【なつかしいのにモダン】芹沢銈介の「のれん」が愛おしい!

2021/5/2 21:25 Tak(タケ) Tak(タケ)

重要無形文化財「型絵染」の保持者(人間国宝)、芹沢銈介(せりざわ けいすけ、1895年5月13日 - 1984年)。

肩書が重た過ぎて遠い存在のように感じるかもしれませんが、芹沢銈介は身の回りの植物や動物、風景そして人までも独特の感性によりデザインし普段使いの品々を生み出しました。


苗代川文着物(1955年)

文明開化の時代、西洋文化の影響も受けつつ、日本古来の伝統に基づいた誰からも愛されるグラフィックデザイナーが芹沢です。

本の装丁からカレンダーやクリスマスカードなど商業デザインも積極的に手掛ける一方で民藝運動にも参加し多くの作品を残しました。

何と、1976年にはフランス政府から招聘をうけてパリで大規模な個展まで開催したというのですから驚きです。


片身替り梅竹文のれん(1953年)

多方面で活躍した芹沢銈介ですが、今回注目するのが彼がデザインした「暖簾(のれん)」です。そう、暖簾に腕押しのあのノレンです。

実は、芹沢作品の中でも「着物」と並び人気があるのが意外にも「暖簾」なのです。

↑の画像の「片身替り梅竹文のれん」も、着物の背縫いを軸として、左右の文様が切り替わる「片身替り」構成でデザインされており、仕立てによって赤と緑による片身替りになっています。


富士と雲文のれん(1967年ころ)
静岡市出身の芹沢銈介は、富士山を自作によく取り入れました。その中でも最もシンプルなものがこれでしょう。紺地に、山頂とそれを襟巻きのように取り囲む雲だけが染め抜かれています。

富士山が、ぽっかりと雲から頭を突き出した様は、なんともユーモラスで遊び心が垣間見られます。


富士の日の出文のれん(1950年)

こちらは、藍地に円を染め抜き、台形状の富士の真上に太陽を配し、その両脇に一片ずつ雲を配しています。

富士の山頂は赤く、山頂だけ朝日を浴びたシーンをイメージしているようです。富士の日の出という壮大な風景を、シンプルな形にまとめ上げた作品ですね。


笹文のれん(1972年)

笹文のれんは芹沢銈介の代表作とも呼べるデザインで、他にも何パターンも趣向を凝らした粋なのれんが存在します。

晩年の円熟期を迎えた芹沢が行き着いたひとつのデザインの極致とも取れます。それにしても小さくまとまらず大胆なパターンですね。


天の字のれん(1965年)

風景や植物だけでなく芹沢銈介ののれんの中には、文字をモチーフにしたものも多くあります。その中でもこの「天の字のれん」は、なかでも独創性の強い作品だそうです。確かに大胆!

「天」の字が、濃い紺地の中にひるがえる一枚の白い布によって表されています。こうした発想の豊かさも芹沢デザインの魅力と言えます。

そして極めつけはこれでしょう!


童児文のれん(1970年)

鼠地ののれんの中に、両手でのれんを分けて、立ちはだかる着物姿の童児がいます。まるで通せんぼをしているようでのれんをかいくぐるを一瞬戸惑ってしまいそうです。

因みに、のれんを分けてたちはだかる男が、その周囲に「入るや出ずるや」と書き込まれている芹沢の板絵が残されているそうです。「入るや出ずるや」とは、柳宗悦の『心偈』 の一つで、「扉アリ入ルヤ出ヅルヤ」(「心偈」五三)からとった言葉です。

この童児は小坊主で、こののれんをくぐろうと する人に、「入るや出づるや」、つまり「こののれんを『入る』というのか、それとも『出る』というのか」と禅問答を仕掛けているということなのでしょうか。確かにお坊さんにも見えなくもありませんね。


スリップウェアを手にする芹沢銈介

芹沢のデザインしたのれんや着物を紹介する展覧会「のれんと着物」が静岡市立芹沢銈介美術館開館で開催されています。

「童児文のれん」や「苗代川文着物」など、のれん33点、着物13点と共に、沢銈介が集めた貴重な世界の民族衣装74点も展示されています。



建築家・白井晟一の設計による静岡市立芹沢銈介美術館の暖簾をくぐりに出かけてみませんか。

静岡市立芹沢銈介美術館開館40周年記念展-春編-「のれんときもの」
会期:2021年4月6日(火)~ 6月20日(日)
※休館日 毎週月曜日(5月3日は開館)、5月6日(木)
開館時間:9:00~16:30
会場:静岡市立芹沢銈介美術館
(〒422-8033 静岡県静岡市駿河区登呂五丁目10-5)


https://www.seribi.jp/


『芹沢銈介・装幀の仕事』