藤田朋子の『本来ならば満月』第五回『舞台のお仕事』

2014/9/22 10:00 藤田朋子 藤田朋子






お芝居のお稽古をしております。
もともと私は、舞台出身であります。

ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』に長く出演し、ドラマのデビューもNHK朝の連続テレビ小説『ノンちゃんの夢』であった事などから、ドラマがデビューだと思われている方も多いのですが、私は、オーディションで東宝ミュージカル『レ・ミゼラブル』の初演がデビューでありました。

デビュー前は、素人劇団に出たり、学生演劇に励み、映像とはほど遠い演劇活動してました。
というわけで、古い友人、親しい仲間は「舞台に出てる時は生き生きしてるね」なんて勝手な事を言ってます。

でも私も、そう感じます。
映画も、ドラマも、バラエティも旅番組も、仕事はみんな好き。

でも舞台は、本当に好きなんだなと、作品に関わっている時に感じます。

今回のお芝居は、再演を重ねている作品。
もともと文学座の杉村春子さんが主演で、杉村さんに充て書きをした作品と聞きました。
充て書きというのは、役者さんが先にありきで、その方が演じる事を前提に、仕上げられている脚本の事です。
脚本や原作があって、その役柄に相応しい役者さんを探すのではなく、役者さんの持ち味を生かす形で書かれた作品。

それを他の方が再演するのは、面白いですが、難しい場合もあります。

この『華々しき一族』は、そんな理由から、良い作品なのにも関わらず、再演がなかなか叶わなかった作品と聞きました。
それを、今度は、石井ふく子先生が、大藪郁子先生に脚本を依頼して、新しい作品になって蘇り、若尾文子さんで再演を続けています。

これは何度目なのかな?

ともかく、私もお客として観劇した事もある作品。
でもまさか出演するとは思いませんでした。

何故って、出演者は6人。
女性は3人。若尾さん、と若い女性二人。
ないな。ん。これは出る役はない。と思っていました。
思うよ。思うでしょ。
若尾さんの役はまず、私には回ってこない。
若手の役は、もう出来る年齢ではない。


そしたら、回ってきました。
それも、中でも一番若い役。びっくり~!

でも楽しい!
どうかなぁと稽古を始めたのですが、楽しい!

石井ふく子先生の演出の舞台はこれで何作品目でしょうか。

『渡る世間は鬼ばかり』ではプロデューサーという仕事の石井先生ですが、舞台では、演出家。

一番最初の舞台は『渡る世間は鬼ばかり』の舞台版。
その後、金子みすゞの母を描いた『空のかあさま』で、金子みすゞの役をふって下さってから、様々な役柄をふって下さってます。


『空のかあさま』では、自由に育ててくれる母のもと、詩人として活躍するも、思う結婚が出来ず、一人子を残して自ら命を断つ女性を。
『喜和~櫂より』では、不倫の末授かる子供を、本妻が引き取り、断腸の思いで娘と別れる決断をする人気絶頂の娘義太夫を。
『宮本武蔵』では、武蔵を慕う横笛の名手、おつうを。
『花は紅 夢千代一座』では、家族思いの旅役者を。
『花嫁』では、結婚適齢期を過ぎようとしているのに母の再婚話が持ち上がり、兄夫婦、妹とともに悩む娘を。
『おんなの家』では、父の残した炉端焼き屋を切り盛りするしっかり者の末っ子を。
『女たちの忠臣蔵』では、何も知らずに赤穂浪士の1人に恋をし、諦めきれずに武士を追い、切腹前に鼓を打ち合い愛を確かめる娘を。
『三婆』では、ハワイの日系三世の父を探しにワークホリデーでやって来た大学生を。
『初蕾』では、身寄りのない酌婦が、客と恋に落ちるも子供を身ごもるが、男の失踪により、運命が変わり、武士の女性へと成長する少女の役を。

そして今回は、子連れ同士の結婚によって家族になった姉妹と、恋敵となる女の子。

こうやって綴っても、色んなイメージの役を演じさせて貰ってるなと思います。
幸せだなああ。

役者って、イメージがあって、同じような役が続いたりするものですが、毎回、本当に違った年齢、環境のお話。
まあ、元気、というのは共通してるかなあ。でもそうでもないのもあったなあ。

脚本を貰うたびに「私、どうなるのかな」と自分が、どんな風に変化するのかが楽しみ。

自分で「こうしよう、ああしよう」と沢山考えるよりも、作品の事を調べたら、す、っと現場で声を出してみる。動いてみる。
そうすると、自分がその役になっていっているのが分るのです。
言葉にするのは、難しいですね。

憑依とか、役に入り込む、とか、そういう言葉じゃない気がしますが、きっと、一番近い言葉がそれらなのかもしれないですね。

台詞が、すとんと良い位置に落ちる。その瞬間に、それはもう、自分の言葉であって台詞ではない。
体が自然に動く、脚本の流れに沿っているけれど、脚本が先か、自分の感情が先かが分らなくなる時が、演じている、という瞬間です。

それは、台詞を「暗記」する、とか、台詞を言いながら所作をする、とか、そういうのは出来て当たり前で、その上の何かなんですが、演じている事が「苦」ではないので、きっと、私は、この職業に向いていない方ではない、と感じています。

楽しくて申し訳ない。

というワケで、稽古大好きの私。
毎日、かなりハッピーです。

本番は、東京は日本橋の三越劇場。
その後、北は北海道、南は種子島まで、全国をまわります。

お時間、ありましたら、ぜひ!元気いっぱいの「杏子」を観に入らして下さい。

(藤田朋子)


舞台『華々しき一族』


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