「アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア」元アイドルが元アイドルのその後を追う異色のノンフィクション

2021/6/9 16:30吉村智樹吉村智樹




おススメの新刊を紹介する、この連載。
第53冊目は、元アイドル、現ライター大木亜希子さんによるルポルタージュ「アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア」です。





5月28日(木)、「AKB48」最後の一期生、峰岸みなみさん卒業しました。15年もの長きにわたり同グループを支え続けた彼女の卒業。懐旧の想いが胸にこみあげてきます。しみじみ「平成の終わり」を感じますね。


AKB48のメンバーだった15年のあいだ、峰岸さんにはいろんな出来事がありました。「やらかし」をきっかけに坊主頭にしはじめた僕は、彼女の生きざまにシンパシーを抱かずにはいられません。新型コロナウィルスの影響で卒業公演が1年以上も伸びたのも、波乱とともに生きた彼女らしいゴールです。


そんな彼女のトークはアラサーとなってとみに味わい深く、人間味があります。「ガチャピン」だろうと「おいでやす小田」だろうと果敢にモノマネに挑む心臓の強さと度量にも、おそれいるばかり。笑いを生みだす会話の対応力には定評があり、今後は令和のご意見番というセカンドキャリアで活路を見出すのでは。


■AKB48グループにいたアイドルたちの卒業後を追跡


峰岸みなみさんのように、アイドルを卒業しても芸能界の仕事を続けるメンバーはいます。しかし、卒業した全員が芸能活動を継続するわけではありません。AKB48グループは現在、海外すべてを合わせると660人近いメンバーが在籍する巨大産業。メンバーの多くはアイドル卒業すなわち引退の道を選び、第二の人生を歩みます。


ではみんな、アイドルをやめてからどんなふうに生活しているのか「推し」幸せに暮らしているだろうか。気になる人は多いでしょう。


新刊「アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア」(宝島SUGOI文庫)は、AKB48グループからの卒業とともに表舞台から去った女子たちのその後を追うドキュメンタリー。ご存知のようにAKB48グループは全国展開しています。この新刊は、東京のみならずローカルで活躍した彼女たちの足跡をたどって日本の津々浦々を取材した労作。待望の文庫化なのです。





■著者自身がAKB48グループ出身の元アイドル


卒業生たちの進路は、多方面にわたります。売れっ子の商品開発プランナー、ラジオ局の営業部社員、アパレル販売員、保育士、声優、振付師、バーテンダーなどバラエティ豊か。まさに「ダイバーシティ」と呼ぶにふさわしい。


人選も絶妙です。卒業が大きくニュースで採りあげられ、著書「アイドル受験戦記 SKE48をやめた私が数学0点から偏差値69の国立大学に入るまで」(文藝春秋)を上梓して話題となった菅なな子のような人気メンバーがいれば、方や、多くの人の記憶には残らないまま去っていった人も。卒業時点での立ち位置もバラバラで、さらに複雑な妙味があります。残酷だけど、誤解を恐れず言うならば、だからおもしろい本なんです。


刮目すべきは、著者の大木亜希子さん自身がAKB48グループ「SDN48」に在籍した元アイドルである点。著者本人がアイドルを辞めてセカンドキャリアを驀進する当事者。握手会のレーンに自分だけファンが少なかった日の悔しさや、グループ組閣が生みだす格差のシビアさを知っているだけに、文章はリアルでスリリング。同じ境遇にいた卒業生たちへのあたたかなまなざしと、ともに闘ったライバルの心の痛みに「引きずられないよう」距離をとろうとするクールな記者魂、相反する視点が交錯する筆致がたまりません。正直、ここまで文章がうまいライターって、そうそういないんじゃないかな。





■アイドルはアスリートなみにハードな職業


さて、書籍のタイトルにもなっている「セカンドキャリア」。この頃よく目や耳にします。これは「第二の人生における職業」を意味する人事労務用語。古くはアスリートの世界で多用されました。アスリートに使う言葉がフィットするほど、AKB48グループは、かくもハードです。


子役時代から芸能界で努力してきたがために身についた「セミプロ感」が裏目に出てしまい、「じゃんけん大会」まで好機に恵まれなかった。
キラキラした自分を演出するストレスで生理が止まってしまった。
唯一の心の拠り所が1900円で購入したポータブルラジオだった。
ロケ番組でまったく喋れず出番が減らされていった。
ダンスがうまくできても昇格できない苦悩。
ダンスがうまくないのに選抜され妬まれてしまう苦悩。


彼女たちは、あがきながらも必死でひと筋の光を探しだそうとしました。


なかには「アイドルを辞める」という決断に対して両親が猛反対し、親子関係が険悪になる例も。AKB48グループほどブランドパワーが強くなると、親が「子供の将来を心配して辞めさせない」パターンもあるのかと驚きましたね。しかも「アイドルを辞める」決断への最大の理解者がマネージャーだったという。





■アイドルには戻らない。けれどもアイドルだったことは後悔はしない


では「アイドルがハードだから辞めた?」。いいえ、現在は万別の道を歩んでいる彼女たちですが、つらいから卒業したわけではありません。何十人というアイドルが自分のポジションを求め、さまよう。自分には何ができる? 自分はどこにいれば人を喜ばせることができる? 深く深く対峙した結果、アイドル以外の選択肢が見えてきたのです。ステージで学んだ構成を引退後に「交通指導」に活かしたメンバーもいます


2年後の文庫化に寄せ、あとがきには元アイドルたちの最新の状況も綴られています。新しい職業でさらに活動の幅を広げている人がいれば、結婚や出産など、さらなる展開を見せている人もいる。わずか2年でも、セカンドキャリアは多彩かつ多岐にわかれはじめているのがおもしろい。そうそう、なんといっても著者の大木亜希子さん自身がこの2年で『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)など小説家としても目ざましい活躍を見せていますものね。


新型コロナウイルス禍の影響で、これから不景気になる未来しか見えない日本。現状に不満があるだけで会社を辞めてしまったり、ラクで稼げそうな印象だけでフリーランスになったりするのは危険です。気軽に転職を勧めるのも無責任でしょう。


けれども、胸を張って「ファーストキャリア」と呼べるほどに現在の仕事に力を尽くし、自分と向き合った結果、卒業や潮時を感じたのならば、それはセカンドキャリアへと駒を進めるタイミングなのかもしれません。この本に紹介された誰もがファーストキャリアであるアイドルだった時期を後悔していない。AKB48グループにいた経験を掛け替えのない宝として大切にし、十代でフライングゲットした集団構成員としてのたしなみを人生の次のステージにも活かしている。


セカンドキャリアをどう歩むべきか。迷ったならば、ページをめくってみてください。あなたが進むべき第二の道へ、示唆を含んだ言葉がきっと見つかるでしょう。輝く未来と握手できるかもしれません。



アイドル、やめました。
AKB48のセカンドキャリア
著者:大木亜希子
宝島SUGOI文庫
価格:880円(税込)

テレビ・新聞で大絶賛!
元アイドルが背負う人生の十字架とは?
感動ドキュメント待望の文庫化。

「同じ苦難を知る著者ならではの温かな視線が心地よい秀作」林修先生推薦

朝日新聞への掲載5回、日本経済新聞「目利きが選ぶ3冊」、週刊文春、AERA、サンデー毎日ほかで書評・著者取材多数!

保育士/アパレル/ラジオ局社員/バーテンダー/声優 etc.

本書は、元アイドルが「アイドルのセカンドキャリア」についてまとめた一冊のドキュメントである。

AKB48グループを卒業し第二の人生に挑む元アイドルたちを、自らもSDN48から会社員を経てフリーライターとなった大木亜希子が追跡取材するオムニバスノンフィクション。
10~20代に一般社会を離れアイドルとして活動し、その後「元AKB」「元アイドル」という肩書きが残った彼女たちはどのような人生を歩んでいるのか。
高い文章力と異色のキャリアで注目を集める大木亜希子、渾身の一作。
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吉村智樹