きっと東京・足立区が好きになる話題のコミックエッセイ『出没!アダチック天国 極』

2021/4/29 11:00 吉村智樹 吉村智樹




こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。


緊急事態宣言が発令され、ゴールデンウイークの行楽は難しいのが現状です。出かけるのは、はばかられますよね……。
そこで! 自宅でコミックエッセイを読むなどして、ゆっくりのんびり過ごしませんか。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第48冊目は、知っているようでよく知らない東京・足立区の魅力を深堀する『出没! アダチック天国』『出没! アダチック天国 極』です。








■謎に包まれた「足立区」。いったいどんなところ?


東京の北東部に位置する「足立区」


足立区といえば、まず思いだすのがビートたけしさん。たけしさんは、生まれてから大学を出るまでずっと足立区で暮らしました。裕福ではなかった幼少期の想い出と足立区のワイルドな光景を描いたイラストエッセイ集「たけしくん、ハイ!」はドラマ化もされ、人気を博したのです。


近年ではANZEN漫才足立区ネタ足立区ラップで知名度をあげました。「鬼ごっこは基本、原付で」とか。芸人さんは、ときに故郷の特徴を誇張したりクサしたりする場合があります。ダウンタウンの尼崎、千鳥大悟の北木島などなど。そういった「うちの地元ガラ悪い」「うちの島めっちゃ田舎」などのエピソードの数々は、屈折はしているけれども、青春時代をその街で過ごした人たちにしか醸しだせない深い愛を感じます。僕は彼らの故郷ネタが好きなんです。


しかし……故郷いじりは視聴者から「額面どおり」に受け取られる危険性をはらんでいます。「そうか。足立区って、砂場をほじくったら麻雀牌が出てくるのか」と。この頃はテレビ番組の一部を書き起こしだけの記事がはびこっていますから、視聴者でない第三者がその場の空気感を知らないまま誤解するケースもある。語り手の想い入れやギャグの部分はどこへやら、「足立区役所は3階から上は発泡スチロールでできている」「ゆるキャラ『アダチン』がゆるくないという理由で行政公式をクビになった」など情報だけが先行し、消費されてしまう(あ、『アダチン』の顛末はマジでした)。


いまの時代、ネタを発信する側も、受け取る側も、差別になっていないかを精査する必要があります。


■住みやすさポイント満載な魅惑の足立区


コミックエッセイ『出没! アダチック天国』『出没! アダチック天国 極*完結編(吉沢緑時 著/竹書房)は「まんがライフオリジナル」に連載された、足立区の魅力を多角度的に検証する町おこし漫画。「あげ」も「さげ」もしない、絶妙にフラットな視点で進んでゆくのが魅力です。





物語は、足立区で生まれ育った編集女史が、文京区在住の漫画家・吉沢緑時さんに「足立区は治安が悪いというレッテルをはがしたい。イメージアップにつながる漫画を描いてほしい」と打診するところから始まります。そうして吉沢さんは不思議なご縁を得て、ADACHIKU愛がほとばしる編集者に先導されながら、同じ東京23区内なのによく知らない街・足立区へ通うこととなるのです。


足立区の再評価(人によっては初評価)をうながすこの漫画『出没! アダチック天国』『同 極』、確かに読むまで知らないことばかりでした。


●東京23区内で3番目に広い。
●公園が大きくて広い。都市公園面積が23区内で3位。
●坂道が少なく、自転車移動が楽ちん。
●小中校の給食の残菜率をさげるべく「日本一おいしい給食」を目指し、効果が出ている。
●小中校で供しているおいしい給食を一般人も区役所の食堂で食べることができる。
●生鮮を扱う足立市場は水産物取扱機能が豊洲に次いで2位。
●おはじきサッカー「サブティオ」の都内唯一の公式スタジアムがある。


などなど「足立区ってこんなに先進的な街だったのか」と気づかされます。


それでいて、駄菓子屋の80円ラーメン(残念ながら70円から値上げ)、謎のB級ソウルフード「文化フライ」カフェとうたいながら大衆食堂と見まがう豚の生姜焼き定食を食べさせてくれる店、銭湯40軒近くも現存するなどなど、期待を裏切らない下町サイドの足立区ももちろん紹介。


実際、足立区は「過小評価されている」と感じます。まず交通の便のよさは東京都内で屈指。「北千住」駅は鉄道4社5路線が乗り入れる日本有数のターミナルステーション日暮里・舎人(にっぽり・とねり)ライナーが開通し、陸の孤島問題も解消しました


僕の知人にも足立区に引っ越した者がいます。彼が言うには「家賃が安い街は他にもある。けれども家賃が安くて部屋が広いとなると、東京23区内では足立区が一番いい」と。近代までほぼ全域が農耕地帯だったので、家が大きく造られているらしいんです。


僕はこの期に及んで、心のどこかにまだ「東京に仕事場を借りたい」気持ちがあります。交通利便性が高く、食糧自給率が高い、しかも物価や家賃が安い足立区は選択肢のトップです。一般的にも、このままリモートワークが進めば恵比寿や中目黒、麻布など都心部への居住に憧れる気持ちは、きっと薄くなっていくでしょう。これからいっそう足立区の需要がたかまるのでは。


■足立区を「あげ」も「さげ」もしないフラットな視線


なにより吉沢さんの視点がいいんです。ことさらにクールではない。でも、エモいわけでもない。常温で平熱。コミックエッセイって(というかエッセイって)どうしても表現が大げさになりがちなんです。けれども、吉沢さんのタッチは至極淡々。「人情」みたいな雑な概念に動じないというか、エモい美談にしないのがいい。


ハートウオーミングに展開することで反対に住民の日常を奇異に見せてしまう危険性って、あると思うんです。吉沢さんには、それがない。そして地元の人がやっている縁市を見て「同人会場ぽい」と感じる点、さすが漫画家だと膝を打ちました


この漫画は、先ごろ連載が終わりました。時系列に添って描かれるコミックエッセイですから、連載が進むとともに、街の様子も変わります。足立区の風評の原因となっていた部分がどんどん改善され、最後の方には「強引にネタにする」状態に陥っていたのだそう。2巻で完結した、大きな理由がそこにあります。


街の味がなくなったと悲しむこともできます。けれども、街の味と言える部分に軽んじる気持ちが含んでいないかを検証し、固定観念を「ぶっ壊す」のがこの漫画の役割だったわけですから、大団円ではないでしょうか。


それにしても、回を重ねていくうちに登場する人物たちがマスク着用になっていくのが、リアルだなと思うし、つらいなと感じますね……。



出没!アダチック天国
著者名:吉沢緑時
定 価:1,100円 (税込)
竹書房

足立区はヤバくない!!!!

「一緒に盛り上げて行きましょう! やるぞ! やるぞ! やるぞぉ~!」
足立区出身・ANZEN漫才公認
足立区推薦(希望)エッセイコミックス

<足立区をイメージUPさせるには…もう漫画しかありません!>

・西新井大師でヒット祈願!
・リサイクル自転車あだちゃりで足立区一周!
・夏の風物詩、足立の花火に酔いしれる!
・足立区の台所、足立市場で舌鼓
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その他、漫画で描ききれなかったこぼれ話を全力収録!!!
伝われ!この足立区愛☆
http://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/5113901



出没!アダチック天国 極
著者名:吉沢緑時
定 価:1,210円 (税込)
竹書房

足立区がも~~~っと好きになる♪

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吉村智樹