万能の芸術家マン・レイを魅了した3人のミューズ
20世紀を代表する万能の芸術家マン・レイ(1890-1976)。
アメリカ、フィラデルフィアに生まれ、ブルックリンで仕立屋を営む両親のもと、手先の器用な少年は画家になることを志し、既存の価値の破壊をめざすダダイストを名のり、ニューヨークで芸術活動を開始します。
マン・レイ《カメラをもつセルフポートレート(ソラリゼーション)》1932-35年頃 ゼラチン・シルバー・プリント(ヴィンテージ) 個人蔵 / Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
その後、1921年にパリ・モンパルナスへ。芸術の都であったパリに集ったシュルレアリストたち、社交界の人々と交友し、前衛作家としての活動のかたわら時流に先んじた肖像・ファッション写真家として名を馳せていきました。
文化・芸術の中心地であったパリで「パリのアメリカ人」となってモンパルナスに暮らし、芸術家や文学者、モード界や社交界の人々とひろく交流しながら、さまざまな出会いと恋愛を経験。多くの女性と接点を持ちます。
マン・レイ《アングルのヴァイオリン》1924年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
異邦人であるマン・レイにとってパリで出会った女性たちは。インスピレーション源であり、芸術のミューズだったのです。
恋人だったキキ・ド・モンパルナスやリー・ミラーのほかにも、多数の女性アーティストたちとたえず交友し、彼女たちを、新しい時代に生きる自由で自立した女性像として写真に数多く残しました。
マン・レイ《黒と白》 1926年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
マン・レイの作品に魅了されたモード界、社交界の人々は進んで彼の被写体になることを望み、そのポートレート群は一時代の西欧文化を見わたせるほど。
ピカソもそうですが、偉大な芸術家の傍には必ずミューズの存在があります。パリで名声を得、浮名を流したマン・レイに大きな影響を与えた3美神(ミューズ)を紹介して参りましょう。
まず一人目は、この時代の画家にも大きな影響を与えたキキ・ド・モンパルナス(Kiki de Montparnasse)。
本名アリス・プラン。キスリング、フジタらエコール・ド・パリの芸術家のモデルとなり、モンパルナスではその名を知らない者はいないと言われるほど文化人の間で人気を博した女性です。
《ジュリエット》(作品集『ジュリエットの50の顔』より) 1943年 ゼラチン・シルバー・プリント(ヴィンテージ)コンタクトシート 個人蔵/ Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris/ © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
マン・レイはモンパルナスに住んで間もない1921年12月に彼女と知りあい、すぐさま恋におち、以来7年間の同棲生活を送りました。
キキはマン・レイの芸術のミューズとして《アングルのヴァイオリン》に代表される写真のモデルをつとめたほか、マン・レイの映画にも出演しています。
結果として、キキを撮った写真はマン・レイ、そしてキキ自身の名声をさらに高めることになったのです。まさに女神さまですね!
二人目は画家・彫刻家であったメレット・オッペンハイム(Meret Oppenheim)です。
《エロティックにヴェールをまとう(メレット・オッペンハイム)》 1933年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
「メレットはそれまで私の会ったなかでも、因習に縛られないことでは指おりの女性だった。」 Excerpt from Man Ray Self-Portrait, 1963
ベルリンに生まれたスイスの画家・彫刻家。18歳でパリに出て、翌年にカフェ「ドーム」でジャコメッティと出会い、彼のすすめでシュルレアリスムに参加しました。彼女の作品は横浜美術館や富山県立美術館にも所蔵されています。
マン・レイは版画インクで手と腕を汚したメレットの官能的な連作写真は『ミノトール』誌の第5号に掲載され、スキャンダルをひきおこすことになりました。
三人目はニューヨーク出身の写真家・従軍ジャーナリスト、リー・ミラー(Lee Miller)です。
少女時代から人目をひく美貌で、20歳前にはモデルとして『ヴォーグ』誌の表紙を飾った女性です。
マン・レイ《リー・ミラー》 1930年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
1929年7月、キキと別れたマン・レイのもとに、助手になりたいとやって来たリー・ミラーを受け入れ、以来3年間を共に過ごしました。
リーを熱愛し、リーもマン・レイを愛したが、彼女の独立志向が高まり、プロの写真家として自立すべくマン・レイのもとを去って行ってしまいます。
別れを止めることが出来なかった傷心のマン・レイは油彩画大作を2年の歳月をかけ完成させることに。
マン・レイ《天文台の時刻に―恋人たち》 1934/1967年 リトグラフ(多色) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
大画面に浮かぶ巨大な唇はリー・ミラーのもので、彼女への想いが色濃く込められている作品です。
因みに、この作品は画家マン・レイの「シュルレアリスム絵画」とされ、後年に版画やオブジェやジュエリーにも再制作されました。もしかしてお持ちだったりしませんか?!
芸術家のミューズとなった女性たちを通してマン・レイの生涯を紹介する展覧会「マン・レイと女性たち」がこの夏、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されます。
これまでとは違った視点でマン・レイの作品を捉えることができるでしょう。親密で詩的で機知に富んだ彼の創作の世界をミューズと共にたっぷりと味わいましょう。
「マン・レイと女性たち」
会期:2021年7月13日(火)~9月6日(月)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
https://www.bunkamura.co.jp/museum/
開館時間:10:00~18:00(最終入館時間 17:30)
毎週金・土曜日は21:00まで (入館は20:30まで)
休館日:※7月20日(火)のみ休館
主催:Bunkamura、日本経済新聞社
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 J-WAVE
企画協力:アートプランニング レイ
監修者は巖谷國士 先生です。
『シュルレアリスムとは何か』 (ちくま学芸文庫)
巖谷 國士 (著)
アメリカ、フィラデルフィアに生まれ、ブルックリンで仕立屋を営む両親のもと、手先の器用な少年は画家になることを志し、既存の価値の破壊をめざすダダイストを名のり、ニューヨークで芸術活動を開始します。
マン・レイ《カメラをもつセルフポートレート(ソラリゼーション)》1932-35年頃 ゼラチン・シルバー・プリント(ヴィンテージ) 個人蔵 / Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
その後、1921年にパリ・モンパルナスへ。芸術の都であったパリに集ったシュルレアリストたち、社交界の人々と交友し、前衛作家としての活動のかたわら時流に先んじた肖像・ファッション写真家として名を馳せていきました。
文化・芸術の中心地であったパリで「パリのアメリカ人」となってモンパルナスに暮らし、芸術家や文学者、モード界や社交界の人々とひろく交流しながら、さまざまな出会いと恋愛を経験。多くの女性と接点を持ちます。
マン・レイ《アングルのヴァイオリン》1924年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
異邦人であるマン・レイにとってパリで出会った女性たちは。インスピレーション源であり、芸術のミューズだったのです。
恋人だったキキ・ド・モンパルナスやリー・ミラーのほかにも、多数の女性アーティストたちとたえず交友し、彼女たちを、新しい時代に生きる自由で自立した女性像として写真に数多く残しました。
マン・レイ《黒と白》 1926年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
マン・レイの作品に魅了されたモード界、社交界の人々は進んで彼の被写体になることを望み、そのポートレート群は一時代の西欧文化を見わたせるほど。
ピカソもそうですが、偉大な芸術家の傍には必ずミューズの存在があります。パリで名声を得、浮名を流したマン・レイに大きな影響を与えた3美神(ミューズ)を紹介して参りましょう。
まず一人目は、この時代の画家にも大きな影響を与えたキキ・ド・モンパルナス(Kiki de Montparnasse)。
本名アリス・プラン。キスリング、フジタらエコール・ド・パリの芸術家のモデルとなり、モンパルナスではその名を知らない者はいないと言われるほど文化人の間で人気を博した女性です。
《ジュリエット》(作品集『ジュリエットの50の顔』より) 1943年 ゼラチン・シルバー・プリント(ヴィンテージ)コンタクトシート 個人蔵/ Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris/ © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
マン・レイはモンパルナスに住んで間もない1921年12月に彼女と知りあい、すぐさま恋におち、以来7年間の同棲生活を送りました。
キキはマン・レイの芸術のミューズとして《アングルのヴァイオリン》に代表される写真のモデルをつとめたほか、マン・レイの映画にも出演しています。
結果として、キキを撮った写真はマン・レイ、そしてキキ自身の名声をさらに高めることになったのです。まさに女神さまですね!
二人目は画家・彫刻家であったメレット・オッペンハイム(Meret Oppenheim)です。
《エロティックにヴェールをまとう(メレット・オッペンハイム)》 1933年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
「メレットはそれまで私の会ったなかでも、因習に縛られないことでは指おりの女性だった。」 Excerpt from Man Ray Self-Portrait, 1963
ベルリンに生まれたスイスの画家・彫刻家。18歳でパリに出て、翌年にカフェ「ドーム」でジャコメッティと出会い、彼のすすめでシュルレアリスムに参加しました。彼女の作品は横浜美術館や富山県立美術館にも所蔵されています。
マン・レイは版画インクで手と腕を汚したメレットの官能的な連作写真は『ミノトール』誌の第5号に掲載され、スキャンダルをひきおこすことになりました。
三人目はニューヨーク出身の写真家・従軍ジャーナリスト、リー・ミラー(Lee Miller)です。
少女時代から人目をひく美貌で、20歳前にはモデルとして『ヴォーグ』誌の表紙を飾った女性です。
マン・レイ《リー・ミラー》 1930年 ゼラチン・シルバー・プリント(後刷) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
1929年7月、キキと別れたマン・レイのもとに、助手になりたいとやって来たリー・ミラーを受け入れ、以来3年間を共に過ごしました。
リーを熱愛し、リーもマン・レイを愛したが、彼女の独立志向が高まり、プロの写真家として自立すべくマン・レイのもとを去って行ってしまいます。
別れを止めることが出来なかった傷心のマン・レイは油彩画大作を2年の歳月をかけ完成させることに。
マン・レイ《天文台の時刻に―恋人たち》 1934/1967年 リトグラフ(多色) 個人蔵 / Photo Marc Domage, Courtesy Association Internationale Man Ray, Paris / © MAN RAY 2015 TRUST / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2021 G2374
大画面に浮かぶ巨大な唇はリー・ミラーのもので、彼女への想いが色濃く込められている作品です。
因みに、この作品は画家マン・レイの「シュルレアリスム絵画」とされ、後年に版画やオブジェやジュエリーにも再制作されました。もしかしてお持ちだったりしませんか?!
芸術家のミューズとなった女性たちを通してマン・レイの生涯を紹介する展覧会「マン・レイと女性たち」がこの夏、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催されます。
これまでとは違った視点でマン・レイの作品を捉えることができるでしょう。親密で詩的で機知に富んだ彼の創作の世界をミューズと共にたっぷりと味わいましょう。
「マン・レイと女性たち」
会期:2021年7月13日(火)~9月6日(月)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
https://www.bunkamura.co.jp/museum/
開館時間:10:00~18:00(最終入館時間 17:30)
毎週金・土曜日は21:00まで (入館は20:30まで)
休館日:※7月20日(火)のみ休館
主催:Bunkamura、日本経済新聞社
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本 J-WAVE
企画協力:アートプランニング レイ
監修者は巖谷國士 先生です。
『シュルレアリスムとは何か』 (ちくま学芸文庫)
巖谷 國士 (著)