桃山の巨匠が江戸にやってきた!豪華絢爛、サントリー美術館「京都・智積院の名宝」展は見逃せない!

2022/12/21 20:00 yamasan yamasan

桃山時代を代表する絵師・長谷川等伯とその子・久蔵の豪華絢爛な金碧障壁画で知られる京都・智積院の名宝を紹介する展覧会が東京・六本木のサントリー美術館で開催されています。



長谷川等伯・久蔵親子の国宝障壁画一挙公開!

今回の展覧会の大きな見どころは何といっても等伯・久蔵親子の国宝「楓図」、「桜図」をはじめとした長谷川派一門による金碧障壁画。

桃山時代を代表する障壁画が展示室一面にずらりと並んださまはまさに壮観!


展示風景

等伯の後継者として期待された久蔵ですが、この障壁画が完成したあと、26歳の若さで亡くなってしまいました。
失意の中、その後も旺盛に制作を続けた等伯が京都から江戸に向かったのは、徳川の世になった慶長15年(1610年)。
長谷川派一門が江戸で絵筆をふるうという思いを抱いて旅立ちましたが、途中で病にかかり、江戸で72歳の生涯を閉じ、思いを遂げることはできませんでした。

それから400年、豪華絢爛な金碧障壁画を見ていたら、等伯のかなわなかった思いが今この東京で実現したような気がしてきて、涙が出てきそうなほどの感動がこみ上げてきました。

長谷川等伯のエピソードは、狩野永徳とのライバル関係を軸に以前のコラムで書いていますので、ぜひご覧ください。

【ライバル激突】巨匠たちの対決!!
https://ima.goo.ne.jp/column/article/7529.html


今回展示されている長谷川派一門の国宝の障壁画はすべて通期展示なので、いつ来てもこの光景が楽しめるというのがうれしいです。

展示されているのは全部で5点。


国宝《楓図》 長谷川等伯 六面のうち四面 桃山時代 16世紀 智積院 【全期間展示】


国宝《桜図》 長谷川久蔵 五面のうち四面 桃山時代 16世紀 智積院 【全期間展示】

ほかに、国宝《松に黄蜀葵図》、国宝《松に秋草図》どちらも長谷川等伯、そして国宝《雪松図》長谷川派です。

さらに、「楓図」「桜図」「松に秋草図」の一挙公開は寺外では初めて、等伯の傑作とされる高さ3.3mもある《松に黄蜀葵図》は寺外初公開と初ものづくし。


展示風景


金碧障壁画には秀吉との数奇なめぐりあわせがあった

京都・東山にある真言宗智山派総本山智積院の正式名称は「五百佛山(いおぶさん)根来寺智積院」。

真言宗の宗祖・弘法大師空海

《弘法大師像》 一幅 室町時代 文安元年(1444) 智積院 【展示期間:11/30~12/26】

9世紀初めに弘法大師空海が開いた高野山に興教大師覚鑁(かくばん)が修業の道場を建てたのが大治5年(1130年)。その後、高野山麓の根来山(ねごろさん)にその道場を移したのですが、天正13年(1585年)、豊臣秀吉による根来攻めで山内の堂宇のほとんどが灰燼に帰してしまいました。


京都府指定有形文化財《興教大師像》 一幅 鎌倉時代 13世紀 智積院 【展示期間:11/30~12/26】

慶長20年(1615)、家康によって智積院が祥雲禅寺の寄進を受けて、ここを総本山としたのですが、この祥雲禅寺は、豊臣秀吉が夭逝した愛児・鶴松(棄丸)の菩提を弔うために建立した寺で、その客殿に描かれたのがこの金碧障壁画でした。

秀吉の焼き討ちにあった智積院が、秀吉の子・鶴松を弔うために描かれた長谷川派一門の障壁画を守るという、まさに数奇な運命のめぐりあわせがここにはあったのです。


アッと驚く斬新な近代の障壁画

時代は桃山から昭和に一気に飛びます。


展示風景

一度見たら忘れられないカラフルでモダンな絵は、京都画壇の大家で、数多くの社寺の障壁画などを制作し、戦後は抽象表現を追求した堂本印象の「婦人喫茶図」「松桜柳図」。


《婦女喫茶図》 堂本印象 四面 昭和33年(1958) 智積院 【全期間展示】

この作品は智積院宸殿の室中を飾る障壁画。
お寺の中で見たら、一瞬、アッと驚いてしまうかもしれませんが、大胆にデフォルメされた木などは長谷川派障壁画の影響が感じられますし、長谷川派一門の障壁画を見た当時の人たちも、きっと同じようにあまりの派手さに驚いたにちがいありません。

智積院ならではの幅広い仏教美術

多くの学僧を輩出し「学山智山」と呼ばれた智積院は、真言宗に関する品だけでなく宗派を問わない幅広い分野の仏教美術を所蔵しているのが特徴です。


展示風景

中でも国宝「金剛経」は、中国・南宋の書家、張即之の代表作。その力強い独自の書風は、禅宗の僧侶たちに好まれ、日本の書に大きな影響を与えました。

国宝《金剛経》(部分) 張即之 一帖 南宋時代 宝祐元年(1253) 智積院 【全期間展示(場面替あり)】

こちらは、とても鎌倉時代のものとは思えないほど見事な彩色が残っている重要文化財「孔雀明王像」。804~806年に入唐した弘法大師空海が中国から請来した「孔雀明王像」の写しと考えられている貴重な仏画です。


重要文化財《孔雀明王像》 一幅 鎌倉時代 14世紀 智積院 【展示期間:12/28~1/22】

東アジアの名品~意外なお方からの寄進も

江戸幕府と密接な関係があった智積院には、歴代の能化(住職)たちに加え、在俗の有力者たちから寄進された数々の名品が所蔵されています。

展示風景

第十世能化、専戒僧正(1640~1710)が寄付した重要文化財「瀑布図(滝図)」は中国・宋時代の作品で、墨の濃淡だけで表現されているのに、滝のゴーッという音が聞こえてきそうな迫力が感じられます。


重要文化財《瀑布図》 一幅 南宋時代 13世紀 智積院 【展示期間:11/30~12/26】

幕府の怒りを買い三宅島に流された英一蝶の「釜山浦富士図」(下の写真右 展示期間11/30~12/26)は、一蝶が当初習った狩野派の様式を生かした作品。朝鮮半島の釜山港の景色を描いたものですが、画面右上に描かれているのは富士山。
当時は朝鮮半島からも富士山が見えるという話が人々の間で広まっていたのです。


展示風景

英一蝶の作品と並んで、一蝶が三宅島に流された時の将軍、徳川綱吉の「蓮舟観音図」(通期展示)が展示されていました。智積院が綱吉から拝領されたとみられる作品で、当時、綱吉筆の書画は大変な人気があったそうです。

長谷川派一門の障壁画だけでなく、智積院が所蔵する多彩な名宝が一堂に会した展覧会です。
この絶好の機会をお見逃しなく!

展覧会開催概要
会 期  2022年11月30日(水)~2023年1月22日(日)
休館日  火曜日(1月17日は18時まで開館)、12月30日(金)~1月1日(日・祝)
開館時間 10時~18時(金・土及び1/8(日)は20時まで開館)
     *いずれも入館は閉館の30分前まで
展示構成
第1章 空海から智積院へ
第2章 桃山絵画の精華 長谷川派の障壁画
智積院の名宝が結んだ美
第3章 学山智山の仏教美術
第4章 東アジアの名品集う寺
 
*作品保護のため、会期中展示替を行います。
展覧会の詳細は同館公式サイトをご覧ください⇒サントリー美術館

※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は、内覧会で美術館の特別の許可を得て撮影したものです。
※出品作品はすべて京都・智積院の所蔵です。