藤田朋子の『本来ならば満月』第六回『こんな天気、こんな時間に。』
ふと「生きている」と感じる瞬間。
どうなんだろうか。
寝ている時に見ている夢と、現実。
この狭間などを考えたり時々する。
今日は、台風が接近。
車を運転しながら、信号が赤でふと道沿いの店の中を眺める。
人間観察は役者の癖。
昼間でも薄暗い街で、店にも灯りが。
ファストフードの店先で、店員さんとお客さんが会話してる。
店員さんは、接客している女性と、他の雑事をしている男性。
お客さんは、傘を持ち、レインコートを着た年配の女性2人。
注文に集中している様子もなく、ぶらぶらとこちらに体を揺すったりしている。
何を話しているのかな、と想像するそばから、携帯電話を手に店先から路上に出て来たスーツ姿の男性。
店の前の階段を降りて電話をかけ始めて、また戻る素振りで階段を一、二歩上がり、またこちらを振り向く。
まだ店内の婦人は場所も変えず、店員さんも、同じ様子。
雨が降っている。
車内には間欠のワイパーの音。
見上げると高速の脇に見える空はネズミ色。
生きている。
そう感じた。
ぎらぎらと輝く太陽の下でもなく。
穏やかな春の日差しの中でもなく。
今。
この夢とも現実とも境目のない雨の日に、私は生きていると感じた。
この言いようのない感覚。
信号が変わり、アクセルを踏み込む。
現実なのだ。
私は生きている。
幸せ。
(藤田朋子)