次期【NHK朝ドラ】のモデル「暮しの手帖」昭和40年版をダイジェスト紹介

2016/1/8 21:38 服部淳 服部淳


どうも服部です。1月といえば正月や成人式がある1年最初のおめでたい月ですが、昭和ネタを日々探している立場としては、新たなパブリックドメイン(著作権が切れた著作物)が誕生するおめでたい月でもあります。今回は晴れて2016年にパブリックドメインとなった書籍を紹介したいと思います。

日本の著作権について簡単におさらいすると、出版物の場合は著作権保護期間は50年。作家など、著作者が個人の場合は、その作家が亡くなってから50年が保護期間となり、その翌年の1月1日よりパブリックドメインとなります。2016年では、1965年(昭和40年)に亡くなった、谷崎潤一郎や江戸川乱歩の作品が新たにパブリックドメインになりました。

一方、新聞・雑誌など著作権が会社など団体に属する場合は、発行後50年が保護期間となります。1965年(昭和40年)に発行された新聞・雑誌などは、2016年1月1日よりパブリックドメインとなったわけです。


ということで、今回用意したのは昭和40年発行の「暮しの手帖」が1冊にまとめられたこちら。「暮しの手帖」といえば、2016年4月スタートのNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の題材となる雑誌のモデルとして、まさに今年“旬”となるであろう雑誌です。

「暮しの手帖」は花森安治氏と大橋鎭子氏(「とと姉ちゃん」での名前は小橋常子。当作品の主人公)が、1948年(昭和23年)に「美しい暮しの手帖」として創刊。1953年(昭和28年)の第22号から現在の名前になったようです。

この昭和40年版には、78号から82号までが収められています(昭和40年当時は年5回発行)。


まずは78号の表紙から。表紙は創刊号からずっと花森安治氏が担当していたそうです。


表紙裏には、この雑誌のコンセプトが書いてあり、左下には小さいですが、「奥付(発行社名などをまとめた欄)」があります。


奥付を拡大したものがこちら。定価190円なり(現在の定価は926円《税込》)。


78号の特集1発目はこちら。なんと「もっと脂肪を、もっともっと脂肪を」です。2月5日発行号ということで、現在なら「正月太り解消」とか反対の内容の特集ばかりやりそうな時期です。


続く見開きページには、「物価はどんどん上がるのに収入は増えないから、ついつい食費を切り詰めたくなるけど、なにをがまんしても、食費だけは切り詰めないよう死守しましょう」といった内容が書かれています。

特集タイトルとリード文だけを読めば、昭和40年はどんなに貧しい時代だったんだろうと思いがちですが、さすがに「高度経済成長期」真っ只中の時代だけに、それはないはずですが……。

続きを読んでいくと、食費を切り詰めると「ご飯」ばかりを多く食べてしまいがちだが、そういった食生活はカラダに良くない。日本人は糖質を多く取りすぎで、脂肪の摂取が少ないと書いてあります。だから、脂肪をもっと取ろうということなんだそう。贅肉という意味での「脂肪」ではなく、栄養素の「脂肪」だったんですね。

思いっきりタイトルに釣られてしまいました。


しかも、油ならなんでも良いわけではなく、動物性の油は中年すぎの人には血管を詰まらせやすいので、植物性を取りましょうといったことが書いてあります。50年前なのに、現代でもよく見るような内容で驚きです。


続いての特集は「昨日のない町」というタイトル。内容から第二次大戦中の空襲で過去の街並みを失った町を特集しているものだと思われます。「その5」として愛知県の豊橋が取り上げられています。

写真は「丸物百貨店(後に豊橋西武)の屋上から」の景色だそうです。左端のバスが並んでいる辺りが豊橋駅。


引き続き、豊橋の紹介。市電が走るのは駅前大通、その下の写真は町一番の繁華街である広小路、左ページは町を走る(?)牛に引かせた荷車と、左端は花園町の商店街と書いてあります。


いくつかの特集を飛ばして、「まんまと高いものを買わされています」という、なんとも気になるタイトルが。ここでは、最近(昭和40年当時)流行してきている小分けになった製品について、それって実は高く買わされている場合が多いのだと注意しています。小分けの砂糖なんか、まさにそうですよね。使う量は人それぞれですし。


ソースや塩も小出し用容器のもの買うと、大きめの容器に入ったものに比べ2倍近い値段を払っていることになるのだと比較しています。50年前の商品ですが、あまり懐かしさを感じませんね(容器が今もそれほど変わらない)。


これまた気になる特集がありました。タイトルは「ガス釜をテストする」。ガス炊飯器は1957年(昭和32年)に開発されたばかりで、まだまだ完成された製品ではなかった時代です。同じような炊飯器が6つ並んでいますが、すべて別会社のものです。

※右上の写真は「レントゲン写真でみたガス釜」というキャプションが付いていますが、撮影者の名前があるため(著作権が個人にある可能性があるため)、モザイク処理をしてあります。


あまりに似ているので、上下に並べて拡大してみました。こうして見ると、スイッチ部分にはそれぞれ個性があるようです。値段は大阪ガスの4600円からサンヨーの6500円と、ある程度まとまっています。


なんといっても、このテストの内容が凄いことにビックリ。各ガス釜とも、1日1回使ったとしての1年分の炊飯テストをしたという(つまりは365回)。

炊きあがりのご飯の食べ比べにしても、「東京で一、二をあらそうすし屋の主人」や「料亭でご飯を専門に炊いているひと」から「二十才そこそこの若いひと」まで、専門家から素人まで幅広い調査をしているよう。

調査の結果、味についてはガス釜が一番美味しく、僅差で「ご飯なべでガスで炊いたご飯」であり、大きく差が開いて電気釜で炊いたご飯という結果でした。当時の電気釜は温め方も単一で、まだまだ現代の炊飯ジャーのように美味しいご飯は炊けなかったのでした。

6種のガス釜比較では、それほど差はなかったようで、値段が安いことを考慮すれば、ガスター(東京ガス)と大阪ガスのものが良いと結論づけていました。


またまた気を引く「ヘルスメーターの検定印はあてにならない」という見出しがありました。なんと、国の検定印が付いている新品のヘルスメーター(体重計)10台を調査してみたところ、うち6台は狂っていたそうです。


調査したのは国産4銘柄とアメリカ製の1銘柄だったそうですが、すべての銘柄において狂っているものがあり、どこかのメーカーだけが悪いというものではなかったようです。日本製も、まだまだ信用できないものが多かったということと、国の検査のいい加減さが浮き彫りに。

こういう厳しいウォッチャーがいてこそ、日本製品のクオリティーも上がっていったんでしょう。


78号から最後のピックアップは、「明治三九年生まれの女性にご協力頂きたいのです」という情報募集のお願い欄です。1つ目の特集で語られていた「良い油と悪い油」など、現代と言っていることがそれほど変わらないなと感じるものがある一方、これは「やっぱり50年前なんだなあ」としみじみ思うものでした。明治39年は西暦1906年で、現在より110年前となります。

募集する内容もまた興味深いもので、丙午(ひのえうま)の年であった明治39年に生まれた女性に、丙午の年に生まれたけど、他の年に生まれた女性となんの変わりもなかったことを知らせていただきたいというものです。

なんのことかご存じない方も多いでしょうが、丙午とは十干と十二支を組み合わせた「干支」の1つで、60年周期で巡ってきます。「丙午生まれの女性は気性が激しく夫の命を縮める」という江戸時代から続く迷信があり、実際に丙午の年生まれだった女性に、その迷信を否定するエピソードを募集していたのです。

なぜなら、この雑誌の発行の翌年、1966年(昭和41年)が明治39年に次ぐ丙午で、子供を産むことを躊躇している親も多くいたからだそうです。しかしながら迷信は根強く、慶應義塾大学の赤林英夫先生の調査によると、1966年は前年より出生数が25%も減少したのだそうです。次の丙午となる2026年には、このような迷信が信じられていないことを願いたいものです。



ざっと78号の内容を紹介してみましたが、いかがでしたか? もとから「暮しの手帖」のファンだという方はもちろん、初めて「暮しの手帖」の内容に触れられた方も、なんとなく4月スタートの朝ドラが楽しみになったのではないでしょうか。「暮しの手帖」79号以降は、次回以降引き続き紹介していければと思います。

(服部淳@編集ライター、脚本家)



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