産後、便漏れと尿閉に悩まされた話 新生児を抱えて3時間毎の自己導尿の恐怖(2/2)

2023/7/19 16:00 しんまる子 しんまる子





筆者は、38歳で第1子を出産しました。

硬膜外無痛分娩だったため尿道カテーテルを装着しており、出産翌日に外したものの、自尿はほんの少ししか出ませんでした。

カテーテルを外して1日半ほどたった頃に異常な残尿感を覚え、看護師さんに導尿してもらったところ大量の尿が膀胱に残っており、尿閉状態だということが発覚しました。

稀に分娩時の胎児の下降により膀胱などが圧迫されて、知覚神経麻痺で一過性の尿閉や尿意減弱が起こることがあるようです。筆者の場合、産後すぐに排尿障害に気が付かず残尿を貯めてしまった結果膀胱が膨らんでしまい、神経がよりいっそう麻痺した可能性もあるようです。

股間全体の感覚がにぶくなっており、尿道カテーテルを装着したまま退院するよりも自己導尿をした方が早く回復する可能性が高いという判断で、自己導尿の練習をすることになりました。



■自己導尿と新生児育児を同時に行うのは過酷

自己導尿とは、尿が膀胱にたまったら自らの手でカテーテルと呼ばれる管を尿道に入れて尿を出す方法です。

女性は、鏡を見て自分の尿道を確認しながらカテーテルを入れることになるのですが、不器用な筆者はその時点で大量出血の予感しかしませんでした。

そもそも、自分の尿道の位置など38年間、考えたこともありませんでした。

覚悟を決めて、看護師さんのレクチャー通りに実行しましたが、はじめの頃は大量ではないものの何度も出血をし、膀胱炎になることも。ベッドに鏡を置いて尿道を見ながらカップに排尿する方法は難しく、度々カップを倒してしまう……。器具は随時消毒をしなくてはいけないので、排尿ひとつでも手間がかかります。

過去記事 でも触れていますが筆者はADHDなので病的に不器用です。それでも、1ヵ月半後には「尿道を見ることなく感覚で立ったままカテーテルを入れ排尿する」ことができるようになり「大分楽になった」と思いました。尿閉になったばかりの時は自己導尿ができるか不安な方もいるかと思われますが、「なにごとも慣れ」ということを実感しました。



昼夜問わずの3時間毎の授乳と同時に、3~4時間毎の導尿作業をするのは、ものすごく過酷です。

しかし、尿を貯めすぎると腎盂炎になる危険もあり命に関わるので、やらないわけにはいきません。

そんな壮絶な状況の中で、1週間ほど入院を延長していましたが、筆者はいつの間にか、食べること、寝ることができなくなっていました。

■命に関わる鬱は行動を制御できない

産前も重症悪阻で2ヵ月口から固形物を食べられず吐き続ける点滴生活だったので、その時も抑鬱状態は経験したことがありますが、産後はさらに「本当に死ぬかもしれない」深刻な鬱に陥りました。

目の前には生まれたばかりの赤ちゃんがいるにもかかわらず、何の興味も湧かないばかりか、自分の体の制御ができずに夜中に病室中をウロウロ歩きまわったり、頭を掻きむしったりしていました。

頭の中に、

「やばい、飛び降りたらどうするんだ。止めないと、やばいやばいやばい」

と思っている冷静な自分もいるのですが、ナースコールを押して看護師さんが来てくれても「自分が暴れ出さないように」制御することで精一杯で、曖昧に笑って、

「赤ちゃんを、ナースセンターでみてください」

と言うことしかできませんでした。

長期悪阻でミイラ化したときにも「死にそう」と思っていたのですが、本当に死にそうな精神状態の時はその比ではなく、

「死ぬのはすごく怖いのでなんとかして踏みとどまらせたいのだけど泥酔しているときのように体が勝手におかしな動きをする」

ことを実感しました。

重症悪阻より尿閉が辛いというわけではなく、どちらかというと2ヵ月ずっと酷い二日酔いか車酔いのような重症悪阻の方が辛いのですが、そんな経験を経ての尿閉で「生きる気力がギリギリまで削られた」状態に。

悪阻の時に、

「吐きたくないのだけど、苦しくて衝動的に吐いてしまう」

という不可抗力の衝動と同様に、窓があったら死にたくないのに衝動的に飛び降りていてもおかしくない……。

「だから、病院の窓は少ししか開かないんだ」と妙に納得したことを覚えています。

その経験以来、誰かの自死のニュースを見てネットのコメント欄で「家族のことを考えたら自分勝手」というような意見を見るたびに、「自分で自分の脳や行動を制御できないこともあるだろうに」と複雑な気分になります。

ケースバイケースではありますが、「悪阻で道端で吐くなんて自分勝手」と言われても、嘔吐衝動が制御できないことと同じように思えました。

■退院後に重度貧血で救急搬送される

退院して家族のサポートを受け、自己導尿しながら子育てをしてみたものの、足は象のように浮腫んでいるのに目は飛び出してガリガリに痩せ、見るからに危険な状況に陥っていました。

家族も危機感を覚え通院を考えたものの、時期はお盆。 猛暑の中で新生児の健康を最優先に考えると、身動きがとれませんでした。

筆者本人も、回らない頭で命の危険を感じており、「いのちの電話」などに電話をしてみるものの、当時は混んでいたのか繋がることはありませんでした。

「なんとしてでも医療従事者に相談を……」

と思った家族が、地元の助産院にコンタクトをとってくれて、助産師さんが沐浴指導に訪問してくれます。

その助産師さんが素晴らしい方で、ひと目見て、

「あなた、本当はそんな顔じゃないでしょう」

と危険を察知。すぐに筆者が出産した産院に電話してくれたものの遠方でサポートを受けることができず、ツテを辿って「今の状況にあった総合病院に搬送する」手はずを整えてくれました。

「放っておけない、緊急性のある産褥期の女性がいるんです」

と、その場でテキパキと複数の医療機関に電話をかけてくれた御恩は一生忘れられません。退院してから頭の中に耐えず浮かんでいた「享年38歳」という言葉が消えて、「あ、死なないかも」と思いました。

その後、筆者は大学病院に運ばれ、輸血と治療を受けることになります。その時、ヘモグロビンは4という状態でした。

赤ちゃんは、助産師さんが一時的に乳児院に預けるという方法も教えてくれましたが、たまたま実家の姉が転職活動中で時間があったので、母親と姉と夫がローテーションで世話をしてくれることになりました。

大学病院では、病室で精神科のサポートを受けることもできて、1週間で退院。その後は助産師さんの尽力で、さらにに1週間ほど産後院にも滞在できることになりました。

産後院を退院する頃には出産からほぼ4週間経ており、少しづつ自尿も出て、完治はしていないものの状態は落ち着いていました。

■尿閉が落ち着く頃に便漏れに気がつく

その頃、新たな問題に気が付きます。

産後は便秘と痔が酷く気が付きませんでしたが、どうやら肛門も神経も麻痺している様子。

便秘が治ると今度は便漏れが続き、大人のおむつを使用することになりました。



ショックを受けたものの、この頃には頼れる助産師さんと繋がっていることもあり、鬱が酷くなることはありませんでした。

実家の千葉から東京に帰宅するまでには尿閉は完治し、助産師さんのはからいで区の子ども家庭支援センターの支援員の訪問も受け心療内科・肛門科に通院をしました。

結果的に尿閉は2ヵ月、肛門括約筋の麻痺は3ヵ月半で寛解します。

産後鬱は長引き、1年ほど月1回の頻度で通院していました。

■迅速に医療従事者もしくは行政と繋がることが大切

産後のトラブルが多発した時期に、一番頭を悩ませたのは、相談する場所のなさ。 筆者はかねてよりネットで情報収集する習慣がありましたが、それでも、病院が閉まっているお盆の時期に新生児を抱えて、

「誰に何を相談すればいいのか」

分かりませんでした。

※命の危険を感じた際には、迷わず「119」「♯7119」など救急窓口に連絡をすることをお勧めします。

ご参考までに、「産後尿閉、便漏れ、うつ」で悩んだ際にお勧めの相談先をご紹介します。病院は東京都になりますが、オンラインカウンセリングサービスは全国から利用できます。

●相談先や病院など

亀田京橋クリニック 産後骨盤トラブル外来
診察、検査、リハビリまで丁寧にアプローチすることができ、骨盤底筋体操などのエクササイズは習慣化するための講習も行っています。

『コーラルボディワークス』
上記の亀田京橋クリニックの医師主催の、出産を機に変化する女性の身体への対処法について多方向からのアプローチするサービス。オンラインレッスン骨盤底筋練習会も行っています。

オンラインカウンセリング『BANSO-CO』
東京医科歯科大学発ベンチャーのオンラインカウンセリングサービス。周産期メンタルヘルスを専門とするカウンセラーも在籍しているため、地域の医療機関に繋がるためにまずここに相談して紹介してもらう方法もありそうです。

オンラインカウンセリング『NAGON』
スマートフォンアプリを用いた心理カウンセリングサービス『NAGON』は、精神科医が開発したカウンセリングアプリ。出産やホルモンに起因する悩みも、公認心理師に相談することができます。



■地域のこども家庭支援課に相談

「体調を崩している新生児の母親がいる」と認知してもらうためにも、地域のこども家庭支援課に相談することも大切です。筆者の場合、東京に戻った後に区の支援員さんに病院まで付き添ってもらったこともあります。

まずは、医療機関、専門家もしくは行政と繋がって相談すること。もし同じ悩みを持つ人とつながりたい気持ちがあれば「産後尿閉 ブログ」「産後 肛門括約筋 ブログ」といったワードでGoogleや・Yahoo!検索する方法も。

ブログ投稿者の中のお一人とは、メールで繋がることができ、とても親切に相談に乗っていただきました。見ず知らずの人間に真摯にアドバイスをくださる姿勢に頭が下がりました。また、たまたまかもしれませんが「重症悪阻で衰弱した後に無痛分娩をした」という共通点も知る事ができました(因果関係については不明です)。ただし、ネットの情報は玉石混交なので、リアルでも専門家と繋がった上に検索することをお勧めします。



■その他オンラインカウンセリングサービス



『生きづらびっと(SNS相談)』

『あなたのいばしょ(チャット相談)』

『こころのほっとチャット(SNS相談)』



(しんまる子)



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