『檸檬』爆弾の聖地でレモンケーキを食べる。梶井基次郎と丸善の今

2022/2/15 21:35 明菜 明菜



桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている!

という、有名な都市伝説。由来は諸説ありますが、梶井基次郎が書いた短編小説『桜の樹の下には』から広まったとされています。上記はその冒頭の一文。形容しがたい桜の美しさに対し、「これほど美しく存在するためには、相当の背徳がなければつり合いが取れない」と梶井は空想したのでしょう。


そんな梶井基次郎が大好きなのですが、おそらく『桜の樹の下には』よりも有名なのが『檸檬』という短編小説のほう。「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終圧(おさ)えつけていた。」と、これまた強い印象を残す一文から始まります。

『檸檬』は京都の寺町通にあった果物屋でレモンを買い、てくてく歩いて本屋の丸善に置いてくるお話。レモンを爆弾に見立て、「丸善が木っ端みじんになったら面白いなあ」と空想して締める、現代だったら訴訟沙汰になりそうな話です。大正14年の小説なので伏字もなく、「丸善」とはっきり書いてあるのですよ。



京都には、梶井が物語の中で爆破しようとした丸善があります。正確には、『檸檬』に登場する店舗そのものは閉店したのですが、近しい場所で2015年に「丸善 京都本店」としてオープン。オシャレなビル『京都BAL』の地下1階・2階に入っています。『檸檬』にゆかりのあるグッズやカフェメニューがあるので、今日はこちらの紹介をさせてくださいね。



地下2階のエスカレーター近くには、『檸檬』を特集するコーナーがあります。梶井の関連書籍や、檸檬に関する雑貨が並んでいます。



このコーナーには、『檸檬』の主人公のようにレモンを置きたい人のためにカゴが用意されています! 小説と同じように本の上に直接レモンを置いてしまうと、本にシミがつくなど汚れてしまいます。それでも置きたい人のためでしょうか、折衷案としてカゴなんでしょうね。

それにしても、バッグを漁ってレモンを取り出し、カゴに置いて帰るなんて、違法なことは何一つしていませんが怪しくないか……梶井ファンかつ一人ディズニーランドもこなせる私ですら、高いハードルを感じます。



レモンを置くか置かないかはさておき、このコーナーは定期的にラインナップが変わるので、丸善に通い慣れている京都民も要チェックです。記念スタンプもあるので、本やノートを買う度、ちまちま押しています。



『京ごよみ手帳2022』にスタンプを押してみました。『京ごよみ手帳』は、以前いまトピで紹介しましたね。⇒2022年の手帳は『京ごよみ手帳』に決まり!日常にも京都の旅のお供にも



同じく地下2階の併設カフェでは、『檸檬』にちなんだケーキ「檸檬」がいただけます。上半分はスプーンがふわっと通るスフレ?ムース?のような生地で、ほんのり檸檬の味がする甘いケーキ。下半分は、檸檬をくりぬいた皮にすっぱいゼリーが入っています。冬に食べても美味しかったけど、夏はもっと美味しくいただけそうです。



期間限定で、檸檬とモンブランをかけあわせた「レ・モンブラン」もありました。秋限定かな~と思っていたら、2月現在も提供中。いつまで食べられるんだ……?

それにしても丸善さん、爆破されそうになったのに、『檸檬』の聖地としてグッズやカフェメニューを販売するという、たくましい商才がうかがえます。ネット通販が発達したとか、そもそも本を読む人が減っているとかで、本屋さんには逆風が吹いていますが、『檸檬』は救世主になるのでしょうか? 丸善のカゴに『檸檬』を置いて帰るのが京都観光の恒例になるくらい、本好き以外にも浸透したらいいな。

丸善 京都本店ウェブサイト⇒https://honto.jp/store/detail_1570144_14HB310.html

【おまけ】

檸檬』 (立東舎 乙女の本棚) 梶井 基次郎 (著), げみ (著)

梶井基次郎の『檸檬』が、書籍の装画やCDジャケットなどで活躍している人気イラストレーター・げみによって、鮮やかに現代リミックス。全イラスト書き下ろしで贈る、珠玉のコラボレーション・シリーズです。



梶井 基次郎(かじい もとじろう) 明治34年(1901年)大阪府生まれ。同人誌「青空」で活動するが、少年時代からの肺結核が悪化。初めての創作集『檸檬』刊行の翌年、31歳の若さで郷里大阪にて逝去した。

げみ 平成元年(1989年)兵庫県三田市出身。京都造形芸術大学美術工芸学科日本画コース卒業後、イラストレーターとして作家活動を開始。数多くの書籍の装画を担当し数多くの書籍の装画を担当し、幅広い世代から支持を得ている。画集に『げみ作品集』がある。