宮沢氷魚が鈴木亮平主演の『エゴイスト』に「出るしかない」と思った理由は?
映画『エゴイスト』とは
高山真(1970~2020)の自伝的小説を原作とした作品である。
作者本人を反映した主人公斉藤浩輔を
鈴木亮平(1983年3月29日生れ)が演じる。
鈴木亮平は、主人公と共通したところがあると言っている。
高山真は東京外国語大学を卒業しているそうだ。
同じ大学卒の鈴木亮平にとっては先輩にあたる。
斉藤浩輔は大学を卒業した後、ファッション雑誌の編集者として働いている。
高収入で高級マンションに住み、ハイブランドを着こなし独身生活を謳歌している。
新宿二丁目で、同じゲイの友人達と他愛のない話をするのが楽しい。
例えば映画『Wの悲劇』(1984)で、三田佳子が女優賞を総なめにしたとか薬師丸ひろ子が女優に開花したと言う会話をしている。
ちなみに筆者は三田佳子に2回直接会っている。
1回目はバイト先で、2回目は市川森一シンポジウムだ。
業界人でもなければ同じ芸能人に2度会うことなど滅多にないので自慢にしている。
浩輔は田舎の千葉では、ゲイである事を隠し肩身の狭い思いをしていた。
14歳の頃に癌で亡くなった母(中村優子)の命日以外には戻ることはない。
父親(柄本明)に「誰かいい人はいないのか?」と言われる。
浩輔は曖昧な返事しか出来ない。
(『エゴイスト』で斉藤浩輔を演じる鈴木亮平 イラストby龍女)
浩輔は、ジムでパーソナル・トレーナーの中村龍太(宮沢氷魚)に出逢う。
(中村龍太を演じる宮沢氷魚 イラストby龍女)
龍太は、腰を痛めて働けなくなった妙子(阿川佐和子)との母子家庭。
(中村妙子を演じる阿川佐和子 イラストby龍女)
龍太は、高校を中退した。
母の代わりに昼はパーソナル・トレーナー、深夜は売り専(男に体を売る男娼)で稼いでいた。
浩輔は、龍太に売り専を辞めさせるために、毎月金を渡す。
龍太は売り専を辞めて、深夜の仕事を皿洗いに変えて、昼夜問わず働き続ける。
浩輔は疲れている龍太をいたわったりしながら、幸せな日常を送っていた。
浩輔は軽自動車を購入した。
ある日、龍太とドライブに出かけようとしていた。
その矢先、電話をかけると、龍太のスマホから返事をしたのは妙子の声だった。
「龍太はベッドで目をつぶったまま、起きない」
龍太は過労死してしまった…。
後半は、浩輔と、腰を痛めた原因が膵臓癌と分かった妙子のドラマになる。
妙子(阿川佐和子)がかかった病の膵臓癌は、自覚症状がない。
発見されたときは既に遅く、末期になっていることも多い。
筆者の祖母も膵臓癌が分かって数ヶ月後に亡くなったので、他人事に思えなかった。
この映画は、単に同性愛を描いただけではなく、深刻な格差社会を描いていた。
男性に限らず、学歴が無い人が手っ取り早い高額の労働形態が売春である。
10代で病気を抱えた肉親を介護するいわゆるヤングケアラーの問題も描いている。
どちらにしても、本人の望むと望まないにとに限らず学力低下をまねき、過酷な労働環境に追い込まれる。
浩輔の方は、14歳の時に母親を亡くしている。
ヤングケアラーにはならず、教育の機会を得られた。
大学まで行って一流の企業の出版社の会社員として働いている。
浩輔と龍太の格差は、もしかすると紙一重かもしれない。
龍太を演じる宮沢氷魚は、
宮沢氷魚は『his』(2020)でもゲイを演じているが、『エゴイスト』のオファー自体はそれ以前に受けたらしい。
『his』の公開から1年半後に正式にオファーがあって、原作を読んだら読めば読むほど好きになって、「出るしかない」と思ったそうだ。
LGBTQ+の人は、大体人口の10分の1くらいはいるそうだ。
日本でも、LGBTQ+の人の割合は変わらないのに、可視化されていないらしい。
当事者本人がLGBTQ+である事を公表する環境に無い。
いたとしても知らない状況がある。
インターナショナルスクールで出逢ったゲイの親友のためにも、表現できる立場の人間として出来ることはないかと考えたそうだ。
生きづらさは深刻で、こうした人の自殺する割合は、異性愛者の6倍と言うデータもあるらしい。
一橋大学で、同性愛者の男子学生がアウティング(本人の希望しない形で公表すること)によって自殺に追い込まれた事件も記憶に新しい。
この映画の素晴らしさは、ドキュメンタリーのように、淡々と描いて、演じている人達がその場で本当に生きているようにみえている。
大河ドラマでも主役を張った鈴木亮平や朝ドラでヒロインの相手役を演じた宮沢氷魚がこうした作品に出ることは、非常に意義がある事である。
啓蒙活動という意味だけで無い。
この作品は映画として、一人の人間の生き様を描いた素晴らしいドラマだ。
筆者の様な間近にLGBTQ+の友人がいない人間にも心が揺さぶられた。
一人でも多くの人に観て貰いたい。
鈴木亮平や宮沢氷魚を観たいという軽い動機でも良いので、是非観て欲しい。
※最新記事の公開は筆者のFacebookとTwitterにてお知らせします。
(「いいね!」か「フォロー」いただくと通知が届きます)
高山真(1970~2020)の自伝的小説を原作とした作品である。
作者本人を反映した主人公斉藤浩輔を
鈴木亮平(1983年3月29日生れ)が演じる。
鈴木亮平は、主人公と共通したところがあると言っている。
高山真は東京外国語大学を卒業しているそうだ。
同じ大学卒の鈴木亮平にとっては先輩にあたる。
斉藤浩輔は大学を卒業した後、ファッション雑誌の編集者として働いている。
高収入で高級マンションに住み、ハイブランドを着こなし独身生活を謳歌している。
新宿二丁目で、同じゲイの友人達と他愛のない話をするのが楽しい。
例えば映画『Wの悲劇』(1984)で、三田佳子が女優賞を総なめにしたとか薬師丸ひろ子が女優に開花したと言う会話をしている。
ちなみに筆者は三田佳子に2回直接会っている。
1回目はバイト先で、2回目は市川森一シンポジウムだ。
業界人でもなければ同じ芸能人に2度会うことなど滅多にないので自慢にしている。
浩輔は田舎の千葉では、ゲイである事を隠し肩身の狭い思いをしていた。
14歳の頃に癌で亡くなった母(中村優子)の命日以外には戻ることはない。
父親(柄本明)に「誰かいい人はいないのか?」と言われる。
浩輔は曖昧な返事しか出来ない。
(『エゴイスト』で斉藤浩輔を演じる鈴木亮平 イラストby龍女)
浩輔は、ジムでパーソナル・トレーナーの中村龍太(宮沢氷魚)に出逢う。
(中村龍太を演じる宮沢氷魚 イラストby龍女)
龍太は、腰を痛めて働けなくなった妙子(阿川佐和子)との母子家庭。
(中村妙子を演じる阿川佐和子 イラストby龍女)
龍太は、高校を中退した。
母の代わりに昼はパーソナル・トレーナー、深夜は売り専(男に体を売る男娼)で稼いでいた。
浩輔は、龍太に売り専を辞めさせるために、毎月金を渡す。
龍太は売り専を辞めて、深夜の仕事を皿洗いに変えて、昼夜問わず働き続ける。
浩輔は疲れている龍太をいたわったりしながら、幸せな日常を送っていた。
浩輔は軽自動車を購入した。
ある日、龍太とドライブに出かけようとしていた。
その矢先、電話をかけると、龍太のスマホから返事をしたのは妙子の声だった。
「龍太はベッドで目をつぶったまま、起きない」
龍太は過労死してしまった…。
後半は、浩輔と、腰を痛めた原因が膵臓癌と分かった妙子のドラマになる。
妙子(阿川佐和子)がかかった病の膵臓癌は、自覚症状がない。
発見されたときは既に遅く、末期になっていることも多い。
筆者の祖母も膵臓癌が分かって数ヶ月後に亡くなったので、他人事に思えなかった。
この映画は、単に同性愛を描いただけではなく、深刻な格差社会を描いていた。
男性に限らず、学歴が無い人が手っ取り早い高額の労働形態が売春である。
10代で病気を抱えた肉親を介護するいわゆるヤングケアラーの問題も描いている。
どちらにしても、本人の望むと望まないにとに限らず学力低下をまねき、過酷な労働環境に追い込まれる。
浩輔の方は、14歳の時に母親を亡くしている。
ヤングケアラーにはならず、教育の機会を得られた。
大学まで行って一流の企業の出版社の会社員として働いている。
浩輔と龍太の格差は、もしかすると紙一重かもしれない。
龍太を演じる宮沢氷魚は、
以前、映画『his』という作品に出演させていただいた時に始めてゲイの役を演じました。
その時にとてもお世話になった友人がいて彼はゲイなのですが、5歳の頃からずっと一緒で、教えてくれるというより一緒にいるだけでたくさん僕が感じるものがあって、彼ととにかくご飯食べにいったり飲みにいったり、遊びに行ったりしていて、時間を彼と一緒に過ごすことで心の準備ができていました。
その時を思い出しながらやったわけではないですが、その時に学んだことが今にも生かされていると思います。
Numero TOKYO2月13日付インタビューより
その時にとてもお世話になった友人がいて彼はゲイなのですが、5歳の頃からずっと一緒で、教えてくれるというより一緒にいるだけでたくさん僕が感じるものがあって、彼ととにかくご飯食べにいったり飲みにいったり、遊びに行ったりしていて、時間を彼と一緒に過ごすことで心の準備ができていました。
その時を思い出しながらやったわけではないですが、その時に学んだことが今にも生かされていると思います。
Numero TOKYO2月13日付インタビューより
宮沢氷魚は『his』(2020)でもゲイを演じているが、『エゴイスト』のオファー自体はそれ以前に受けたらしい。
『his』の公開から1年半後に正式にオファーがあって、原作を読んだら読めば読むほど好きになって、「出るしかない」と思ったそうだ。
LGBTQ+の人は、大体人口の10分の1くらいはいるそうだ。
日本でも、LGBTQ+の人の割合は変わらないのに、可視化されていないらしい。
当事者本人がLGBTQ+である事を公表する環境に無い。
いたとしても知らない状況がある。
インターナショナルスクールで出逢ったゲイの親友のためにも、表現できる立場の人間として出来ることはないかと考えたそうだ。
生きづらさは深刻で、こうした人の自殺する割合は、異性愛者の6倍と言うデータもあるらしい。
一橋大学で、同性愛者の男子学生がアウティング(本人の希望しない形で公表すること)によって自殺に追い込まれた事件も記憶に新しい。
この映画の素晴らしさは、ドキュメンタリーのように、淡々と描いて、演じている人達がその場で本当に生きているようにみえている。
大河ドラマでも主役を張った鈴木亮平や朝ドラでヒロインの相手役を演じた宮沢氷魚がこうした作品に出ることは、非常に意義がある事である。
啓蒙活動という意味だけで無い。
この作品は映画として、一人の人間の生き様を描いた素晴らしいドラマだ。
筆者の様な間近にLGBTQ+の友人がいない人間にも心が揺さぶられた。
一人でも多くの人に観て貰いたい。
鈴木亮平や宮沢氷魚を観たいという軽い動機でも良いので、是非観て欲しい。
※最新記事の公開は筆者のFacebookとTwitterにてお知らせします。
(「いいね!」か「フォロー」いただくと通知が届きます)