藤田朋子の『本来ならば満月』第六回『こんな天気、こんな時間に。』

2014/10/6 16:00 藤田朋子 藤田朋子





ふと「生きている」と感じる瞬間。

どうなんだろうか。
寝ている時に見ている夢と、現実。
この狭間などを考えたり時々する。

今日は、台風が接近。

車を運転しながら、信号が赤でふと道沿いの店の中を眺める。

人間観察は役者の癖。

昼間でも薄暗い街で、店にも灯りが。
ファストフードの店先で、店員さんとお客さんが会話してる。
店員さんは、接客している女性と、他の雑事をしている男性。
お客さんは、傘を持ち、レインコートを着た年配の女性2人。
注文に集中している様子もなく、ぶらぶらとこちらに体を揺すったりしている。
何を話しているのかな、と想像するそばから、携帯電話を手に店先から路上に出て来たスーツ姿の男性。
店の前の階段を降りて電話をかけ始めて、また戻る素振りで階段を一、二歩上がり、またこちらを振り向く。
まだ店内の婦人は場所も変えず、店員さんも、同じ様子。

雨が降っている。

車内には間欠のワイパーの音。

見上げると高速の脇に見える空はネズミ色。

生きている。

そう感じた。


ぎらぎらと輝く太陽の下でもなく。
穏やかな春の日差しの中でもなく。
今。

この夢とも現実とも境目のない雨の日に、私は生きていると感じた。


この言いようのない感覚。

信号が変わり、アクセルを踏み込む。

現実なのだ。
私は生きている。


幸せ。


(藤田朋子)