鎌倉時代のタイムカプセル!? CTスキャンで秘仏の内部が明らかに!

2022/4/23 08:30 明菜 明菜



タイムカプセルって埋めたことありますか? 離れ離れになる級友たちと写真や手紙を容器に入れ、卒業式が終わったあとに埋めたアレです。

たくさん入ったほうが良いじゃん、とか言って大きめの容器を買ってしまったものだから、それが埋まる深さまで掘るのが大変で、制服が土だらけになったよね。まあでも、この制服を着るのも最後だし、いっかー、とか言ってさ。

という捏造の記憶をお話ししたところで、本題です。通常のタイムカプセルは、長くても数十年ものだと思いますが、鎌倉時代のタイムカプセルが見つかったとしたら……見たくないですか?


展示風景

京都国立博物館で『伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」』が始まりました。5月22日(日)までの期間中、寺外初公開となる秘仏を含む130件の仏像や宝物などが展示されています。

天台宗は、最澄が日本に広めた仏教の宗派のひとつ。本展は日本における天台宗の始まりから、その教えの広がり、そして現代へのつながりを紹介する展覧会です。1200年という大きなスケールを体感してゾクゾクする内容でした。


展示風景

なかでも興味深かったのが、CTスキャンによる仏像などの調査です。CTとは、X線を使って人の体を輪切りにしたような画像などを撮れる技術のこと。

CTは主に医療の現場で使われる検査の技術ですが、文化財の研究にも役立てられています。たとえば仏像をCTでスキャンすれば、外側からは見えない内部構造を知ることができます。

今回、展覧会の開催にともない、出展される3件の像のCT調査が行われました。その結果、像の内側に秘められたものが明らかになってきたのです! この記事では、3件のうち2件の像についてご紹介します。


菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音) 鎌倉時代・13世紀 愛媛・等妙寺蔵

ひとつめの仏像は、愛媛・等妙寺の秘仏《菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)》です。片膝を立てて腰かけた独特のポーズのためか、動きを感じられるお像です。自然に流れる衣服のドレープの表現も優美で見事。

60年に一度しか公開されないこの仏像は、本展で特別にご開帳となりました。外側を見られるだけでも貴重なのですが、CTスキャンを行った結果……


菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音) X線 CT 画像(右から見た断面) 画像提供:九州国立博物館

首の部分に何かが納められていることがわかりました!

高さ約5センチのこの物体は木製の八角五輪塔で、さらに塔の中には直径約1~3ミリの粒が収められていることもわかったそうです。これらの粒は舎利(釈迦や聖者の遺骨)を表現しており、塔に納めて供養するものです。(ちなみに、お米を「シャリ」「銀シャリ」と呼ぶのは舎利から由来)


菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)内部の五輪塔 3次元データ 画像提供:九州国立博物館

3Dプリンターで複製された塔と粒は、本展で展示されています。それらは驚くほど小さく、塔はチェスの駒、粒は錠剤のようでした。粒なんて風に吹かれたら飛んでいきそうです。こんなに細々としたものを丁寧に作り、仏像に込めた人の思いを想像すると、胸に熱いものがこみ上げてきます。


重要文化財 性空上人坐像 慶快作 鎌倉時代・正応元年(1288) 兵庫・圓教寺蔵
画像提供:奈良国立博物館(撮影:森村欣司)


もうひとつご紹介するのは、《性空上人坐像》です。こちらは、頭の中に骨壺が入っていることが、過去の調査で既に知られていました。

今回はより詳しく調査が行われ、高さ10センチほどの陶器と思われる骨壺の中に、遺骨が納められていることがわかりました!


重要文化財 性空上人坐像 X線 CT 画像(左から見た断面) 画像提供:九州国立博物館

たしかに遺骨らしきものがハッキリと見てとれます。性空上人のものだと思われるそうです……!

性空上人(?-1007年)は、平安時代の天台宗の僧。千年以上の時を経た今、遺骨が見つかるなんて……歴史のたしかな手触りを感じます。

平安時代など遠い昔の出来事って、どこかフィクションのように感じられませんか? こうして遺骨の存在を突き付けられることで、ようやく「ああ、本当に存在したんだな……」という実感が湧いてきました。


重要文化財 性空上人坐像内部の壺 3次元データ(壺内部) 画像提供:九州国立博物館

骨壺と遺骨も3Dプリンターで複製され、本展では遺骨を骨壺に納めた状態の複製が展示されています。CT調査を行った九州国立博物館の企画課研究員・大澤信さんによると、今後は遺骨のデータを使い、医学の方面からも研究を進めていくそうです。


展示風景

以上のふたつのお像に秘められた謎。これは鎌倉時代から現代に届いたタイムカプセルと言って良いのではないでしょうか。その時代にお像を作り、外側からは見えない位置に聖なるものを込めた人の思いは、想像してもしきれません。一体、どんな思いだったんだろうか。

およそ千年という時を経て、21世紀の人々の前に立ち現れる歴史の証拠。フィクションのように感じていた歴史がたしかに存在することを目の当たりにし、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。本展を鑑賞し、日々感じているスケールまで変わってしまったように感じます。


京都会場 チラシビジュアル

伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」

会期:2022(令和4)年4月12日(火)~5月22日(日)
[主な展示替]
前期展示:2022年4月12日(火)~5月1日(日)
後期展示:2022年5月3日(火・祝)~5月22日(日)
※会期中、一部作品は上記以外にも展示替あり

会場:京都国立博物館 平成知新館
休館日:月曜日
展覧会公式サイト:https://saicho2021-2022.jp/