「怖い絵展」なぜ人気?我々の心の中にある「××」が…

2017/10/10 12:08 Tak(タケ) Tak(タケ)

兵庫県立美術館で27万人以上の来場者でおおいに賑わいをみせた「怖い絵展」が、いよいよ東京(上野の森美術館)にやって来ました。




一般的に美術館で開催される絵画展は、作家別であったり、印象派など美術史的な観点から構成されているのがほとんどです。

また「〇〇美術館展」のように海外の有名な美術館・博物館から選りすぐりの作品を集めて展示するタイプの展覧会も毎年何本も開催されています。

「怖い絵展」は、そうした通常の展覧会とは違うアプローチから生まれた全く新しい形の展覧会です。

「怖い絵展」に出ている作家名をざっと列挙しますが、知っている画家いますか?ハーバート・ジェイムズ・ドレイパー、ジャン・ラウー、フランソワ=グザヴィエ·ファーブル、ヘンリー・フューズリ、チャールズ・シムズ、ジョセフ・ライト、ウォルター・リチャード・シッカート…。


ヘンリー・フューズリ 《夢魔》 1800-10年頃 油彩・カンヴァス ヴァッサー大学、フランシス・リーマン・ロブ・アート・センター蔵 © Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar College, Poughkeepsie, New York, Purchase, 1966.1

かなり美術に詳しい人でも、「怖い絵展」に出ている全ての画家について認知している人はまずいないのではないでしょうか。勿論、「怖い絵展」にはセザンヌやムンクといった画家の作品もありますが、その大半は初めて目にする画家ばかりです。

レオナルド・ダ・ヴィンチ、フェルメール、モネなどの誰しもが知る画家の作品が出ているのではなく、初めて目にするような未知の画家ばかりなのに、どうして「怖い絵展」は、これほどまでに爆発的な人気を博しているのでしょう。

それは、我々全ての心の中に潜む「闇」を主題としているからです。


ゲルマン・フォン・ボーン 《クレオパトラの死》 1841年 油彩・カンヴァス ナント美術館蔵 © RMN-Grand Palais / Gérard Blot / distributed by AMF

ここでいう「闇」とは「恐怖」のことです。危害を加えられそうになり、身がすくむ思いを経験したことありますか。また自分の未来が不満足な成り行きになりそうで、不安な気持ちをおぼえたことありますか。

怖いという感情は、日常生活の様々な部分に潜み、心に巣くうことを虎視眈々とうかがっているものです。心にちょっとした隙があると、恐ろしく不安な気持ちになってしまうものです。

そうした誰しもが心に宿す「恐怖」は、古くから多くの画家によって絵画化されてきました。血しぶきが飛び散るスプラッター系の直接的な恐怖や、心の底にジワジワと浸透していくような恐怖など様々な画家が「恐怖」をテーマに多くの作品を描いてきました。


チャールズ・シムズ《そして妖精たちは服を持って逃げた》1918-19年頃、油彩、カンヴァス、リーズ美術館蔵

そうした「怖い絵」を世界中の美術館から集めたのが、今回の「怖い絵展」なのです。全ての人が心に宿す普遍的な心情である「恐怖」を扱うのですから、注目が集まらないはずがありません。

「神話と聖書」「悪魔、地獄、怪物」「異界と幻視」「現実」「崇高の風景」「歴史」と6つの章立てからなる「怖い絵展」。見るからに恐ろしい絵もあれば、この絵のどこが怖いのか首を傾げてしまう作品もあります。

これらの作品はただ漫然と集められたわけではありません。作家でありドイツ文学者である中野京子先生が「怖い絵展」の特別監修を務めていらっしゃるのです。美術書では驚異のベストセラーとなった『怖い絵』シリーズを世に放たれた中野先生が監修となれば、まさに鬼に金棒です。

知識は絵画鑑賞の妨げになるので、感じるままに観ればいいとされる風潮に異を唱え、知識と共に絵を観ることで新たな魅力を知る喜びを多くの人に伝授して下さったのが『怖い絵』シリーズです。


ニコラ=フランソワ=オクターヴ・タサエール《不幸な家族(自殺)》1852年、油彩・カンヴァス、ファーブル美術館蔵

展覧会会場にも、どうしてこの絵が怖いのかを中野先生が一点一点解き明かしてくれています。「怖い絵展」は観るだけでなく「読む展覧会」でもあるのです。分からなかったことが的確な解説により「なるほど!」と合点がいった時の爽快感が会場内のそこかしこで味わえます。

そしてその「なるほど!」が誰しもが持つ「恐怖」であるのですから、もうたまりません。怖いと分かっていながらも参加してしまう肝試し大会のようです。

ただ辛いだけの食事は一度食べればもう二度と口にしたくないものですが、「怖い絵」はぱっと観て直接的に怖いのではなく、内容を知ることでその真の意味、つまり「怖さ」が伝わってくるので、ついつい病みつきになってしまうのです。これが血みどろの油彩画だけばかりだったらそれはただの「お化け屋敷」に過ぎません。


ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》 1833年 油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵



主要な作品では、このような丁寧な解説がなされており、まさに「読ませる絵画」「読ませる展覧会」となっています。吉田羊さんがナビゲーターを務める音声ガイドの原稿も中野京子先生の書下ろしです。

軽妙な語り口で絵の世界へぐいぐい誘ってくれるお馴染みの「中野節」は、展覧会の外、ミュージアムショップでも健在でした。


注:「ベッキー」ではありません。



一枚ずつに、監修者である中野京子先生による解説がついた「読める怖い絵ポストカード」。見て美しく、読んで怖い。こちらもこれまでになかったグッズです。

何から何まで新しくこれまでに経験したことのない展覧会です。普段、展覧会へ行く気にさえならない方でも「怖い絵展」ならきっと満足するはずです。だって誰の心の中にもある普遍的な「恐怖」をテーマにしているのですから。




「怖い絵」展
会期2017年10月7日(土)~12月17日(日)※会期中無休
開館時間:午前10時~午後5時(※入場は閉館の30分前まで)
10月14日より土曜日9:00~20:00、日曜日9:00~18:00に開館時間延長
会場:上野の森美術館
主催:産経新聞社、フジテレビジョン、上野の森美術館
後援:サンケイリビング新聞社
特別協賛:弁護士法人 東京ミネルヴァ法律事務所
協賛:NISSHA株式会社
協力:日本航空、KADOKAWA、NHK出版
企画協力:アルティス、Art Sanjo、FCI
特別監修:中野京子(作家、ドイツ文学者)
公式サイト:http://www.kowaie.com/



《関連コラム》
『怖い絵』の中から本当に怖い絵を5枚選んでみた。



怖い絵のひみつ。 「怖い絵」スペシャルブック