の「トナリーノ・ブルーシバー」



▲ペットボトルの「ペットボット」



▲コンクリートの「モルタルン」



▲ガムテープの「ガム」



▲電気コードの「コンセントロン」


3年ほど前から作りはじめたという20体を超えるこれら日用品ロボットたち、いやあ、どれも勇ましい。
灯油ポンプ、サンダル、水道につなぐホース、エトセトラ、エトセトラ。
暮らしに密着した地味ぃなツールの数々がロボットに変身。
超絶なるスキルにより、支えがなくとも見事なバランスで屹立しています。
どのロボットも活き活きとし、まるで荒物屋さんの片隅で魂を宿し、意思を持って自立しているかのようです。


彼らはいったい、どのような存在なのですか?


安居
「最初に作った三体の日用品ロボットは悪役レスラーとして誕生しました。僕はこれまで『カミロボ』という紙製のロボットを作ってきていまして、そのなかにレスラーがたくさんいるんです。それで『カミロボプロレスの世界に異素材の奴らが攻めてきたら面白いんじゃないか?』と思って紙以外の日用品でレスラーを作りだし、“異素材軍団”となりました。材料はホームセンターで見つけることが多いです。いまでは買い物に出かけるたびに、どんな商品を見ても『これはロボットになるのでは?』と考えてしまいますね」


なんと、彼ら“異素材軍団”のスタンスはヒールのレスラーでした。
ご家庭の味方であっても紙製のロボットたちにとっては敵。
そして彼らを迎え討つ「カミロボプロレス」サイドにも、壮大なドラマがあったのです。



▲「カミロボ」とは安居さんが紙で作った身長15cm~20cmのロボットで、その多くがファイターである。肩・股・肘・膝・手首・足首に関節を備え、「ヤスイ締め」と呼ばれる独自製法でさまざまな動きを自在に操ることができる


安居さんは造形師の仕事と並行し、紙製のロボット「カミロボ」をライフワークとして制作し続けています。
日本各地のみならずロンドンやメキシコでも個展を開催し、2008年にはなんとアメリカのニューヨーク近代美術館(MoMA)でカミロボのペーパーフィギュアが発売されるなど、安居さんが手がける作品は世界中にファンがいるのです。


そんな安居さんが「カミロボ」を作りはじめたのが小学生時代。
少年の頃からスタートしたカミロボ制作は以来33年間、絶え間なく続き、現在まで600体以上が誕生。
そのほぼすべてが現存しているというから驚異!


では、そもそもなぜロボットだったのですか?


安居
「幼少の頃に観た『マジンガーZ』の影響が大きいです。それからロボットアニメが好きになって、よく観ていました。特撮も好きで、仮面ライダー、ウルトラマンなどなど、夢中で観ていました。そしてヒーローたちを自分の手で創作してみたくなって、空き箱を利用してロボットを作りはじめたんです。小学三年生の時に針金を使って関節を動かす方法を独自に編みだし、五年生の頃にガンダムのプラモデルなどを参考にする事で構造が複雑になっていきました。カミロボの構造は小学生時代にできていましたね」



▲幼少期にヒーローものの特撮やロボットアニメに強い影響を受けた安居さん。アトリエには『宇宙鉄人キョーダイン』や『アクマイザー3』の超合金などレアな玩具コレクションがズラリ



▲「小学3年生の時に作った最初のカミロボです。これを作った時に、厚紙で作ったパーツに針金を通して結わえると関節を可動させられる事を思いつき、それ以来30年以上にわたって同じ仕組みで作り続けています。カミロボ発表後、この関節可動の仕組みは誰からともなく『ヤスイ締め』と呼ばれるようになりました」



▲小学校6年生の時に作った「青いロボット」



▲小学生の時に作った「魔王」はカミロボプロレス界の最大の成功者であり、現在も君臨している


33年続く可動式カミロボの製法が、小学生の頃に早くも確立してていたことがまず仰天ですが、そのカミロボが現在も保管されていて、しかも動かせるのがすごい。
だって、紙ですよ?


安居
「箱に使われているような厚紙は、質感は粗雑ですが丈夫なんです。実はいまでも素材は小学生の頃と同じく、空き箱なんです。画材として売られている上質な紙より空き箱の厚紙のほうが素材としての質感や色の染み込み方に味が出るように思います。闘わせて、ぼろくなっていって、ダメージジーンズのような味わいが出るんです」


「闘わせて、ぼろくなっていって」――。


そう、安居さんが生みだすカミロボの多くはプロレスラー。
600体強のうち、およそ3分の2がレスラーなのです。


現在カミロボのプロレス界は15団体が乱立し、それぞれの団体にチャンピオンがおり、旗揚げした団体と団体でベルトを奪いあう越境カードなど複雑なストーリー展開があります。
そして団体ごとにケースに収納され、選手たちはそこからこのアトリエにあるリングを目指します。



▲複雑な相関関係にあるカミロボプロレスの世界。小学生の時に作ったロボットプロレスラー第1号のマドロネックキングは今だに現役で活躍している。 カミロボひとつひとつに名前があり、戦いを重ねるうちにそれぞれの個性や人格が形成されていく。友情や憎しみ、信頼や裏切りが生まれ、分裂や融合を繰り返し、多くの興業団体が生まれては消滅していった


もっとも勢力ある団体が、小学生の頃に作った「魔王」が現在社長をつとめる「マックスリーグ」。
看板選手で華麗な空中技を得意とする「バードマン」を筆頭にベテランから精鋭・新鋭までが試合に備え、ケースのなかで静かにスタンバイしているのです。



▲「カミロボエンターテインメント マックスリーグ」。最大勢力マドロネック軍をリストラされたグレート赤まむしの呼びかけて2002年設立。エンターテインメント路線を前面に打ち出すことで、多くのレスラーの賛同を得て、いきなり最多数の選手層を誇るメジャー団体としてスタート。オーナー獲得権マッチに勝利し、オーナーに就任した魔王のもと、豪快な負けっぷりでのし上がってきたザ・オーレ、華麗な空中殺法でファンを魅了するバードマン、期待の若手フジヤマなど、多くのスター選手を抱える。父・魔王との確執により一時はデスマッチ団体で活動していた魔王の息子マジンジュニアも復活し、その勢いはさらに増大中。ナイトコブラジム、アレナ・カミロボとの提携で、ますますエンターテインメント性に富んだ試合を展開している



▲マックスリーグの選手たちの控室



▲ベテランから新鋭までスター選手たちがひしめく。小学生の時に作ったパープルとホワイトの配色が絶妙な「魔王」は現在マックスリーグのオーナーであり、ときにリングにもあがる



▲華麗な空中殺法でファンを魅了するバードマン。オーラが違う!


安居
「初めてカミロボプロレス団体ができたのは小学校5年生の時。以来、実際のプロレスラーで例えるなら、力道山がいて、ジャイアント馬場とアントニオ猪木がいて、長州力がいて藤波辰爾がいて……というふうに交錯した相関図があるんです。カミロボでプロレスを始めたきっかけは、初代タイガーマスクですね。覆面レスラーがとにかくかっこよかった。当時でしたらミル・マスカラスとかストロングマシーンとか。アニメ、特撮、プロレスへの憧れが現在も消えずにずっと続いていて、それにともなってカミロボのストーリーがいまに受け継がれる。そんな感じですね」


小学生の頃に生みだしたカミロボが、数々の激闘を乗り越え、団体の社長にまでのしあがる。
感動のヒストリーですね。
小学生時代にこれだけ将来性のあるペーパーレスラーたちを誕生させたのなら、安居さん自身もクラスの人気者だったのではないですか?


安居
「クラスの中ではお調子者タイプでしたが、さすがにカミロボは共感を得られないだろうという意識があったので、ほとんど他人に見せたことはなかったです。部屋でずっとひとりでやっていました。だからこういった取材でフェイクの試合をさせるときも、『選手たちにこんなことをさせてしまって……』と傷ついていました。そして『ごめんな』と謝っていました。最近はタレント活動の重要性を理解しているカミロボも多いので、適材適所にマネージメントしていますが(笑)」


そう言って、カミロボたちの声を聴く安居さん。
カミロボプロレスは、遊びでありながら、遊びじゃないシュートでセメントな世界。
カミロボたちには安居さん自身の人生というリングでの格闘の歴史が照射されている気がします。


しかし、ここでひとつ疑問が。


格闘技ですから、対戦ですよね?
誰にも見せなかったとのことですが、試合はどのように進んでいったのでしょうか?


安居
「もちろん、ひとりでやります


え? ひとりで……ですか?


安居
「はい。ひとりで。選手を両手に持って


ひとりで選手を両手に持って……。
てっきり、紙相撲のように人間の対戦相手がいるのかと思いきや、安居さんひとりで選手、レフェリー、ギャラリーの役をしていたのですか。


でも、でも、ひとりでやっていたのでは、勝敗は自分で好きなように決められるのでは?


安居
「いえ、変な話なんですが、僕が動かしながらも僕がカミロボの意思をコントロールできるわけではないので、どちらが勝つのか僕にもわからないんですよ



▲「撮影しますので、見栄えのいいシュポシュポンと魔王を戦わせてみてください」と注文すると 「こんなすごいカードやったことないです。これはカミロボプロレスの歴史のなかでもすごいことなんですよ」と躊躇されていた。それほどデリケートな世界なのだ



▲動画で観ると、両手で戦うすごさが改めてよくわかる


自分ひとりの腕で対戦させていても、安居さん自身さえどちらが勝つかはわからないカミロボどうしの「紙のみぞ知る」ファイト。
その熱闘は噂が噂を呼び、一般観客を動員し、プロレスの聖地と呼ばれる「後楽園ホール」で実際に試合が行われたこともあるのだそう。



▲カミロボプロレスはかつてプロレスの聖地と呼ばれる「後楽園ホール」にて、巨大スクリーンで投影しながら試合が実施された


そして近頃は実試合や試合動画だけではなく、リングサイドから静止画を撮影する写真物語の制作もスタート。
異素材軍団は、この写真作品のなかから誕生したのです。
さらに、そこには涙なしではみることができない壮絶なデスマッチも。



▲マックスリーグのオーナー魔王が居酒屋ブルーキラーでつくろぐ。小学6年生の時に作ったカミロボ「ブルーキラー」。80年代カミロボマット界では凶悪レスラーとして一時代を築いたが、全盛期を過ぎるとゆるやかにセミリタイア状態に。現在は居酒屋ブルーキラーを経営している



▲そんなおり、カミロボプロレス界に、謎のアジトから、アルミホイルの「シルバーギンガー」と「モルタルン」「高楊枝」が宣戦布告



▲「紙の世界をぶっ壊してやる」。それがやつらの目的



▲カミロボの選手たちに緊張が走る



▲「高楊枝」の背中から無数のつまようじが増殖し、巨大な翼となった。名付けて禁断の「爪楊枝ドーピング」。対するは昭和カミロボの一時代を築いたブルーキラー



▲「爪楊枝ドーピング」の数値は激しく上昇



▲ついには最大増殖。全身からおびただしい量のつまようじが現れ、全身トゲだらけのおそるべき姿に変貌を遂げた



▲しかしリミッターがはずれ、つまようじの出しすぎで自滅崩壊してしまった。勝者なき試合に観客席からは罵声が飛ぶ



▲第2試合はモルタルンvs.マドロネックキング



▲モルタルンの重量の前に苦戦をするも、下半身をひたすら攻撃することで形勢が逆転する



▲ジャーマンスープレックス!



▲マドロネックキングは相手の力を利用することで超重量のモルタルンを投げ飛ばすことに成功した



▲完璧な勝利。しかしマドロネックキングもまた全身に痛々しい傷を残し、立っているのがやっとの状態に



▲最後の闘いは昭和の王道レスラーである魔王vs.シルバーギンガー



▲老兵は最新鋭の金属格闘家に太刀打ちできるのか? 運命のゴングが鳴った



▲ダウンする魔王。異素材軍団が魔王に勝てば業界内でのポジションも跳ね上がる。シルバーギンガーはなんとしてでも勝たねばならない一戦なのだ



▲シルバーギンガーは魔王の腕をとり、腕ひしぎ十字固めを決めた。あまりの激痛に悶絶する魔王



▲ブレーンバスター! 激痛に沈みながらも魔王はシルバーギンガーに密着できるタイミングをはかっていたのだ



▲さらに渾身のラリアット! シルバーギンガーは完全にダウン



▲カミロボプロレスの世界は異素材の侵略を許さなかった。しかしこれはまだ闘いの序章にすぎなかったのだ


安居
「異素材軍団をつくりはじめて、立体造形やデザインすることの面白さを改めて新鮮に感じ、自分自身原点に立ち返った気がします。33年続いているカミロボに、また新たな歴史が始まったと思います」


旧来からの勢力争いに加え、異素材軍団の乱入で、ますます群雄割拠の色を濃くするカミロボプロレスリング。
京都の小さなアトリエから、世界へ向けてゴングが鳴り響く。
異素材軍団から次はいったいどんな刺客が送り込まれてくるのか。
おしゃもじ? 歯ブラシ? ますます目が離せません。


カミロボWEBサイト
http://www.kami-robo.com/


安居智博さんTwitterアカウント
https://twitter.com/kami_robo_yasui



(吉村智樹)



kami-robo Ⓒ 2003-2017 Tomohiro Yasui / butterfly・stroke inc. All Rights Reserved.