唖然呆然の連続!留まることを知らない現代作家の「超絶技巧」を刮目せよ!!

2023/7/9 12:10 Tak(タケ) Tak(タケ)

アート界にいまやすっかり定着した「超絶技巧」という四文字熟語。

「超絶技巧」を美術展のキーワードとしたのは、2010-11年に佐野美術館他で開催された「幕末・明治の超絶技巧 世界を驚嘆させた金属工芸―清水三年坂美術館コレクションを中心に」に冠されたのが始まりです。


並河靖之「草花図花瓶」 清水三年坂美術館蔵

その後、「超絶技巧」の名を全国区に押し上げ広く周知させたのが、2014年より三井記念美術館他全国巡回した「超絶技巧!明治工芸の粋」展です。

20万人以上の観客を動員したこの展覧会が果たした役割は大きく、続く2017年には第二弾として「驚異の超絶技巧!明治工芸から現代アートへ」展が開催されました。



コロナ禍を経て超絶技巧展の第三弾として、現代作家にフォーカスした「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」が、 岐阜県現代陶芸美術館、長野県立美術館、あべのハルカス美術館、三井記念美術館、富山県水墨美術館で今年から来年にかけ開催されています。

金属、木、陶磁、漆、ガラスなど様々な素材により、新たな表現領域を探求する現代作家の新作を中心に、明治工芸の逸品も併せて展示することで、進化し続ける超絶技巧の世界に迫る展覧会です。


あべのハルカス美術館展示風景

【出品作家(現代)】
青木美歌[ガラス] 池田晃将[漆工] 稲崎栄利子[陶磁] 岩崎努[木彫] 大竹亮峯[木彫] 蝸牛あや[刺繍] 小坂学[ペーパー] 長谷川清吉[金工] 樋渡賢[漆工] 福田亨[木彫] 本郷真也[金工] 前原冬樹[木彫] 松本涼[木彫] 盛田亜耶[切り絵] 山口英紀[水墨画] 吉田泰一郎[金工] 彦十蒔絵 若宮隆志[漆工] *五十音順

「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」展に出品中の17名の現代作家の中から、3名の作品を紹介していきます。

ただし言葉ではとても伝えきれないので、是非実物を美術館へ観に行って下さい。実際に観ても自分の目を疑うこと間違いありません。


前原冬樹「『一刻』スルメに茶碗」2022年 木彫

作品を一本の木材から彫り出す「一木造り」に拘る、元プロボクサーという変わった経歴を持つ前原氏の作品。

誰も見向きもしないものや、打ち捨てられたものに光をあてるべく途方もない長い時間をかけて作品を創り上げています。

前原冬樹「『一刻』グローブとボール」2022年 木彫

前原さんと長年の付き合いがある展覧会監修者の山下裕二先生も、今回の展覧会図録に改めてその驚きの作品について賛辞を掲載しています。


前原冬樹の作品を観る人は、二度驚くこととなる。まずは、ホンモノにしか見えない作品が、じつは不死であることを知ったとき。そしてさらに、それが一木造りであることを知ったとき。

前原は、一貫して自作に「一刻」というタイトルをつけている。うち捨てられたものに蓄積された時間に思いをいたす。それを表すために木を刻む。その両方の意味を込めたネーミングである。


稲崎栄利子「Amrita」2023年

インド神話で不死の霊薬を意味する「Amrita」をタイトルに冠した稲崎さんの作品は何から出来ていると思われますか?

布製のスカーフのように自由に形を変えることのできるこの作品は、非常に繊細なパーツから成り壊れやすく運送業者泣かせの作品です。


稲崎栄利子「Euphoria」2023年

種明かしをすると、今回の2点の新作は2本のリボンと袋状のパーツで出来ており、それらは陶磁器つまり焼き物なのです。

布のように自由自在に形を変えられる言語矛盾をはらんだ、焼物を構想10年の歳月を費やし執念と情熱で完成させました。

尚、稲崎さんは今年度、ロエベ財団主催の「LOEWE FOUNDATION CRAFT PRIZE 2023(ロエベ財団 クラフトプライズ2023)」でグランプリを受賞されました。


本郷真也「Visible01 境界」2021年 金工

古代より長い歴史を有する金属を叩いて変形させる「鍛金」(たんきん)という技法は明治以降実践する人は激減し、特に最も難しい「鉄鍛金」は伝承されず廃れてしまいました。

その「鉄鍛金」の技法を独自の研究で現代に復活させ、立体作品を制作しているのが1984年生まれの本郷さんです。


本郷真也「円相」2023年 金工

新作「円相」は、一対の龍を鉄鍛金で現した自由自在に動かすことが可能な「自在作品」。

首や四肢が動くのは勿論、胴体の部分は125個のリング状の部位をつなぎ合わせられており雲間を飛ぶ龍の姿を表現可能としています。

そして他にも「Visible01 境界」「円相」には驚きの秘密(仕掛け)が用意されているのです!是非会場で!!


あべのハルカス美術館展示風景

金属、木、陶磁、漆、ガラス、紙など様々な 素材を用い、孤独な環境の中、自らに信じられないほどの 負荷をかけ、アスリートのような鍛錬を実践している現代 作家17名の作品、64点。

「超絶技巧展」第三弾である「超絶技巧、未来へ!」では、単に技巧を駆使するだけでなく、「超絶技巧プラスα」の美意識と 並外れたインテリジェンスに裏打ちされた作品がセレクトされています。


「超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA」
会期:2023年7月1日(土)~ 9月3日(日)
開館時間:火~金 / 10:00~20:00、月土日祝 / 10:00~18:00
会場:あべのハルカス美術館
https://www.aham.jp/

【巡回】
三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/
会期:2023 年 9 月12 日(火)〜11月26日(日)

富山県水墨美術館 
会期:2023年12月8日(金)〜2024年2月4日(日)

「ポケモン×工芸展」でも輝きを放っていた福田亨さんの作品(立体木象嵌)が個人的には一推しです!


福田 亨「吸水」2022年


『別冊太陽217 明治の細密工芸』