美しすぎてトロけそう! 『おいしいゼリーブック』は全国の絶品ゼリー165点が大集結
こんにちは。
ライター・放送作家の吉村智樹です。
おススメの新刊を紹介する、この連載。
第45冊目は、各地で販売されるゼリー菓子を165点(!)も収録した贅沢な一冊『おいしいゼリーブック』です。
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
■プリンブームの次は「ゼリーブーム?」
「ゼリーがきらい」。そんな人は、おそらく極めて少ないでしょう。幼い頃にハウス食品の「ゼリエース」に心をときめかせた記憶があるのでは。「まだ固まらないかな~」とワクワクしすぎて冷蔵庫を頻繁に開け閉めして怒られたり、固まったかを確かめるために表面を触りすぎて指紋だらけにしたりした日もありましたよね。
愛しきゼリー。ルビーやサファイアを思わせる幻想的な透明さは、ときに「食べる宝石」と称されます。スプーンですくうと「ふるっ」と揺れ、喉ごしは、ひんやりつる~ん。高貴な甘さ。「エロス」とさえ言える罪深き食感。ゼリーはソフトでエレガントな時間をうみだしてくれるのです。ゼリーを食べながら怒っている人に、僕は出会った経験がありません
では「ゼリーブーム」はあったのか?
2年前、2019年の今頃は空前の「プリン」ブームが到来していました。コンビニの冷蔵ラックには新食感な「とろけるプリン」と、昭和レトロふうな「固め&ほろ苦プリン」がまるでバトルをするかのように並んでいましたね。製菓メーカーは、最新派にも懐かし派にも訴求すべく、こぞってプリンの新商品開発に力を注いだのです。
当時、僕は洋菓子業界の求人サイトで仕事をやっていました。このサイトで僕は、スイーツのヒット動向を調べる記事を書いていたんです。記事を書くためにリサーチをして、驚きました。プリンの売り上げは確かに上昇していましたが、それを上回ってゼリーが猛攻しているではありませんか! 総務省統計局が調査する「家計調査年報」によると、一世帯あたりの「ゼリーの年間支出平均額」は年々上昇をし続けているんです。つまり日本は「ずーーっと、ゼリーブーム」だったんです。
■そのそも「ゼリー」ってなに?
「ゼリーブーム?」「そんなの、あったっけ?」と首をかしげる方は多いのでは。ゼリーが売れているにもかかわらずブームと呼ばれない理由は、バリエーションの広さにあります。「ゼリー」とは、水分を大量に含んでいるにもかかわらず物質の状態を保っているものの通称。「ゲル」「ゾル」などとも呼びますね。つまり「ぷるぷるしていたら、みんなゼリー」なんです。
ゼリーは概念が広い。なので原材料が豊富。ゼラチンだったり、寒天だったり。ほか、アガー、マンナン(こんにゃく粉)など食材は多種多彩。動物性があれば、植物由来もある。シュッとしたイケメンにも肉食系と草食系がいるように、見た目は似ていてもタイプはさまざま。
ぷるぷる度にも強弱があります。ストローで飲めるほどやわやわなぷるぷるがあれば、グミのように噛み応えしっかりなぷるぷるもある。バラエティに富んでいるがためにヒットを実感しにくいのでしょう。
■おそらく本邦初。全国のゼリーの名品が大集結!
みんな大好き。だからこそ、なんとも全体像を把握しにくいゼリーシーン。そんな全国各地に散らばったゼリーを、まるできれいなガラスのかけらを砂浜から拾い集めるがごとく丹念に収録した画期的な本が発売されました。それが『おいしいゼリーブック』(グラフィック社)。ゼリーだけに特化した全国ガイドブックの発売は、知るかぎり本邦初です。
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
収録されているゼリーのタイプは、広範囲、他分野にわたります。
老舗のフルーツパーラーで美術品のように鑑賞しながらいただく高級ゼリー。
喫茶店で物思いにふけりながらいただく、青春の味がするコーヒーゼリー。
果樹の生産者自らがつくりだす新鮮なフルーツゼリー(器も果物のくりぬき!)。
ワインや吟醸酒などを使ったオトナなお酒のゼリー。
この頃はやりのエディプルフラワーを使った花のゼリー。
名水の郷が生んだ「水だけゼリー」。
地元で何代にもわたって愛され続けるローカルゼリー。
和のゼリー「琥珀糖」。
テイクアウト、お取り寄せ、お持たせ、デパ地下、駅ナカ、道の駅、スーパーマーケットから果ては学校給食や駄菓子屋さんまで、全国津々浦々から揃えも揃えた魅惑の165点!
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
いや~、労作です。ゼリーはぷる~んと柔らかいですが、鉄のように熱く硬い愛がないと一冊を貫けません。おつかれさまです。完成後はきっとゼリーで固めたビールで乾杯されたのでしょう。
どのゼリーも、とにっっっかく美しい。本を冷蔵庫で冷やしてから読みたくなるほど愛らしい。プリズムのように輝くゼリーのキレイみに見とれ、なかなか先へ進めません。ページを開く指がぷるぷる震えます。食べもののガイドブックではありますが、美術書の版元から出版されたのも、よくわかります。
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
■涙ナミダのゼリー物語
そして改めて「自分はゼリーについて、なにも知らなかったんだ」と省みずにはいられません。
小学生の頃、運動会などハレの日に給食に供された三色ゼリーが実は関西ローカルだった。
オブラートに包まれたキューブタイプのゼリー(僕は勝手に仏壇お供え系ゼリーと呼んでいます)は愛知県の大工の棟梁が明治時代に発明したものだった。
サンドウイッチマンの番組でもおなじみ、宮城県民なら誰でも知っている「メン子ちゃんゼリー」は、実は経営破綻した会社の元従業員有志によって復活を遂げていた。
東京・千歳烏山には皿の形をしたパンに冷たいゼリーをのせてくれるパン屋さんがある、などなど。
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
そして、ショックな記述も。
幼い頃から大好きだった、駄菓子屋さんで売られている、ポリ容器に充填された棒ゼリーが2020年9月に終売していただなんて……。
冷やしてよし、凍らせてより、常温でよし、おいしかったよなあ~あいつ。
うぅ、涙が。
ちょっとトロみがついた涙が出ました。
ゼリーって「ハッピー!」ってテンション高いお菓子じゃないんですよね。もっとおだやかで、傷ついたり、ささくれたりした心の皮膜を優しくコーティングしてくれる、ほっとするやさしさがあるんです。「食べる宝石」であり「食べるセラピー」でもある。だから「すくう」お菓子なんだと。そんなふうに思いました。ヘンにブームにならず、ずっといてほしい友人です。
(C)グラフィック社 編集部 写真:中垣美沙
おいしいゼリーブック
グラフィック社編集部 編
定価:1650円(10%税込)
日本各地のおいしいゼリーを約165点収録。
専門店のゼリーに果物屋さんが作るゼリー、老舗喫茶店の名物ゼリー、お取り寄せできるゼリー、現地でしか食べられないゼリーなど、ゼリーづくしの一冊です。
懐かしの給食ゼリーを集めたコラムなども。
http://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=43787
吉村智樹