ほっこり~。京都のおすすめ「おやつ」

2019/5/13 15:30 吉村智樹 吉村智樹




いらっしゃいませ。
旅するライター、吉村智樹です。


おおよそ週イチ連載「特ダネさがし旅」
特ダネを探し求め、私が全国をめぐります。





すがすがしい気候に恵まれた5月。
僕が住む京都は、5月は茶摘みのシーズンを迎えます。


5月の日本茶、いいですね~。
眼にもあざやかで新鮮な緑茶の香りが、いっそう爽快感を呼びおこします。


お茶といえば、ともに楽しみたいのが、お菓子
おいしい日本茶と、おいしいお菓子があると、気分がほっこり、やわらぎますよね。


「う~。でも、京都のお茶菓子って、敷居も値段も高そう。マナーにうるさそう。仰々しくいただく雰囲気が、どうもなあ」


確かに京都の和菓子は、永い伝統と高度な技巧、正しい由緒に彩られた、美学の世界。


とはいえ、京都といえども、そんな肩がこるお菓子ばかりではありません。実は、庶民的で気さくにほおばれる「おやつ菓子」も、けっこうあるんです。


今回はそんな、心をほどく「京都のおやつ」を3点、ご紹介します。


■「天狗製菓」の横綱あられ





京都にスナック菓子のイメージは、あまりないかもしれません。しかし、数少ないながら、おいしさ「横綱クラス」に君臨するさくさくスナックがあるのです。


それが天狗製菓の「横綱あられ」


「横綱あられ」は、小麦粉を揚げたスナック菓子。白麻で編んだ太いしめ繩(横綱)を思わせる形状が特徴です。上質な菜種油で揚げたあと、電気でじっくり熱を通した、香ばしい逸品なのです。


昭和27年創業の天狗製菓は、いっとき大きな火災を起こした件で話題となりました。しかし近年、完全復活。西京極から伏見へ移転し、工場の規模を倍にしての大出世です。


種類は「うす塩味」「ドレッシング味」「黒胡椒味」などがあります。ピり辛の黒胡椒味は、お茶請けのみならず、冷たいビールにもがっぷり四つに組むうまさです。


いやあ、とにかく、おいしい。食べられる金星。フライ菓子なのに油っこくなく、土俵際まで抑えた「うす塩」のあんばいがお見事、絶妙。


噛みごたえもいい。ぎざぎざした隆起がもたらす歯ざわりは、朝潮高砂親方の現役時代の取組を彷彿とさせるトリッキーさで、くせになります(そういえば、“あさしお”と“うすしお”って似てますね)。


さくさく、さくさく、さくさく、さくさく、は! しばし原稿を書くのを忘れていました。時間が経つのを忘れ、無我夢中で食べてしまう、うっちゃられるおいしさ。さすが横綱、塩の使い方がうまい


■ロンドンヤの「ロンドン焼」





京都の風景になじみすぎ、逆に採りあげられることが少ないお菓子、それがロンドンヤの「ロンドン焼」


新京極の風景といえば、オレンジ色の看板が映える「ロンドンヤ」。
店頭はサテライトスタジオを思わせるガラス張りの工房があり、レトロなマシンが、ぽこぽことお菓子を焼きあげています。


アンティークを思わせる自動製菓機は、がっちゃんこがっちゃんこと音を立て、そのビートは実にマジカルでスウィンギング。ビートルズやザ・フーなどブリティッシュロックのリズムが似合いそうです。


焼きあがったアツアツの「ロンドン焼」は、うー、いい香り~。たまごとハチミツを使ったカステラ生地のなかに、北海道産の手芒豆(てぼうまめ)からとれた白こしあんがたっぷり。和菓子なのか、洋菓子なのか、饅頭なのか、ケーキなのか。京都なのか、イギリスなのか。謎が謎呼ぶ和洋折衷のスイーツです。


ひとくちほおばると、素朴さとハイカラさを兼ね備えるヒップな甘みがたまりません。日本茶にも紅茶にもマッチします。そんなロンドン焼は、日に2000個、多い日は7000個をも焼きあげるというからスゴい!


「ロンドンヤ」は、なんと戦後間もなくから70余年前からこの地で営業を続け、メニューは「ロンドン焼」ただ一種類のみ。刻印もシブく、「京都のロゼッタストーン」と呼びたくなりますね


■みなとやの「幽霊子育飴」





おそろしげな名前ですが、やさしい甘さなんです、「幽霊子育飴」は。


「幽霊子育飴」という怪談めいた品名の由来は、「赤ちゃんを残したまま亡くなったお母さんが幽霊となり、我が子のために飴を買いに来た」という言い伝えから。米や麦を扱うそのお店は、麦芽で水あめを作っていたのです。


不審に感じたお店の方が女性のあとをつけると、そこには墓穴に入った死体のそばで、水あめをなめながら泣いている赤ん坊がいました。亡くなった母親の幽体だけが飴屋さんを訪れ、三途の川の渡し賃である六文銭を、我が子の飴代として使っていたのです。


成仏できず幽霊となった女性を不憫に思った飴屋さんは、残された子どもを8歳になるまで育てました。子どもは寺に引き取られたのち、立派な高僧になったと云われています。故・桂米朝師匠の「幽霊飴」という落語にもなっていますね。


そして、母乳のかわりに子供の命を救ったその麦の飴は「幽霊子育飴」として、現在も販売されているのです。


製法は、ほぼ伝説のまま。違っているのは、現在は水あめではなく固形で売られている点。麦芽糖とザラメ糖を容器に流しこんで固め、叩き割ります。天然素材のみなので、お菓子としてだけではなく、魚の煮つけなど調味料としても使われているのだとか。


かたちはごつごつと不ぞろい。だけれど、根源的な、おおらかでやさしい甘さがある。なめていると、ほんと、リラックスできるんです。それはまさに、お母さんに抱かれているような、あたたかなひとときなのです。


イラスト せろりあん




TEXT/吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy


タイトルバナー/辻ヒロミ